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第52話 指

俺ん家は農家なんだけど、昔から何かとよく手伝わされていた。




大規模じゃなくて、家族でやるくらいの小さい規模だ。


繁忙期でも手伝いの人やバイトを雇うことなく、全部、家族だけで乗り切ってた。


だから、当然、俺もそのときは無理やり手伝わされてたわけで。




中学まではそれが本当に嫌で、よく親に「バイトを雇えばいいだろ」と言って反抗していた。


だけど、そのたびに「じゃあ、あんたの小遣いを0にして、その分で雇う」と言われて、何も言えなくなった。




高校に行くようになってからは、俺も周りも繁忙期は家の手伝いがあると割り切ってしまっていた。


繁忙期になると周りも気を使って遊びには誘ってこなくなった。




で、その頃になるとおじいちゃんが、そろそろ草刈機を使っての作業をやってもらうと言い出した。




ただ、この草刈機は危険で、下手をすると指を落とすなんてことも珍しくないとのことだ。


ゾッとする俺を見て、おじいちゃんが「大丈夫だ。家族全員、指を落としてる奴はいないだろ?」と言ってきた。




でも、「怖いという思いは決して忘れるんじゃないぞ」とも助言された。


だから、絶対に教わった使い方を破ることはしないと心に誓ったものだ。




だけど、どんな作業にも必ず慣れというものが存在する。


俺もその例に洩れず、面倒くさい手順を飛ばすこともするようになった。




そんなある日。


いつものように草刈機を使っていると、地面に指が落ちているのを見つけた。




小指だった。


切れ口がスパッと綺麗な断面になっている。




それを見て俺は血の気が引いた。




気を付けて作業しよう。


この日から俺はいくら面倒くさくても、手順を飛ばすことはしなくなった。


終わり。













■解説

語り部の家は農家だが、作業は必ず家族だけでやっている。


そして、家族全員、指を落としている人間はいない。


また、「綺麗な断面」と言っていることから、その指は「真新しい」ということである。


では、語り部が見つけた指は、一体、誰のものなのだろうか。

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