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第55話 大魔法

 一年生の発表を終え、続いて二年生の魔法披露が行われる。

 私達よりも一年多くここで学んできた先輩達だ、みな積み重ねてきた知識と経験により、一年生よりも高位の魔法を扱うことができるというのが通例だ。


 実際、この魔法実技祭へ出場している二年生も相当レベルが高く、私から見れば全員凄いの一言だった。


 ……しかし、それでもフローラ、ゲール、そしてクロード様の魔法と比べると少し見劣りをする。

 それは他でもない、出場している二年生自身が一番よく分かっているのだろう。

 それぞれ高位の魔法を披露するも、どこか悔しそうな表情を浮かべている。


 魔法実技祭事態はお祭りイベントだけれど、出場者のみんなは当然真剣勝負なのだ。

 故に、負けを認めるしかないことが悔しくないはずもない。

 でも忘れないで欲しい、このお祭りに参加できているだけで凄いことなのだと――。


 そんな二年生の発表も、最後の一人となる。

 最後に出てくるのは、勿論二年生の主席であるキース・アークライト。


 これまでの出場者とは異なり、自信に満ち溢れる表情で登場したキースは、観客席へ集まったみんなへ誇示するように高々とその右手を掲げる。

 そんなキースに対して、会場からは期待の高まる歓声が沸き起こる。


 ここへ集まっている人達もまた、去年のキースの活躍を目の当たりにしているのだ。

 去年は惜しくも三位に終わったが、それでも一年生ながら三位入賞したのは異例であり、だからこそ今年は更なる期待が高まっている。


 キースは会場脇にいる私を見つけると、自信に満ち溢れた表情で軽く手を振ってくる。

 これだけ注目を浴びているというのに、緊張感があるのか無いのかよく分からないキースだけれど、私も手を振り返しておく。


 今日キースは、この魔法実技祭で優勝したら私に話があると言っていた。

 それだけキース自身、優勝には自信があるのだろう。

 火属性魔法が得意なキースは、去年は巨大な火の玉を生み出していた事を鮮明に覚えている。

 もし対人であれば、どんな生物も塵すら残さず燃やし尽くされてしまうであろう大魔法。

 それが一年生の時のキースだから、今年のキースは更に進化しているのは間違いない。

 元々魔法は才能に依存する割合は大きいが、その才能を持つ人間が研鑽を積めば、当然更なる才能を開花させることができる。

 成長期である今こそが、己の実力を伸ばす最大のチャンス期間だから。

 そのうえで、キースの成長速度は凄まじく、将来は公爵家を継ぐ立場としても注目が高いのだ。


「んじゃ、俺も負けらんねーからな。今日は手加減無しだ!」


 会場のみんなが固唾を飲んで見守る中、キースは自身の身体に魔力を溜め込む。

 この魔力の溜め込み自体、並大抵の者では扱うことのできない大技。

 私なんかが真似しようにも、すぐに魔力が不安定になり飛散してしまうのだ。

 そもそも元の魔力も相当量必要であり、扱うスキルと魔力量の両方を有しているキースはその時点で超人。


「はああああああ!!」


 雄叫びを上げるキースの周りには、赤い魔力の波紋があふれ出す。

 その様はさながら、前世で見た某人気アニメに登場するスーパーサ〇ヤ人のようで、このままキースも何かに変身してしまいそうだ……。


 そうして魔力を全身に溜め込んだキースは、両手を天へと掲げると魔法の詠唱を開始する。


「――いくぞ。全て爆ぜよ! インフェルノフレイム!!」


 詠唱と共に、大きな魔法陣が出現する。

 そして魔法陣の中から、巨大な炎の柱が出現する。


 去年の火の玉も圧巻だったが、これはそれを遥かに超える大魔法だった。

 凄まじい轟音と共に、天高く燃え上がる炎の柱。

 会場全体が炎に照らされ、離れていても肌に熱さを感じるほど強力なその魔法の威力に、ここへ集まった全員が釘付けとなる。


 火属性魔法と言えば、ある意味一番ポピュラーで使い手も多い魔法だ。

 小さなところでは、料理のための火力であったり、暗闇を照らす灯りなどに用いられるし、戦闘でも有用である事から私はこれまで数多くの火属性魔法を見てきた。


 それでもキースのこの魔法は、正しく大魔法と呼ぶに相応しいものだった。

 学生の域を超えて、軍に属する人間でもこれほどの魔法を扱うことができるだろうか……。

 それほどまでに、キースの放った魔法はシンプルながらも強力なものなのであった。


 こうして二年生の最後は、キースによる大魔法のおかげで大盛況となり、残すは最上級生である三年生を残すのみとなった。


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