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第2話 安全なマンション

今の世の中、個人情報というのはとても重要視される。


俺も以前、個人データが洩れて、ストーカー被害に遭ってかなり大変な思いをした。

顔も知らない人間に付きまとわれるというのは、本当に怖かった。

だから、セキュリティー面がしっかりとしたマンションを選んだんだ。


そのマンションはかなり徹底されていて、住人同士でさえも、個人的なことがわからないようにしてある。


住人同士が集まるなんてこともしないし、顔を合わせても雑談どころか挨拶もしない人が多い。

郵便物に関しても、しっかりとボックスには鍵がかかっているし、何が届いたかも、外からは絶対に見えないようにしてある。

それに、エレベーターでさえも、外からはどこに停まったかもわからないようにしてある。

つまり、その住人がどこの階に住んでいるかも、極力わからないように工夫しているというわけだ。

それに、このマンションには入っている人が少ないのか、エレベーターで一緒になることもほとんどない。


他の人からは、逆に怖いだの、仲がギクシャクしそうと嫌な顔をする人も多い。


けど、このマンションに来るってことは、俺と同じように、他の住人と関わりたくない人ということなのだから、これはこれでいいと思う。


実際、俺も、快適に暮らせている。


このマンションに来てから数ヶ月が経った頃のことだ。


俺は毎朝8時に、出勤のために8階からエレベーターに乗り、1階まで降りるのだが、5階から乗る女の人と一緒になるということが多くなった。


最初は挨拶もしなかったが、何回か顔を合わせることで、挨拶くらいはするようになっていた。

まあ、相手が若くて美人っていうのもあったんだけどね。


それからは、毎朝、彼女と顔を合わせることが少しだけ楽しみになっていた。

…挨拶以外は特に会話もしないのだけど。


あわよくば、帰りのときも一緒にならないかな、と期待したけれど、俺は帰宅の時間がかなりバラバラだったから、一緒になることはなかった。


そんなある日の水曜日。


俺の会社には未だに、ノー残業デーというのが残っていて、水曜日だけは早く帰れる。 


いつもすぐに家に帰っていたが、その日は何となく、外食をしてから帰った。


マンションについて、郵便物を取ろうとボックスを開けるとそこには異常な光景が広がっていた。 ボックス内の物が黒焦げになっていたのだ。


すぐに警察と消防を呼んで、検証をしてもらったところ、俺宛に送られた郵便物に、時限式の小型の爆発物が入っていたらしい。


もし、外食せずにそのまま帰っていたら、確実に爆発に巻き込まれていただろう。

その爆発で死ぬことはなかっただろうが、下手をすれば火事になる可能性があったそうだ。


誰かに恨まれているのだろうかと悩みながら寝て、次の日のこと。


朝、エレベーターであの女の人に会った。


いつも通り、挨拶をした後、彼女はこう言った。


「昨日は大丈夫でした? 8階でボヤ騒ぎがあったんですよね?」



俺はすぐに引っ越す決意を固めた。


終わり。











■解説

女はいつも、「5階から乗る」ことと、「帰りは一度も一緒になったことはない」ことから、主人公がどこの階に住んでいるかがわからないはず。

(朝は1階のボタンしか押されていないから、主人公がどの階から乗ったかはわからない)

また「ボヤ騒ぎがあった」と言っているのに、「8階で」と言っていることから、警察や消防が来た時には、そこにはいなかったことがわかる。


それなのに、ボヤになるようなことがあったと知っているということは、彼女が郵便物を送ったことになる。


さらに、時限式というところから、水曜だけはノー残業デーで早く帰ることも知っていたということになる。

つまりは、その女は男が引っ越すきっかけとなったストーカーである可能性もある。

(女とエレベーターで会うようになったのは、男が引っ越してから数ヶ月後ということからも、女が『後から』マンションに来たということも考えられる)

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