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第21話 旗を振る男

私が住む村は小さく、さらに過疎化が進んできている。

この前、1つが閉校になり、ついに村に小学校は1つになってしまった。


こんな小さな村でも、悲しいことに事件は起こる。

子供の連れ去りだ。


犯人から何の連絡もないところから、金銭目的ではないようだ。

連れ去られたのは小学2年生の女児。


犯人が捕まっていないということもあり、親たちがしっかり監視していこうという話になった。

まず、生徒たちの登下校のときに、持ち回りで旗振りをすることが決まる。


私は仕事で忙しかったが、子供に何かあったらと考えると、参加せざるを得なかった。

しかも、うちは2人の子供がいる。

小学4年生と小学1年生だ。


つまり、長女の親としての当番と次女の親としての当番が回ってくるということだ。

最近は、あまり子供を作らないとのことで、子供が2人いるのはうちだけだった。

周りの家庭はみんな一人っ子ということになる。

なので、私だけが他の親より多く順番が回って来るように感じるが、文句を言うわけにもいかない。


そんな旗振りをする中で、凄く熱心に頑張っている人がいた。

中年というよりは、やや初老といった感じだろうか。

いつも優しそうな笑顔を浮かべて先導する姿は、子供たちにも大人気だ。


そして、いつも一緒の当番になることから、よく話すようになった。

何気ない世間話や、学校の行事の話、果ては誰と誰が不倫しているとか、そんな話をして仲良くなっていった。


さすがに私生活で会うことはなかったが、村の中で1番親しいのではないかと思うくらいだ。


親たちが旗振りをしているおかげか、再び事件は起きることはなく、やがて旗振りの当番も止めることとなった。

そして、何事もなく、下の子供も無事に卒業した。


それから数年後。

また、連れ去り事件が起こった。


そこで、再び、旗振りの当番が始まったらしい。

懐かしいなと思いながら、道を歩いていたら、あの人が旗振りをしていた。

何年も会っていなかったが、私たちはあのときと同じように会話を交わした。

久しぶりにあった友人との会話は、嬉しさと懐かしさを感じさせた。


そして、家への帰り道。

私はあることに気づいて、警察に通報した。


終わり。









■解説

この村で2人以上の子供がいるのは語り部のみである。

また、語り部の次女は当時、小学1年生。

その次女が小学校を卒業しているはずなのに、この初老の男が旗振りをしているのはおかしい。


子供がいたとしても、卒業しているはずである。

また、2人以上の子供がいるのは語り部のみのはずで、他の親よりも多く当番が回って来ると言っているのに、その語り部と同じく旗振りの当番が来るはずがない。


つまり、この初老の男は「子供の親ではないのに旗振りをしている」ことになる。


……連れ去り事件で狙われているのは小学生ということと、この初老の男は子供たちに人気があることから、連れ去りの犯人は初老の男である可能性が高い。

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