俺ん家は農家なんだけど、昔から何かとよく手伝わされていた。
大規模じゃなくて、家族でやるくらいの小さい規模だ。
繁忙期でも手伝いの人やバイトを雇うことなく、全部、家族だけで乗り切ってた。
だから、当然、俺もそのときは無理やり手伝わされてたわけで。
中学まではそれが本当に嫌で、よく親に「バイトを雇えばいいだろ」と言って反抗していた。
だけど、そのたびに「じゃあ、あんたの小遣いを0にして、その分で雇う」と言われて、何も言えなくなった。
高校に行くようになってからは、俺も周りも繁忙期は家の手伝いがあると割り切ってしまっていた。
繁忙期になると周りも気を使って遊びには誘ってこなくなった。
で、その頃になるとおじいちゃんが、そろそろ草刈機を使っての作業をやってもらうと言い出した。
ただ、この草刈機は危険で、下手をすると指を落とすなんてことも珍しくないとのことだ。
ゾッとする俺を見て、おじいちゃんが「大丈夫だ。家族全員、指を落としてる奴はいないだろ?」と言ってきた。
でも、「怖いという思いは決して忘れるんじゃないぞ」とも助言された。
だから、絶対に教わった使い方を破ることはしないと心に誓ったものだ。
だけど、どんな作業にも必ず慣れというものが存在する。
俺もその例に洩れず、面倒くさい手順を飛ばすこともするようになった。
そんなある日。
いつものように草刈機を使っていると、地面に指が落ちているのを見つけた。
小指だった。
切れ口がスパッと綺麗な断面になっている。
それを見て俺は血の気が引いた。
気を付けて作業しよう。
この日から俺はいくら面倒くさくても、手順を飛ばすことはしなくなった。
終わり。
■解説
語り部の家は農家だが、作業は必ず家族だけでやっている。
そして、家族全員、指を落としている人間はいない。
また、「綺麗な断面」と言っていることから、その指は「真新しい」ということである。
では、語り部が見つけた指は、一体、誰のものなのだろうか。