エルフに対して打って出るためにも、サレンとルイズの協力を手に入れる必要がある。サレンは毒に抵抗する魔法を持っている。ルイズは幻影を生み出す魔法を持っている。その魔法は、戦術としてとても有効だ。
ということで、説得しなければならない。サレンに関しては、猛将であるため戦闘には前向きだろう。独立のために手柄を求めているだろうし、打ち解けている実感もある。勝算さえ提示できれば、うなづいてくれると思う。
問題はルイズの方だ。平和を求めている相手に戦争をしようと持ちかけても、受け入れてもらうのは難しいかもしれない。俺が平和の敵と認識されれば、逆にこちらが排除されかねない。
とはいえ、他の相手を選べば戦術の幅が大きく狭まる。どうしても、個人としての強さに収まる人が多いからな。なら、頑張ってやり遂げるべきだろう。
そこで、ふたりを呼び出して話をすることにした。話し合いの場では、ふたりともにこやかにしている。
さて、どこから話を切り出すべきか。いや、変な駆け引きをするべきではない。ここは直球で頼み込むべき場面だろう。命を張らせるのに大事なのは、何よりも信頼なのだから。
ということで、さっそく頭を下げていく。誰かが息を呑むような音が聞こえた気がした。おそらくは、俺が頭を下げたという事実に驚いているのだと思う。なら、うまく話を進める一手になったのかもしれない。そう感じながら、俺は言葉を続けた。
「エルフは、王国に攻め込むことを狙っている。撃退するために、力を貸してくれないか? 俺が総大将として出陣する予定だ」
「殿下が覚悟を決めたというのなら、僕は協力するよ。リネンを悲しませるのも問題だからね」
そう言いながら、サレンはこちらにウインクしてきた。話がスムーズで、とてもありがたい。ただ、ルイズは難しい顔をして黙っている。ここからが正念場だろうな。
ルイズの返事をしばらく待っていると、神妙な顔でこちらに問いかけてくる。
「ねえ、殿下。エルフと仲良くすることはできないのかな。戦争は避けられないのかな」
真剣な目で、こちらを見ている。ルイズの質問に対しては、俺ははっきりとした答えを持ち合わせている。だから、それを告げるだけだ。
少しだけ手に力が入るが、押し留めながらルイズの目をまっすぐに見つめた。
「エルフは食料に困っているから、デルフィ王国を攻めてくるんだ。その問題がある限り、どうにもならない」
「デルフィ王国でだって、飢える人はいる。僕達には、エルフを支援するだけの余裕はないかな」
以前に起きた民衆の反乱だって、民の飢えが原因の一つとしてあっただろう。おそらくは、政府への不満が爆発したのが最大の原因であるとは思うが。
だからこそ、救荒植物を探すという手を打っている。だが、一朝一夕で実るものではない。そうである以上、まずはエルフからデルフィ王国に攻められないように、力の差を見せつける必要があるんだ。
結局のところ、どうあがいても戦争は避けられないだろうな。そんな想いを込めながら、ルイズと目をあわせ続けた。
しばらくして、ルイズは諦めたような顔をして頷いた。
「殿下の言っていること、分かる。仕方のない戦いなんだよね。なら、私も手伝うよ。でも……」
ルイズはしばらく目をさまよわせて、それから俺の方を見てきた。そして、強い意志を秘めた目で告げる。
「エルフの犠牲が少なくなるように、全力を尽くしてほしいんだ」
ここで頷くのは簡単だ。だが、それでは本当の問題は解決しない。場当たり的ににエルフを殺さないという手段を取れば、結果的に両軍の被害は増えるだろう。というのも、デルフィ王国が甘く見られてしまえば、俺達に攻撃するエルフは増えるはずだから。
なら、大勢を殺してでもエルフに打撃を与える方が、結果的には犠牲が減るはずだ。もちろん、褒められた考えではないのは分かっている。だが、他の手段など思い浮かばないんだ。
本当に平和的に解決できる手段があるのなら、俺だって実行したい。だが、無理だろう。なら、ルイズには真摯に伝えるしかない。
「きっと、敵の大将を早期に殺せれば、エルフの戦意をくじくことができるはずだ。それで、納得してもらえないか?」
そう言って、俺は深く頭を下げる。一秒、二秒。しばらく数えて、ようやく俺に声が届いた。
「分かったよ。私は殿下を信じる。だから、殿下も全力で頑張ってほしい。お願いだよ」
その言葉に、ひとまずの達成感を得ていた。軽く息をついて、ルイズに頷く。そして、俺の決意を表明した。
「もちろんだ。俺だって、犠牲者は少ない方が良いからな。サレンも、手伝ってくれるか?」
「良いよ。僕の力を見せてあげるよ。エルフも恐れるくらいに、暴れまわってあげる」
堂々と宣言するサレンに、俺は確かに頼りがいを感じていた。さあ、後はエルフと戦うだけ。そんな心持ちのまま、俺はふたりに告げた。
「必ず、最高の勝利を収めてやろう。その先の平和が、俺達を待っているはずだ」
ルイズもサレンも、俺の言葉に頷いてくれた。エルフとの戦いでは、いくつも試練が待っているだろう。それでも、俺は乗り越えてみせる。強く誓いながら、拳を握った。