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第23話 功績をたたえて

 これから論功行賞ということで、とても豪華な衣装を着ることになった。というか、俺が仕切ることになっている。王族の中で今回まともに動いたのが俺だけとはいえ、よくもまあといった感じだ。


 緊張もするのだが、とにかく衣装が着づらい。見たこともないような格好をしていて、なんと形容して良いのかも分からない。


 強いて言うのなら、まあ儀式で着そうな印象だよなといったところか。なんかゴテゴテしていて、動きづらい。もこもこしたものが首にかかっていたりして、首を傾げるのも大変なくらいだ。


 使用人たちに着せられて、今はユフィアと最後の確認をするところだ。


 ユフィアと顔合わせすると、きらびやかなドレスを着ていた。黒い姿が銀髪の印象を深めていて、思わず見とれそうになったくらいだ。そんなユフィアはこちらを見て、楽しそうに笑う。


「よく似合っていますよ、ローレンツさん。あなたがその衣装を着慣れるくらいになれば、私も嬉しいです」


 それはつまり、式典に何度も出るということ。要するに、王になるということなのだろう。現在では王は空位になっていて、俺が代理という形になっている。その状況から、一歩進めということなのだろうな。


 王がユフィアの立場を認めれば、それは動きやすいだろうからな。王の信任というだけで、取れる手段の幅が広がるだろう。詳しくない俺でも、容易に想像できることだ。


 とはいえ、急ぎすぎてはダメだ。俺を王と認めさせるためにも、しっかりと根回しをしなければ。王宮の大半が賛成する状況でなければ、立場を奪われて終わりだろう。あるいは、別の王族が反乱を狙うか。


 まあ、それは先の話だ。今は論功行賞に専念すべきだし、その前に目の前のユフィアにしっかりと答えないとな。そう考えて、ユフィアに笑いかける。


「ユフィアこそ、よく似合っているよ。まさに王宮の華という感じだな」

「ありがとうございます、ローレンツさん。あなたに喜んでほしくて、この衣装を選んだんですよ」


 そんな事を言いながら、ユフィアは微笑む。ところどころ肌が見えて、色気を感じもする。真っ黒なドレスが真っ白な肌を引き立てているから、余計にだ。とはいえ、今は見とれている場合じゃない。今回失敗すれば、俺は大きな傷を残すだろうからな。気合いを入れなければ。服に隠した拳を、強く握った。


「ありがとう。お前が支えてくれるのなら、俺はちゃんとやれそうだ。今回も、よろしく頼む」

「はい。私を王にするって言ってくれても、良いんですよ?」


 なんて言うが、流石に冗談だろう。今ここで宣言したところで、敵を増やすだけだ。根回しもしていないのだから。そんな事が分からないユフィアではない。実際、声の調子が軽い。


 まあ、少しだけ気が軽くなったな。冗談を言っていい程度の状況ではある。そう思えるのだから。


「ははっ、今すぐ王になったら、結構な人数が反抗しそうだな。さて、準備も整ったことだ。行こうか」

「そうですね、ローレンツさん。さあ、手を出してください。私が案内しますね」


 ユフィアに手を引かれて、式典の会場へと向かう。いわば玉座の間だ。そこの中心に位置する玉座に座り、俺は準備を待つ。その隣で、ユフィアはずっと微笑んでいた。


 そしてしばらくして、皆が入ってきて平伏する。一拍置いて、俺は語りだす。


「此度は、皆の奮闘によって、この国にはびこるイデア教の脅威を粉砕することができた。まずは、感謝しよう。さあ皆、面を上げてくれ」


 その言葉に合わせて、一斉に起立の姿勢になる。俺が楽にして良いと告げると、休めの姿勢に入った。


「まずは、俺を最も支えてくれた相手に、感謝の言葉と褒美を渡そう。ユフィア、こちらに来てくれ」


 俺の言葉に続いて、ユフィアは俺の前にやってくる。そして、柔らかく微笑む。俺はまっすぐにユフィアを見ながら、真剣な顔を意識して言葉を紡いでいく。本心の感謝を込めながら。ユフィアと共犯者にならなければ、今この場面は迎えられなかった。それは確実だからな。


「ユフィア・エインフェリアよ。俺の言葉を信じ、イデア教が起こる兆候を見逃さなかった。そして、これから褒美を与える者たちに繋がりを作ってくれた。名実ともに、最も俺を支えてくれたと言っていいだろう」


 俺は一度頭を下げ、言葉を続ける。半分くらいは、本音だと言える言葉を。


「その功をたたえ、ユフィアを俺が最も信頼する相手だと宣言しよう! 宰相以上の立場は、俺には与えられない。その代わりとして、金銭を運ばせよう。受け取ってくれるか?」

「もちろんです、殿下。あなたが信頼してくれることは、何よりの喜びです」


 そう言いながら、想いが届いた少女のような笑顔を残し、一礼する。つい見とれそうなくらいに、華やかな顔だった。それに頷くと、ユフィアは元の席に戻った。


「続いて、ミリア・アルストナ。そなたは騎士団長として、イデア教討伐部隊を編成し、早期に事態を収める大役を担ったと言える。さあ、こちらに来てくれ」


 ミリアは胸元の大きく開いたドレスを着たまま、こちらへとやってくる。少し目線を向けそうになって、気を持ち直す。ミリアは不敵に笑いながら、こちらに一礼する。


「そなたの功をたたえ、ミリアに大公位を与えよう! その証だ、受け取ってくれ」


 手を差し出すミリアに、豪華な飾りのついた短剣を渡す。それを見ながら、ミリアは堂々とした笑みを浮かべていた。


「ありがたき幸せ。妾はデルフィ王国のさらなる発展のため、力を尽くすと誓おう」


 そう言って軽く頭を下げ、ミリアは下がっていく。俺のためとは言っていないが、まあ協力できる範囲だろう。実際、何度も手伝ってくれたからな。


 ミリアが席についたのを確認して、次に移っていく。


「続いて、スコラ・ベンニーア。そなたは獅子奮迅の活躍を見せ、見事クロードを討ち取った! 今回の花形は、スコラだったと言って良いだろう。さあ、こちらに」


 スコラは赤いドレスをその身にまとい、穏やかな笑みを浮かべてこちらに向かってくる。そして、俺の目前にひざまずいた。さて、その笑顔の裏で、何を考えているのだろうか。気になるところだ。


「そなたの功をたたえ、ベンニーア家の当主として認めよう。同時に、痛ましい被害を負ったベンニーア領にも、人や資材、金銭を送ると約束しよう」


 一度顔を上げたスコラは、薄い笑みを浮かべてもう一度頭を下げる。その頭に、俺はサークレットをつけていく。


「これが、そなたが正式な当主となった証だ。しっかり、大切にしてくれよ」

「もちろんですわ。殿下にいただいた全ては、わたくしの宝物です。決して、誰にも奪わせませんわ」


 そう言ってもう一度深く頭を下げ、スコラは下がる。さらに次の功績に移る。


「次に、大きな戦果をあげた三名をたたえよう。戦の名手、バーバラ・ダンタリオン。義勇軍の主、ルイズ・トルーズ・ユースティア。激しき猛将、サレン・ラレンティア。前に」


 バーバラは長い黒髪をたなびかせながら、堂々と頭を下げる。ルイズは優しげな笑顔を浮かべながら、ゆっくりと頭を下げる。サレンは少し激しく動きながら、勢いよく頭を下げる。


 それぞれ、まだ俺を認めてはいないのだろう。だから、今回を仲良くするきっかけにしたいものだ。穏やかな態度を意識して、3人に言葉をかける。


「三名はそれぞれに、イデア教の討伐に尽力してくれた。バーバラの華麗な戦場、ルイズの容赦ない攻撃、サレンの怒涛の突撃。どれも見事だった。それをたたえ、宮中伯に任じよう」

「ありがたき幸せよ、殿下」

「平和の役に立てたのなら、それが一番です」

「僕を覚えていてくださったことに、深く感謝します」


 バーバラは不敵に、ルイズは優しく、サレンは強い笑みを浮かべながら、それぞれに頭を下げた。


 それから去っていく三人を見ながら、どうやって宮中伯となった彼女たちと仲を深めるかを考えていた。とりあえずは、ユフィアの配下という立場と言っていい。王都の政治の中枢と言ったところだ。その状況を利用して、お互いの目標をすり合わせられると良いよな。


 論功行賞はその後も順調に進み、全ての功績に対して褒賞を与えた。それを最後に、お開きの言葉を残す。


「皆、よくぞ戦ってくれた。皆が居る限り、この国は安泰だろう。お前たちの力で、デルフィ王国をさらなる発展に導いてくれ!」


 その言葉に皆が頭を下げ、そして皆が去っていく。最後に残ったのは、ユフィアとミリアにスコラ、そして宮中伯となった三人だった。


 俺が残した人たちとの交流のために言葉を続けようとすると、ルイズが先に言葉を発した。まっすぐな目で、俺を見て。


「あの、殿下。どうしても聞いてほしいお願いがあるんだ。少し、時間をくれないかな?」


 ルイズの望みが何なのか。それ次第で、俺の今後に大きく影響するだろう。軽く息を吸って、ルイズに目を合わせた。

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