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第16話 共通点

 ――あのゲールが、一目惚れ!?


 ふんわりと微笑みながら、いきなりノールックで凄いことをぶっこんでくるゲール。

 マジラブにおける攻略最難関キャラが、まさかこんな初対面の私へ自分の思いを打ち明けてくるなんて……。

 マジラブでのゲールは、攻略後に実はずっと前からヒロインへ想いを寄せていたことを打ち明けていたことを思い出す。

 でもまさか、それがこんなにもチョロいなんて思いもしなかった。

 というか、このチョロさで攻略最難関キャラってどういうことなのって感じだ。

 これもこの世界線ならではの変化なのでしょうか……?


 そもそもゲールは、私にそれを打ち明けてどうしたいのだろう?

 元々ミステリアスな性格をしていることもあり、全くゲールの意図が読めない……。


「そ、そうなのね……」


 とりあえずここは、当たり障りない返事をしておく。

 まずは会話をしないことには、ゲールが何を言いたいのか分からないもの。

 考えるな、感じろってやつだ。


「そうなのです。――っと、いけない。自己紹介がまだでしたね。僕の名前はゲール・ノイナーと申します」

「……あなた、名乗ってもいない相手に随分なカミングアウトをするのね」

「あはは、たしかに。でも、メアリー様でしたら大丈夫かなって思いまして。ところでメアリー様は、読書がお好きなので?」

「え? ……ああ、違うの。実はただの時間つぶしに、少し本でも読んでみようかなと思っただけです」

「なるほど。でしたらその本、少し堅苦しくないですか? あちらに、ロマンス小説などもございますよ?」

「知っているわ。でも今日は、人を待っているので」


 私の説明に、納得するように頷くゲール。

 ミステリアスだが、こういうところの理解はあるみたいで良かった。

 しかし何というか、衝撃告白をしたかと思えば、今度はあまりにも普通過ぎる世間話。

 そのあまりの温度差に、思わず風邪を引いてしまいそうになる。


「では、普段読書はあまり?」

「いえ、読みますわよ。とは言っても、先ほどおっしゃったロマンス小説を少々嗜む程度ですけれどね」


 ……嘘です。結構読んでいます。

 記憶を取り戻してからの私は、それはもう暇さえあれば自室でロマンス小説に読み耽っているのだ。

 ただ相手は一応男性。私にだって、恥じらいの一つや二つあるからオブラートに包む。


「それは良かった! 僕も好きなんですよ、ロマンス小説。面白いですよね。最近だと『月明りの下、二人は密会する』という作品がすごく面白くて」

「まぁ! それ、わたくしもつい最近読みましたわ!」


 うそ、これは意外!

 まさかゲールも、あの神作を読んでいたなんて!

 まさかの展開に、内なるオタク心が疼きだしてしまい、思わず早口になってしまう。


「あの、月明りの下で二人が再開するシーンは最高でしたわよね! それまでずっとすれ違い続けてきた二人なだけに、まるで二人が運命に引き寄せられるかのように再会できたあのシーンが凄くドラマティックで!」

「ああ、分かります分かります! あのシーンは、思わず胸が熱くなってしまいました!」


 わぁー! わぁわぁわぁ!!

 まさかこうして、対面で大好きなロマンス小説のお話ができる日がくるなんて!


 最早、ゲールからの衝撃告白がどうでも良くなってしまうほど、気持ちが一気に高まってしまう。

 それから私たちは、ロマンス小説トークに花を咲かせる。

 この世界で、こうしてオタク趣味を共有できる相手ができるだなんて泣けてくる――。


 私にとってのゲールが、ただの攻略対象キャラからオタク仲間へと昇格する。

 それは恐らくゲールも同じで、私との会話に楽しそうに微笑んでくれている。


「っと、随分話し込んでしまいましたね。すみません、僕はそろそろ行きます」

「あら、そう? って、本当だもうこんな時間。時間を忘れて、つい話し込んでしまったわね。でもおかげで、楽しい時間が過ごせましたわ」

「僕もです。是非、またお話いたしましょう」

「もちろんですわ」


 どうやらゲールは、よくこの図書館を利用しているらしい。

 だからまた今度、ここでロマンス小説トークをしようと約束をしてゲールは去っていく。


「メアリー様! 大変お待たせいたしました!」


 そこへ、入れ替わるようにフローラが慌てて駆け寄ってくる。

 思わず忘れてしまうところだったけれど、今日ここへはフローラとの貴族勉強会をしに来ていたことを思い出す。


「気にしないで、大丈夫よ」

「本当ですか? 良かったです!」


 安心するように微笑むフローラ。

 こうして見ると、フローラも随分と変わったことに気が付く。

 貴族社会の礼儀や知識を身に着けたことで、最近はフローラへ対するネガティブな話題も耳にしなくなってきた。

 だからこの勉強会自体、もう不要なのかもしれない。


 それでも、私もフローラもこの会を止めようという話はしない。

 だってお互いに、こうして集まれる理由があることが嬉しいから。

 最初は怯えて自分の殻に閉じこもっていたフローラも、最近では学園であった楽しい話を聞かせてくれるようになった。

 そのことが私も嬉しくて、今はお勉強会からフローラのお悩み相談の場になっている。


「えっと、さっきいらした方は、お知り合いですか?」

「え? ああ、そうね。さっきここで、知り合いましたの」

「そうなのですね」


 っと、いけない。

 そういえば、ゲールはフローラのことが好きだと言っていたのだ。

 他人の恋愛へ勝手に干渉するのはご法度、あまりフローラへ変な情報を与えないように気を付けないと……。

 しかしフローラは、どこか面白くないような作り笑いを浮かべているように見えた。


 まぁ何はともあれ、今日もこうしてフローラと貴族勉強会もとい雑談を楽しむ。


 もうすぐ学園も夏休みに入る。

 今年はどんな夏が待っているのだろうかと、例年以上に楽しみな自分がいるのであった。



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