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第80話 大きな始まり

 一通り準備は終わって、後は戦いを待つだけになった。俺たちは、スコラを迎え撃つために動いている。


 ベンニーア領から攻め込もうと思えば、どうしても攻略しないといけない砦がある。そこを、決戦の場にする。俺たちは、まず砦へと向かった。


 総大将は俺、ミリアが大まかな指揮を取り、バーバラが独自の部隊で動く。そんな構成になった。結局のところ、細かい連携には期待しない方が良いだろう。とはいえ、お互いに協力はできるはずだ。


 俺の隣には、常にアスカが控えている。相変わらずの無表情だが、少しは気合いが入っているような気がする。きっと、俺を守るために全力を尽くしてくれるのだろう。そう思えた。


 備えとして、イリスもいる。転移をどう使うのか。そもそもイリスをどこまで信用するかが鍵になってくるだろうな。視線を向けると、楽しそうにしていた。


 そして、目的地である砦。そこで、しばらく待っていた。斥候を送り、スコラの動きを確認しながら。


 予定通りに、スコラは俺たちの下へまっすぐに向かってきた。少しくらいは、迂回にも警戒していたのだが。普通に、正面から戦うつもりらしい。


 砦の前に、スコラの軍勢が布陣している。そして、敵の大将であるスコラが前に出てきた。俺も、砦の門近くまで移動していく。


 微笑むスコラの姿が見える。お互いに、まだ攻撃はしていない。それでも、冷え冷えとした緊張感が走っていた。


 まずは俺が、スコラに向けて舌戦を仕掛けていく。必ず、受けるだろう。それだけは、理解できていた。まっすぐにスコラを見つめながら、俺はゆっくりと息を吸った。


「スコラ・ベンニーア! お前は、平穏に生きる民たちの生活を壊そうとしている! 断じて、許すことなどできない!」

「許しなど、請いませんわ。わたくしは、ただ力でねじ伏せるまで。ただ、殿下。聞きたいことがありますわ」


 こちらをじっと見ながら、スコラは手を伸ばす。たおやかに、笑みを浮かべながら。優雅な姿に、俺はどこか懐かしさを覚えていた。


 スコラと敵対するという現実が、目の前にある。どうにも胸がもやもやして、ため息を吐きたくなった。当然、耐えはしたのだが。


「王都を、デルフィ王国を滅ぼそうとするものが、何を問う! お前に、大義があるとでも!?」

「ふふっ、大義かどうかなど、知りませんわ。ただ、殿下はわたくしに、何でも願いを叶えると言いました」


 確かに、言った。いつだったか。何かの報奨として、叶えられる範囲で叶えると。言質しか、俺に払えるものはなかったからな。


 ここで、そうくるのか。自分の言葉を違えるとなれば、重い意味がつきまとう。駆け引きとしては、それなりに強い手だ。


 だが、どうあっても受けられはしない。どう考えても、真っ当な願いではないのだから。そんなもので満足するのなら、王都に攻め上がったりしないのだから。


 俺はスコラをにらむ。対して、スコラは笑みを深めていた。


「……わたくしのものに、おなりなさい。そうすれば、助けて差し上げます」


 自らの唇を撫でながら、スコラは妖艶に微笑む。とはいえ、断る以外の道などない。スコラに降って、その先に未来などないのだから。ここまで協力してきた仲間を裏切って、それでどうなる? 俺には、何も残らない。考えるだけ無駄な選択肢だ。


 ただ、こちらからも、一度だけは手を差し出しておくか。まだ、誰も死んでいないのだから。今なら、スコラと敵対せず済む未来もあるかもしれないのだから。ゼロではないというだけだろうがな。


「お前こそ、今なら冗談で済ませてやれるぞ? 金や手間だけの問題だからな。ここから先は、もう言い逃れなどできない」

「最初から、そのつもりですわよ。負ければ死ぬ。その覚悟で、ここまでやってきたのです」


 こちらに強い目を向けながら、スコラは堂々と語る。いま、ハッキリと分かった。もう、和解の道などありはしないと。スコラと、殺し合うしかないのだと。


 なら、もう迷ってなどいられない。軽く首を振り、スコラの目をしっかりと見た。そして、大きな声で宣言していく。


「ならば、俺たちの道は交わりはしない! ここで朽ち果てろ、スコラ! 国を、民を傷つける暴虐の輩よ!」

「朽ちるのは、あなたたちの方ですわ! 古き時代を、わたくしが終わらせるのです!」


 スコラは本陣へと下がっていき、俺も砦の中へと戻っていく。誰も見えなくなって、思わず壁を殴った。


 これで、スコラを殺すしか無くなった。その事実が、胸にせり上がってくる。軽い吐き気すらするくらいだ。


 とはいえ、俺は総大将だ。相応の責任を果たさねばならない。俺こそが、命じなければならないのだから。


 そのまま、俺は砦の中の兵たちのもとへ向かう。そこには、ミリアやバーバラもいた。


「殿下、お主の仕事は、分かっておるであろう?」

「あたしたちを、うまく使ってみせなさい。それこそが、王たるものの責任よ。決して、逃げないで」


 ミリアは腕を組みながら、バーバラは腰に手をあてて語る。もちろん、逃げるつもりなどない。俺が逃げ出してしまえば、それだけ仲間に危険が及ぶのだから。王が逃げたとなれば、士気に悪影響を及ぼすことなど明らかだ。


 その気持ちを込めて、俺は兵士たちの前に立った。そして、息を吸って話していく。


「さあ、出陣だ! 俺たちの手で、この国に平和を! 逆賊に、死の制裁を!」

「デルフィ王国のために!」

「ローレンツ殿下のために!」


 そんな声を上げながら、兵士たちは隊列を組んで進んでいく。そして、砦の防衛に移っていった。バーバラやミリアも、自分たちの仕事をこなしていく。俺は兵たちの動きを見ながら、胸の奥が冷えていくのを感じていた。

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