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第6話 彼女との思い出

俺は学生の頃、結婚を約束した人がいた。


その子のことは本当に好きで、お互い、成人を迎えたら結婚すると疑いもしなかった。

周りにも公認のカップルみたいな感じで、弄られることもないくらい、自然に付き合っていた。


そんなある日。

彼女が死んだ。


目撃者によると、階段から足を滑らせて落ちたのだという。


ショックだった。

まるで、自分の半身を失ったような感覚だった。 


彼女がこの世を去って4年。

あれから正直、自分がどう生きてきたのか覚えていない。

ただ単に生きていただけ。

俺の魂は彼女と一緒に死んでしまったのだとさえ思っていた。


それでもいい。

いっそ、彼女の元へ行こうと何度も考えた。

そんな生活の中で様々な人と出会いもあったが、心を動かされることはなかった。


きっと俺はこのまま、誰のことを愛すこともなく、彼女を想ったまま最後を遂げるのだろう。

そう信じていた。


そんな抜け殻のような俺は、ある女性と出会った。

彼女は献身的に、俺に尽くしてくれた。

どんなに拒絶しても、俺に優しく接してくれる。


俺は彼女に、好きだった人のことは話していない。

それなのに、俺の心の傷を探ることなく、普通に隣にいてくれる。 


いつしか、彼女が俺の隣にいることが自然なことになった。

いつの間にか、笑うことがある自分に気づいた。

彼女と一緒なら、俺はこの先も、前を向いて歩いて行けるのではないのだろうか。


もう心に区切りを付けよう。

今度は彼女を幸せにしよう。


そう、心に誓い、俺は彼女に告白した。

すると彼女は5年の恋がようやく実った、とほほ笑んだ。 


全部話そう。

亡くなった、かつての俺の半身であった彼女のお墓の前で。


彼女が亡くなって、初めての墓参り。


少し、気持ちが複雑に騒めく中、彼女のお墓を探す。

そんなとき、隣を歩く彼女がこういった。 


「あ、ありましたよ。ここです」


俺は彼女との結婚を破棄し、一生一人で生きていこうと決意した。


終わり。









■解説

語り部は今の彼女に、昔に亡くなった彼女の話をしていない。

なのに、今の彼女は「墓を見つけることができた」のはなぜか?

つまり、今の彼女は「昔の彼女の名前を知っていた」ことになる。


また、彼女が亡くなったのは「4年前」で今の彼女は「5年の恋」と言っていることから、彼女が亡くなる前から、語り部の男のことを好きだったことになる。


さらに、亡くなった彼女が亡くなった際に、「目撃者」によると、階段から落ちたと言っていることから、今の彼女が階段から突き落としたという可能性もある。

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