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第9話 ユフィアの遊び

 ローレンツさんは、私と何度も相談を繰り返しています。つまり、私の計画は順調ということですね。ローレンツさんは私を頼りにしている。おそらくは、唯一の味方として。それだけでなく、私の役に立つことも考えて動いているようです。


 良い流れですね。とても順調と言えます。ローレンツさんが私を考え続けるたびに、私の存在は大きくなっていく。それが意味することは、まだローレンツさんには理解できていないのでしょう。最終的には、私に依存することになる。それが狙いのひとつなんですよ。


 もちろん、他の狙いもあります。それらを達成するために、私は多くの計画を練っていました。自室の中で、それを振り返っていました。いつものように、計画にズレがないかを確認するために。


 これから、ローレンツさんはミリアを説得に向かいます。その状況を整えるのも、計画のひとつです。


 そのために、同時に私の派閥の影響を大きくするために、私は配下に兵の調練を命じていました。単純に武力を手段として使うために。ミリアへの牽制として。そして、民衆の反乱がおきた段階で、私達が成果を残すために。


 命令するのは、あまり難しくありませんでしたね。


「ミリアに大きな顔をさせるのは、納得できないでしょう? なら、彼女が支配できない兵を用意すれば良いんですよ」


 ミリアを嫌っているものには、そんなセリフを言いました。気持ちは分かるというように、まっすぐと見つめて。それだけで、簡単に奮起してくれましたよ。


「民衆は、あなたに期待していないようですよ? あるいは、反乱を起こして首を取るためかもしれませんね」


 自分に自信がない人間には、そんな言葉で誘導します。心配しているというように、目を伏せながら。自分の胸に手を当てて。相手には思い当たるフシがあったのか、顔を青ざめさせていましたね。さぞ、必死に兵を鍛えるでしょう。


 他にも、いくつかの計画を実行していました。鍛えた兵を利用したり、あるいは調練の成果を確認したり。そんな目的でしたね。


「エルフの中には、宝石を集める部族がいるんだとか。手に入れたくありませんか?」


 自分の財貨を増やすことが好きな相手には、そう告げました。手を差し出しながら。それだけで、目に力が入っていましたね。さぞ力を入れて、エルフを攻撃してくれるでしょう。彼らが得た宝石は、デルフィ王国から奪ったものですからね。良い見せしめになるでしょう。


「あなたの領の近くにいる獣人は、酒造りの技術を抱えているようですよ。取引の手段を考えてみてはいかがです?」


 酒好きの配下には、そんな事を言いました。両手を、胸の前で合わせながら。すると、すぐにそろばんを弾き始めましたね。これも、大事なことです。私達の味方になれば利益が手に入ると知れば、従属したくなる異種族もいるでしょう。戦う以外の逃げ道を用意するのも、大切なことです。


 なにせ、全ての異種族を皆殺しにすることなど、現実的には不可能なのですから。懐柔の手段を残しておくのも、重要ですからね。


 私としては、ローレンツさんに異種族をぶつけてみたいという欲求もあります。排斥するのか、受け入れるのか、あるいは距離を取るだけなのか。それらを知れば、今後に役立つでしょうからね。考えただけで、胸が弾むのが分かります。


 例えば、異種族の子供が盗みを働く現場に遭遇させたら、どうするでしょうか。盗みは許せないと言うのでしょうか。あるいは、盗みの原因を考えようとするのでしょうか。はたまた、無視しようとするのでしょうか。


 私ならば、被害者と加害者の両方に恩を売るでしょうね。そうすることで、後で利用しやすくするでしょう。


 ローレンツさんは、正しく対応できるでしょうか。あるいは、嫌われてしまうのでしょうか。その瞬間を見るのが、とても楽しみです。


 それに利用できそうな場所も思いつきましたから、そっちにも働きかけました。私の運営している孤児院ですね。向かうと、笑顔の子ども達が駆け寄ってきました。中には、私が親を殺した存在も居ましたね。それも知らずに、私に感謝しているのです。とっても、面白いですよね。


「ユフィアさまー! これ! クッキー! 私が作ったの!」


 そんな事を言いながら、私に差し出してきました。私は遠視の魔法を使って孤児院の様子を確認していたので、毒が仕込まれていないことは確認しています。


 なので、嬉しくて仕方がないという顔をして、受け取っていきます。そして、食べていきます。正直に言って、まるで興味がなかったのですが。ただの平凡なクッキーですからね。好きも嫌いもありません。


 それでも、私にクッキーを差し出した子の頭を撫でていきます。できるだけ、優しい顔を意識して。


「ありがとうございます。とても美味しかったですよ。また作ってくれたら、嬉しいです」

「絶対、また作るからね!」


 私の評価は、確実に高いです。まあ、嫌っている人間は排除するだけなのですが。鉱山にでも送るだけです。まあ、今はどうでも良いですね。


 それよりも、ローレンツさんのことです。せっかく共犯者になったのですから、評判を上げておくのも悪くありませんでしたから。実際、孤児院にも噂は届いていたでしょうからね。


「今度は、ローレンツ王子も連れてきますよ。彼はとても優しくて、賢いんですよ。楽しみにしていてくださいね」

「うわー! すごい人なんだ! やっぱり、王子様なんだね」

「ローレンツ王子……」


 どこか、ローレンツさんのことを気にしている子も居ましたね。ちょうど良かったです。顔からは嫌悪感が読み取れましたから、対応に困るかもしれません。


 それに、私の言葉で、子供達はとても期待しているでしょうからね。失望される姿を見るのも、面白いでしょう。乗り越えるのなら、それでも良いです。とっても楽しみな瞬間です。つい、笑顔が深まってしまうほどに。


 孤児院から帰った私は、他の計画も進めていました。今ローレンツさんが向かっている、ミリアとの交渉に色を添える準備もです。


 私は、とある暗殺者を呼んでいました。私が利用している組織のひとつから派遣された存在です。


 死ぬことを前提に計画を実行するというのは、すでに伝えています。その代わりに、彼の家族には報酬が支払われることになっています。他者のために命を賭ける人は、便利に扱えますよね。


 ということで、命令を伝えていきました。


「ローレンツ王子とミリアは、数日後に交渉します。その決裂を確認して、ミリアを刺しに行きなさい。念の為、毒は塗らないように。当然、成功しても失敗しても自決しなさい」

「……はっ」


 さて、ローレンツさんはどう対処するでしょうか。そればかりを考えていましたね。私としては、どう転んでも良かったんです。


 ミリアが死ぬのならば、スコラを後釜に据えて、私の影響を高めるだけ。スコラの治癒魔法でミリアが救われるのなら、それでも良し。ローレンツさんが活躍するのも、面白いでしょう。


 ただ、運悪くローレンツさんが死ぬようなら、そこまでですね。残念ではありますが、ただのおもちゃのひとつですから。代わりを探すだけですよ。


 誰かが私を殺そうとしたところで、計画を練る限りは成功しません。魔法で事前に察知できますから。私が死ぬとすれば、何の計画性もない突発的な犯行くらいでしょうね。


 ということで、余裕を持って計画を実行できました。笑顔でローレンツさんを送り出せましたね。


 そして今、ローレンツさんは私のもとにやって来ました。もちろん笑顔を向けて、迎え入れます。さて、どんな結果を出したでしょうか。


 彼は、どこか興奮したような様子で語り始めます。


「ミリアが協力してくれることになった。それに、魔法も割り出せた。相当大きな成果だろう?」


 嬉しそうに話してきます。つまり、ローレンツさんは勝ったということですね。ですから、今度は抱きしめてあげます。そうすると、彼は全身の力を抜いていきました。私に、だんだん心を許しているようですね。良い兆候ですよ。


「すばらしいです、ローレンツさん。やはり、あなたは素敵ですね。これからも、頼りにしていますよ」


 そう言いながら離れると、どこか名残惜しそうな表情をしていましたね。可愛らしいものです。とっても素敵なおもちゃですよ。すぐに首を振って心を落ちつけようとしているあたりも、愛らしいものです。頑張って、無力な抵抗をしてくださいね。


 次はどうやって私に役立ってくれるのか、どんな面白い姿を見せてくれるのか、とても楽しみです。私は、この国の完全な支配も、ローレンツさんの心を奪うことも、必ず達成してみせますよ。私の手でね。その興奮を、少し大げさな言葉で伝えることにしました。相手の首元に、手を当てながら。


「ねえ、ローレンツさん。愛していますよ私の手のひらで踊りなさい


 顔を真っ赤にしてこちらを見つめるローレンツさんは、とても見ものでした。少し、口元が緩んでいるように見えます。本当に、素晴らしいことです。これからもずっと、よろしくお願いしますね。私を、楽しませ続けてください。

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