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第56話 結果

 会場では、三年生による魔法が披露されていく。

 その魔法はどれも本当に高位のものであり、流石は三年生といったところ。


 最後に登場した三年生主席であるクラークの風属性魔法は圧巻の一言で、それまでの出場者の魔法はどれも素晴らしかったが、それでもクラークの魔法は一線を画しておりこの魔法実技祭は最高のフィナーレを迎えた。


 結果は言うまでもなく、一位がクラークで、二位がキース。

 三位にはクロード様とゲールが並び、そのあとは三年生が続いてフローラは惜しくも七位という結果となった。

 やはり三年生の主席ともなると、その魔法のスキルは一段階違った。


 それでもフローラにゲール、そしてクロード様やキースに限らず、今日出場された皆さんの魔法は 本当にどれも素晴らしく、純粋に今日のお祭りを楽しむことができた。


 昨日までの私は、自分にはこの魔法実技祭へ出場する才能なんて無いと思っていた。

 けれど今の私は、来年はみんなと同じステージへ立ちたいと思っている。

 それは他でもない、今日活躍されたみんなの魔法を見て、私も強く憧れを抱けたからだ。


 勿論それは、とても険しい道のりであることは分かっている。

 でも、前世でこんな言葉があったのだ。


 諦めたら、そこで試合終了だと――。


 願うのは自由。努力を重ねるのも自由。

 そう、全ては自分の意思が第一歩。

 私がこの学園へ通う、新たな目標が生まれたことを素直に喜ぼう。

 でも今日は、出場された皆様への感謝と労いが先。


 まだ余韻に浸っていたいけれど、実行委員の私は来賓の皆様のご帰宅の案内という最後の仕事を務めることとなった。


「メアリーさん、今日はお疲れ様。良いものが見れたよ」

「ありがとうございます」


 最後に王家の皆様を送り届ける際、クライス様が声をかけてくれた。

 その言葉が嬉しくて、私も感謝を伝える。


「来年は僕もここへ入学するからさ、その時は僕が優勝するのを見守っていてね」

「ええ、楽しみにしておりますわ」


 今日の魔法を見ても、クライス様の自信は揺るがなかった。

 それだけクライス様も、今日まで努力を重ねてきたということ。

 であれば、私はそのお言葉どおり来年の魔法実技祭を楽しみにすることにした。

 願わくば、私も観客ではなく同じ出場者として、クライス様ともライバルになれていたら嬉しい。


「まぁでも、みんな凄かったね。これは僕も、おちおちはしていられなくなったかな」


 クライス様の中でも、今日の魔法実技祭はいい刺激になったのだろう。

 自信とやる気に満ち溢れた表情を浮かべるクライス様は、普段の可愛い感じとは異なり、完全に同世代の男の子であった。


「おお、クロード。今日はご苦労であった」

「ありがとうございます、父上」


 帰りの馬車へ送る前、国王様のお見送りにクロード様も姿を現す。

 残念ながら優勝こそ叶わなかったが、それでも一年生ながら三位に輝くのは凄いこと。

 ましてや、今年は例年以上の揃いだったのだ。

 その価値は、例年以上に高いと言えるだろう。


 それでもクロード様は、全然満足されていないご様子だった。

 王家の方々のお見送りを終えると、クロード様は少し気まずそうに私の元へと近づいてくる。


「……その、なんだ。負けるつもりは無かったんだが……」

「え、ええ! 一年生で三位は凄いことですわ!」


 きっと私に勝利宣言をされたからこそ、結果が伴わないことに引け目を感じているのだろう。

 しかし、一年生ながら三位入賞は引け目を感じる結果ではないため、私は本心から褒めたたえる。


「……だが、負けは負けだ」


 それでもクロード様は、自分に納得がいっていない様子だった。

 握りこぶしを作り、珍しく感情を露にしている。


「そうだな。俺が二位で、クロードが三位だ」


 するとそこへ、キースが割って入ってくる。

 今回の魔法実技祭では、キースが二位でクロード様が三位。

 つまりこの二人の間に置いては、明確な順位差が生まれていた。


「……喧嘩を売っているのか?」

「いーや、そういうわけじゃないさ。俺だって、優勝できなかったわけだしな」


 そう言ってキースは、クロード様から私へ視線を移す。


「というわけで、今回は優勝が叶わなかった。だからメアリー嬢、この間の話はまた今度にさせてくれ」


 この間というのは、この魔法実技祭で優勝したら時間をくれと言っていた事だろう――。

 何が目的なのかは分からないけれど、キースがそう言うなら私も何も言うことはない。

 私が頷くと、キースはいつもと変わらない様子で「んじゃ、よろしくぅ!」と言葉を残し立ち去って行った。

 でもその表情には、どこか悔しさが滲み出ていたような気がするのは、多分気のせいではないのだろう。


 キースもクロード様も、それだけ今回の魔法実技祭には本気で臨んでいたということ。

 どれだけ周囲から人気を集め、何もかも手にしているかのような恵まれた存在だろうと決して失わない向上心。

 そんな二人の事を、私は素直にカッコいいなと思えた。


「……来年こそは、絶対に負けない」


 クロード様も、去り行くキースの背中を見つめながら悔しさの混じった言葉を漏らす。

 それは紛れもない、クロード様の決意だった。


「……ええ、来年も必ず応援しておりますわ」


 だから私も、本心から答える。

 私の中では、クロード様も決して負けていなかったという気持ちとともに――。


 そんな私の返事に対して、クロード様は大会後初めての笑みを浮かべてくれたのであった。



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