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第53話 刑務官

俺は刑務官をしているんだけど、上司の命令で執行担当にされたんだよね。


あれだよ。死刑執行のときにボタンを押すやつ。

いや、本当に勘弁してほしい。


別に執行担当を悪く言うってわけじゃないんだけど、俺には無理って話。

ボタンが5個あるから、誰が『そのボタン』を押したかわらかないようになっているんだけど、それでも俺には荷が重い。


人を殺したかもしれないなんて、たとえ可能性だったとしても耐えられる自信がない。

先輩とかに話を聞いたら、執行担当になるのなんか、全体の0.1パーセントくらいって話だよ。


あーあ。なんでそんなのに当たっちまうかな。

俺って昔から、変なところで運がいいというか、悪い。


なんとか代わってもらえないかと思って、同僚とかに頼んでみたけどダメだった。

こうなったら、当日は体調不良で休むしかない。

と、思っていたら上司に「当日休んだら、どうなるかわかるな?」と念を押されてしまった。


手当も出るし、なんなら俺がしばらく晩飯を奢ってやると上司から言われたけど、逆に俺が奢るから代わって欲しいくらいだ。


執行の前の日は、一睡もできなかった。

ウトウトしては、自分が押したボタンで執行されるという夢を見て起きる。


本当に俺は気が小さい。

よく刑務官になれたもんだと自分でも思う。


そして、当日。

ギリギリのところで俺はあることを閃いた。


それは『押したフリ』をするというものだ。

そうすれば、俺は確実に執行したとはならない。


良かった。

さすが俺。ナイスだ俺。

ギリギリでナイスな名案が浮かぶなんて。

自分で自分を褒めてやりたい。


そして、ついにボタンを押すように合図が出る。


俺はボタンを押したフリをした。


すると、もう一回押すように指示が出た。


終わり。














■解説

もう一度押すように指示が出たということは、執行がされなかったということになる。

つまり、語り部が『執行ボタン』だった。

語り部は100パーセント執行したくないと思い、不正をしたが、逆に100パーセント自分が執行することになった。

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