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第7話 作戦その2

 作戦その1は、残念ながら失敗に終わってしまった。

 だって実物のトーマスが、まさかあんなにも尊いだなんて思わなかったのですもの……。


 しかし、トーマスの視界に映るという目的は達成できた。

 きっとトーマスだって、この私の美貌に見惚れていたはず……そういうことにしておこう、うん。


 というわけで、一旦仕切り直し。

 やっぱり、間接的にじりじりと近づくなんて日が暮れてしまうし、何より私の柄ではなかった。

 幸いトーマスに認知してもらうことは成功したであろう今、次に私が取るべき作戦を発表しよう。


 題して――『もう直接、声かけるしかないっしょ大作戦』!!


 ドンドンドンドン! パフパフパフパフ!


 はい。というわけで作戦その2。

 結局はシンプルイズベスト、当たって砕けろだ。

 ……いや、砕けちゃダメだけど。


 やっぱり、それでこそ私だったのよ。

 この公爵令嬢、たかが平民相手に怖気づいてどうする?

 そもそも、向こうから私にアプローチなんてできるはずがないのだから、結局私から行くしかなかったのよ。


 というわけで私は、まずは近づくためにもトーマスの行動を知ることから始める。

 トーマスが普段どこへ行くとか、誰と仲がいいとか、まずはそういう情報収集をしつつ隙あらば声をかける。

 これこそが、最も着実で確実なアプローチ。


 まずは私という存在を知って貰ってから、そのうえで隙を見て私から声をかける。

 だからこの作戦その1とその2は、元々一つなのだ。


 なんてことを考えていたら、早速廊下を歩くトーマスを発見!

 なんて運が良いのでしょう!

 移動教室だろうか、教科書を胸元に抱えながら教室から出てくるトーマス。


 一瞬横顔が見えただけで、今どんな表情をしているのかはよく分からない。

 けれど、歩く速度は周囲に比べて遅く、どことなくその後ろ姿は弱々しく見えた。


 ――そうだった、完全に失念していたわ……。


 その後ろ姿に、私はトーマスが何故マジラブの中に登場するモブキャラクターだったのかを思い出す。

 それはクロード様ではない、別のキャラクターを攻略中に発生するあるイベント――。


 大人気乙女ゲーム『Magic Love』――略してマジラブ。

 ヒロインのフローラは、周囲に馴染めずいつも一人。

 そんなフローラ以外にも、実は同じクラスに一人でいることの多い男の子がいた。


 その男の子こそが、トーマス・ワーグナー。

 自分も友達がいないけれど、フローラはそんなトーマスのことを少し気がかりに思っていた。


 そしてある日、フローラは偶然目撃してしまうことになる。

 同じクラスの貴族達から、トーマスがいじめられている現場を……。


 それを知ったフローラは、とあることがキッカケで親しくなった攻略キャラクターに相談を持ち掛けることで、無事にそのいじめ問題を解決することとなる。


 というのが、マジラブ内で発生するトーマスが登場するイベント。

 しかし、もしもこの世界がマジラブの世界だとするならば、一つ大きな懸念点が存在することになる。


 それは先日、私がクロード様からビンタを受けたということだ。

 私、メアリー・スヴァルトがクロード様からビンタをされるのは、クロード様ルートを選択すると物語の中盤で発生するイベントのはず。

 だから今、マジラブでの物語の進行上フローラはクロード様の攻略ルートに入っているということになる。


 つまりは、あのトーマスの問題を解決するイベント自体、この世界線では発生しないということ……。


 ――今更こんなことに気が付くなんて、ダメダメね。


 私はずっと、問題が無事に解決されるものだとばかり考えていた。

 しかし現実は、そうではない。

 フローラが別の誰かを好きになった場合、トーマスを救ってくれる存在が現れないのではないか?

 そんな可能性に、今更になって気が付くなんて……。

 情けない……ただただ、自分が情けなくなってくる……。


 しかし、この場合はどうしたら良いのだろうか?

 フローラがクロード様攻略ルートに入っている今、誰かがトーマスを助けてくれるのだろうか……?


 ――いえ、そもそも本当にクロード様ルートなの?


 そんな保証だって、どこにもなかった。

 だってこれは、マジラブではなく現実世界なのだから――。


 それに、トーマスを助けてくれる攻略キャラクターの存在も気になる。

 その人物とは、私も知っているし何度か会話をしたこともあるお方。


 まずはフローラが、その彼とどんな関係にあるのか。

 それを確認するのが先決だろう。


 ということで、私の作戦は一時中断。

 まずはその攻略キャラが、今フローラとどういう関係なのかについて確認することにした。


 しかし次の日、事態は思いもよらぬ方向へと発展していくのであった――。


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