目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第59話 日常の変化

 魔法実技祭を終え、またいつもの日常へと戻る。

 夏が過ぎ、秋も深まってきたことで気温も大分下がり、そろそろ冬の訪れが感じられるようになった。


 制服も夏仕様から冬仕様へと変わり、この魔法学園へ通い始めて暫くの時が過ぎ去っていることを実感する。


 入学当初の私は、まだ前世の記憶を取り戻してはいなかった。

 故に、あの頃の私はザ・悪役令嬢。

 貴族至上主義で、気に食わないことがあれば何でも口にするような嫌な存在だったと思う。


 けれど私は、それが正しいと思っていた。

 私は公爵令嬢で、故に周囲を教育する側の立場であり、それが当然の行いだと思っていた。


 そんな私も、今では前世の記憶を取り戻し、乙女ゲーム『マジラブ』とは全く異なる人生を歩みだしている。

 この先私がどうなるかなんて、きっと誰にも分からない。

 けれど、今日までの積み重ねは確かに存在するし、私はただのモブキャラクターでもないのだ。


 だからこそ、これからの私は私のためこの人生を幸せに生きてみせる。

 それが、今の私の新たな覚悟となった。


「あっ! メアリー様! おはようございます!」

「ええ、おはよう」


 朝の廊下で、トーマスが朝の挨拶をしてくれる。

 トーマスと言えば、前世の私の推し。

 今見ても、やっぱり愛くるしい見た目をしているし、今ではこうして好意的に接してくれるようになったことが嬉しい。


 私は公爵家の人間で、トーマスは平民の生まれ。

 そんな身分差も、ロマンス小説によく出てくる関係性というか、私的には全然アリだったりもするのだけれど、現実はそう簡単な話でもない。


 でもそれだって、もしも今後トーマスが貴族に匹敵するぐらいの男性になったとしたら分からない。

 私が破滅を回避できたように、トーマスだってこれからの頑張り次第でいくらだって成長することが出来るのだから。


 私やトーマスだけではない、それは全ての人に言えること。

 そんな風に考えられることが、何だか楽しくて、幸せだった。


「メアリー様! ぼ、僕、メアリー様にお伝えしたかったことがあるんです」

「伝えたかったこと?」

「はい! その、こんなところで言うのもなんですけど……僕、変わります! この間の魔法実技祭で皆様のご活躍を見て、僕も今よりもっと頼れるような男になりたいって思ったんです! だから、変わりますっ!」


 突然伝えられる、トーマスの覚悟。

 具体的な話では無かったけれど、それでもトーマスの決意だけははっきりと伝わってきた。

 だから私は、そんなトーマスを応援したいと思う。

 私もトーマスに負けないよう、これからも頑張ろう。

 そんな思いを抱きながら、私はトーマスに思いを乗せて言葉を伝える。


「ええ、私も楽しみにしているわね」


 と――。


 ◇


「よう、メアリー嬢!」


 昼休みのこと、突然教室を訪れてきたのはキース。

 突然現れたキースの姿に、教室内からは黄色い声が上がる。


 こういう場面に出くわすと、やっぱりキースもこの学園の人気者なのだという事が分かる。


「何か御用でしょうか?」

「いや、別に何も。教室の前を通りかかっただけだ」

「そうですか、お声かけありがとうございます」


 用はないのかい! と心の中でツッコミを入れながらも、一応感謝しておく。

 これでもキースは上級生で、私と同じ公爵家の人間ですもの。


 とは言っても、私の中でも変化はある。

 包み隠さずに言えば、以前は私の中でキースはちょっとウザいキャラだったのだけれど、今ではそんなキースに対して随分と心を開いている自分がいるのだ。


 きっと以前の私であれば「用がないなら帰ってくださる?」ぐらい言っていたに違いない。

 そう思うと、キースがこうして私に接してくるようになったように、私自身も変わっていることを実感する。


 取り巻きの子達は、突然現れたキースの姿に見惚れているのが分かる。

 みんな相も変わらず、キースに対して憧れを抱いているようだ。


 以前はそんな周囲の反応に対して、そんなにいいか? と感じていた。

 けれど今は、私だって多少は……って、私は何を考えているんだ!?

 変なことを考えそうになり、慌てて気持ちを切り替える。


「っと、邪魔する気はないんだ。ただ顔を見たかっただけだし、俺も用があるからこれで失礼する」

「え、ええ、また……」

「おう、またな!」


 本当に顔を出しただけのキースは、そう言って去って行く。

 しかし私は、キースの最後の言葉が引っかかる。


 ――顔を見たかっただけって、どういう意味?


 その言葉の意味がどうしても気になってしまい、それから暫くキースの事が脳裏に浮かんでしまう自分がいるのであった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?