俺はまさに、人生の絶頂だった。
娘が生まれ、事業も成功し、まさに順風満帆だ。
ただ、問題があるとするなら、事業が上手くいきすぎて、日々、世界中を飛び回っていてあまり家族と会えないくらいだろうか。
そして、今日も飛行機で国をまたいで移動する。
天候は晴れで、事故なんか起こる要素はまるでなかったはずだった。
しかし、俺は今までで運を使い切ってしまったのだろうか。
機体の不具合で、飛行機が墜落してしまった。
味わったことのない恐怖。
墜落の瞬間まで、頭の中は家族のことでいっぱいだった。
家族の元へ帰りたい。帰れれば、他はどうでもいい。とにかく帰りたい。
それだけを願い続けていた。
気付くと、俺はどこかの浜辺に流れ着いていた。
どうやら、俺の運もわずかながら残っていたらしい。
しかし、体を強く打ってしまったからなのか、全く体が動かない。
そんなとき、近くを通りかかった子供が大声を上げて走っていく。
しばらくすると、大人を連れて戻ってきてくれる。
俺を助けてくれた男は、俺が飛行機事故に遭ったことを調べ上げてくれた。
「私が、家に連れて行ってあげましょう」
助かった。体が動かない俺は、この男の献身的な好意に感謝してもしきれない。
車に乗り、家へと向かう。
見慣れた街並みなのに、どこか懐かしい感じがする。
そして、ついに俺の家へと着いた。
男はインターフォンを押す。
しばらくすると、初老の女性が家から出て来た。
どこかで見たような気がするが、見覚えはない。
すると初老の女性は涙を流して、こう言った。
「おかえりなさい。パパ」
終わり。
■解説
語り部の男は飛行機の事故で亡くなっている。
浜辺に打ち上げられたのは、語り部の頭蓋骨。
子供が声を上げて走って行ったのと、体が動かないというのもそのため。
浜辺に打ち上げられる間に、70年以上経ってしまっていたということになる。