…話はリムが道に迷っている頃へ遡る。
「…リムと別れたものは良いんだが、彼奴は場所が分かるのか?」
別れて暫く経ってからそう思った。と言うのも、
「(俺の知る限りじゃ彼奴は初めてなはずだ。大丈夫かな?)」
まぁ、治安も良い場所だし変なことに巻き込まれないと思うが…
「っと、ヨミを探さないとな」
本題から逸れそうになっていた俺は慌てて軌道修正する。
「取り敢えず、酒場で話でも聞こう」
そう思った俺はこの地区でも有名な「ソルシャ」に訪れた。
「昼なのにやっぱり、賑わってるな…って、お?」
「らっしゃい、ってネジキんとこの兄ちゃんじゃないか。久しいな!」
「久々だな、テイラーさん。後、ネジキのところじゃないぞ」
ソルシャの店長であるテイラー・モンチゲートさんだ。
昔、ネジキに連れられて来たことがあり、それで覚えられているらしい。
「ん?じゃあ、今はギルドを齧ってンのか?」
「まぁ、そうだな。っても、今はパーティー組んでるんだけどな」
「それは、また珍しい話だな。って、ほら。さっさと座れよ」
「あぁ、ありがとう」
店の中で立ちっぱなのは流石に悪いと思いカウンター席に座った。
「それで?今日は1人でどうしたんだ?喧嘩でもしたのか?」
「別に常に喧嘩してる訳じゃないんだが…って話が逸れてる」
『おい、テイラー!酒が足りねぇぞ!』
「分かってらぁ!で、なんだ?喧嘩じゃないならどうしたんだ?」
「俺は人探しに来たんだ。っても、ギルドじゃねぇんだが」
「へぇ、それはまた面白いな。…ほら、さっさと持ってけ!」
『気が利くじゃねぇか、テイラー!ハハハ!』
「(今日も昼から豪勢だなぁ)」
と酒に明け暮れる大人を横目に俺は水を飲んだ。
「お前が人探しねぇ。どんな奴なんだ?」
「…端的に言えば、変わった奴だ。無口だけど頭は良い」
ヨミの名前を出しても良かったのが此処は敢えて伏せておくことにした。
「そんな情報じゃあ、人探しは無理だぞ、レン」
「あぁ。分かってる。でも、探さないといけないんだ」
「ってもなぁ…。俺に心当たりがあったら良かったんだが…」
とその時、ドアを蹴り倒す勢いで半獣人が店へと入ってきた。
「随分とキレてるようだがどうしたンだ?」
「その前にまずは酒だ!腹が立ってしょうがねぇ!」
隣に座った狼の半獣人は隣に座るとそう叫んだ。
「あいよ!いつもの奴で良いんだよな?」
「あぁ!っち、何だったんだ?あのガキは…」
少し経ってからテイラーさんが酒を置くと一気に飲み干した。
「あぁ、スッキリした!本当、酒が無かったらキレてたぜ」
「それで…どうしたんだ?ガキがどうとか言ってたが」
「あぁ。さっき、裏でチビのメスが居たんだが…其奴がイカれてたんだ」
「イカれてた?それは、どういうことなんだ?」
「黒髪のガキが通る奴らを悉くぶっ倒してたんだ。俺もやられた」
「(…黒髪のガキ、チビ、メス_っておい!)」
項垂れる狼男に俺は慌てて尋ねた。
「其奴、何処に居るんだ!後、その話は本当なんだよな?」
「当たり前だろ。其処の角奥に居ると思うが舐めて掛かるのは馬鹿だ」
「いや、ありがとう。後、テイラーさんも!」
その言葉に確信を持った俺はお礼のチップを置いてから店を飛び出した。
そうして、狼男の言っていた場所に…
「…あれ、リムは_?」
「やっぱりお前じゃん…」
俺の予想通り、その正体はヨミだった。無言でツッキをポリポリしている。
「…これ、貰った。美味しい。…あげない」
「いや、別に良いんだが…何してたんだ?此処で」
「…散歩?」
そんな訳ないだろ…と突っ込んだ俺はヨミの手を取った。
「ほら、早くリムのところに戻るぞ」
「そんな…急いでも、これ食べれない。…諦めて」
「だから、要らないって…!」
そうしてヨミを無事に回収することに成功したのだった。いや、無事じゃないか。
そして、話は現在へ。
「…リム、あげる。これ、美味しい」
「あ、ありがとう。ってか、ヨミって強いんだな」
「…そう、私。強い」
凄いでしょ!と言わんばかりの胸を反らすヨミだがそれはまぁ良いとして。
「それにしても、此処でもレンは知られてるんだな」
「知られてないって言ったら嘘になるけど…でも、ほんの少しの地域だぞ?」
本当だからな?という顔をするレンに俺は渋々、納得する。
「それにしても…この何だっけ、ツッキだっけ?随分と美味しいな」
見た目は棒を揚げた感じだが味もサクサクしててずっと食べていられる。
「フロイス区では日常的な菓子だ。安いし、何だったら帰りにでも買うか?」
「どうせなら買おうかな。結構、癖になる味で俺は好きだし」
「それは良かったな。まぁ、昼飯でも食べよう。時間も良いしな」
「え、じゃあ場所を選んでくれよ。俺、さっきも迷ったんだ」
「だと思ったよ。まぁ、俺やネジキもよく行く店へ行こう」
それからレンに連れられて向かった場所は表に並んでいる店だった。
「御無沙汰してます、ヒノエニさん。後、今日は仲間も居るんだ」
「あら、お友達も居るのね。丁度、3席空いてるわよぉ〜?」
「だってさ、ラッキーだったな。早速座ろうぜ」
そうして対面にレン、隣にヨミが座る形となった。
「初めまして。アイビス・リム・シルビアです。リムって呼ばれてます」
そう自己紹介すると隣でヨミも名前だけ名乗った。
「ヒノエニ・リート・クウォンよ。ヒノエニと呼んでねぇ〜?」
「ってな訳で自己紹介もしたしさっさと食べようぜ」
「そもそも注文してないだろ…」
無駄に気の早いレンに呆れつつツッキを食べるヨミから1本貰う。
「まぁ、料理に関しての知識は0だしお前に任せるわ」
「じゃあ、
「分かったわぁ〜」
とゆるふわな感じで去って行った。
「この後は、どうするんだ?」
「取り敢えず、家に戻って…その後は、実際に魔法を試してみよう」
「遂に使える時が来たのか…!」
「感無量、って感じだが慣れるまでが鬼畜だぞ?」
「それはそうだろうなぁ。…そういや、スキルの方はどうなんだ?」
「それなんだが…あの後、シュヴィアさんと話したんだが俺には無理だ」
「え、無理なの?」
「あぁ。何しろ、スキルは全員に備わってるからな。俺には分からん」
「(…ってことは、「回避」のスキルがゴミになるってこと?)」
「って思ってそうだな。確かに、俺もそう言ったけど実際は少し違う」
「…どういうことだ?」
「俺には無理ってだけで専門家が居るんだ。…エルメスにな」
「エルメスってのは地名だよな_。何処にあるんだ?」
「此処から遠く離れた南西にある。因みに名前の通り、王国の首都だ」
「ってことはスキルは王国までお預けってこと?」
「その前にお前自身で開拓すれば話は早いけどな。時間は掛かるが」
「だよなぁ…。マジで早く慣れたいんだけど…覚醒しねぇかな?」
「そんなポンポン覚醒する訳ないだろ、諦めろ。努力あるのみ、だ」
「…がんば、リム」
結局、どう頑張っても時間を要する事実へ行き付き溜息を吐く。
俺がスキルを扱えるようになるのは何時の話なのだろうか…?
ー2日前、某所。
再び降り立った場所は見慣れた場所などではなく変わり果てていた。
「(臭気が酷くなってる…!)」
埋もれた死体を蹴りつつ影を歩く。表に出れば…待つのは死だ。
「(元凶を潰さないと話にならない…どうしたら…!)」
壁を蹴り屋根へと飛び移る。今日は8名。…何人残るのだろう?
「俺は北部を見る。また、後で連絡しろ。…健闘を祈る」
それから私は相対する死体を屠り続けた。殺しはし過ぎで生き甲斐になっていた。
屠り屠り、屠り屠り屠り、屠り屠り屠り屠り、屠り屠り屠り屠り屠り
屠り屠り屠り屠り屠り屠り、屠り屠り屠り屠り屠り屠り屠り屠り屠り
屠り屠り屠り屠り屠り屠り屠り、屠り屠り屠り屠り屠り屠り屠り屠り。
屠り屠り屠り屠り屠り屠り、屠り屠り屠り屠り屠り屠り屠り…屠り続けた。
「…あれ、呼んでた?」
「次期に撤退して帰還しろ。…其処は次期に陥落する」
「このままだと、城塞都市まで到達すると思うけど?」
「時間はまだあるし避難も始めてる。だから、今の目標に集中しろ」
「…大人しく剣聖を使えば良いと思うんだけど」
「彼奴は…もう殺しをしないんだ_って前に話しただろ」
「ごめんごめん、忘れてた。まぁ、私に不殺は無理な話だけどね〜?」
上への抗議を謝罪した私は屋根を伝って移動を続ける。
「こんなのどう見ても…地獄そのものじゃん」
「だから、言ってるだろう。時期に陥落すると…っても数は減らせよ?」
「知ってるよ。まぁ、それで死んだら話にならないけどね」
適当に屠りながら私は撤退する。本当、殺しは癖になるなぁ…。
その2日後の某時刻。北部は陥落した。
【…腐…人…襲撃ま…日】