あれからネジキさん達も帰って来たらしくレンは用事があると出て行った。
「そういえば、魔法について聞くのを忘れてたな」
暖を取りながら俺は今日の出来事を軽く振り返った。
「激動過ぎて忘れてたけど、フラストさん亡くなったんだったな…」
レンはクリストさんと共にフラストさんを殺すことで念を晴らしたらしい。
「(苦しみながら死ぬよりはマシなんだろうけど…それでも)」
フラストさんを楽にさせる為に2人は汚れ役を背負ったのだ。
「まぁ、俺が起きてても何も出来なかったんだろうけどな…」
隣に座ったヨミの頭を撫でつつ俺はそんなことを呟く。
「戻ったぞ…って、のんびりするなよ…」
入って来たレンにそんな愚痴を言われたことに苦笑する。
「戻って来たってことは、粗方終わったってことなのか?」
「まぁな。あっちの収束自体はまだ時間を要するだろうけど、俺は終わりだ」
背負っていた荷物を机にバラけさせながらレンは答えた。
「そういえば、魔法適正みたいなの話してたけど…結局はどういうことなんだ?」
「まぁ、簡単に言えば魔法にも得意不得意あるってことだな」
ビタルスと呼ばれる珈琲みたいな飲み物を飲みながらレンは説明してくれた。
「例えば、運動や勉強でも得意不得意ってあるだろ?そんな感じだ」
「…それぞれに使えるのが決まってるってことか?」
「攻撃魔法の場合はな。でも、汎用魔法は慣れれば全員使えるはずだ」
つまり、攻撃魔法の場合は自分に予め決められている魔法のみ使えるということ。
運動も努力も大事だがそれ以上に天賦で決まると言われている。
それに対して汎用魔法は時間こそ犠牲にするも必ず覚えられる魔法。
勉強は例え苦手でもやり続けたら出来るようになる、ということだろう。
「で、俺の場合はその適性が火属性だったって訳だ。簡単だろ?」
「じゃあ、俺が適性なしに魔法をぶっ放そうとしても無理ってことか?」
「そういうことだ。無闇に撃っても不発だしラナも無駄に消費するだけになる」
「その適性診断ってどうやってやるんだ?性格診断みたいにするのか?」
「そんなことはないさ。まぁ、明日にでも行ってみよう」
翌朝。俺とヨミはレンに連れられて街の中を歩いていた。
「此処は随分と栄えてるな」
「とは言っても俺たちの住んでる場所は住宅街だし仕方ない部分なんだけどな」
セラスティアの東部は「フロイス地区」と呼ばれているそうだ。
「因みに俺らの住んでる場所はアドラス地区だ。覚えてて損はないぞ」
「それにしてもマジで本格的なんだなぁ。色々な種族の人も居るし」
「転生したばかりみたいな発言だな。まぁ、此処らに来ることは滅多にないけど」
「そういえば、物も買うように頼まれてるんだよな?」
「ん?あぁ。スタリヤさんに頼まれたんだ。お前が検査してる間に買ってくるさ」
そうして暫く歩くと大きな建物が見えてきた。
「あれがセラスティアのシンボル、レイゼロ学院だな」
「学院ってことは…学校なのか?えっと、魔法学校みたいな感じ?」
「まぁ、具体的には合ってる。って言っても俺らには関係ないんだけどな」
あそこは此処の人が行ってるんだ、と説明してくれた。
「中に入ろう。人も多いしはぐれないようにな」
ヨミの手を握りつつ俺はレンの後を追おうしたとその時。
「あっ」「きゃっ!」
少女とぶつかってしまった。ぶつかった少女はその勢いに尻餅を付いていた。
「す、すみません。俺がよそ見をしてた所為で…!大丈夫ですか?」
「え、えぇ。大丈夫…。私も急いでたから」
少女を起こし俺は謝罪する。今回はよそ見をしていた俺に非がある。
「じゃあ、じゃあ…私は行くから。気にしないで…」
そういうと少女は慌てて走り去って行った。
「急いでたのに申し訳ないことしたな…ってこれ、あの子の落とした物、だよな?」
床に落ちていたのは小さな緑色の耳飾りだった。
「(まぁ、当然の如く居ない訳なんだけど…持っておこう)」
床に落ちてたままだと誰かに盗られる可能性もあるしな。
「おい、どうしたんだ?ずっと止まったままだけど」
後を追ってないことに気付いたのかレンが戻ってきた。
「すまん、ちょっと人にぶつかったんだ。何ともないし行こう」
「そうか。ちゃんと気を付けてくれよ?」
そうして向かったのだった。
部屋へ入ると奥の椅子に男性が座っていた。
「久々ですね。シュヴィアさん」
「そうだね。そして、君が…リム君だったかな?」
「あ、そうです。初めまして。リムって呼んで貰えたら」
「リム君ね。僕はシュヴィア・ホムンクルス。此処のティシュアもしている」
「(ティシュアって…何なんだ?)」
「(ティシュアってのは大学の教授みたいな感じだ。実際は少し違うが大体はそうだ」
「(成程な)」
「じゃあ、早速だけど始めるよ?レンは用事があるんだったね?」
「あぁ。まぁ、終わる頃には戻ってくるから気にしないでくれ。じゃあな」
そういうとレンは部屋をそそくさと出て行った。
「じゃあ、早速始めたいんだけど…君は魔法について何処まで知ってるのかな?」
「えっと、7属性存在してて闇属性は消失したってことは知ってます」
「ふむ。前提知識はあるようだ。なら、説明するより体験した方が良いかな」
そういうとシュヴィアさんは俺を床に描かれた陣の上に立たすと
「君は其処で立っているだけで良い。不思議な感覚になると思うけど気にしないでね」
そういうと陣が浮かび上がり紋章みたいなものが現れた。
「(…やっぱ、魔法って_スゲェんだな)」
思わず語彙力を無くしてしまうほど、神秘的に感じた。そうして…。
「うん。終わったよ。じゃあ、陣を降りてくれるかな?」
シュヴィアさんの言葉に従って俺は陣を降りると見学していたヨミの方に寄った。
「今回、調べてみたけど…君は結構な素質を持っているのかもしれないね」
実に興味深い出来事だ。シュヴィアさんは頷くように結果と資料と見比べている。
「そ、それで…結果はどうなんですか?」
「今回、君の適性検査を行った訳なんだが…」
なんだが?途中で言葉を区切ったことに微かな違和感を覚えつつも俺は尋ねる。
「君の適性を的確に説明するなら『ニルヴァーナ・シリニティ』だよ」
え?そう俺は聞き返したがシュヴィアさんは聞こえなかったのか話を続けた。
「君はとても恵まれてると言える結果となったよ。良かったね」
意味の分からない単語を持ち出された挙句、勝手に納得されて困惑していると_
「そろそろ終わると思って帰ってきたんだが…無事に終わったようだな」
と丁度、レンが終えたらしく手元には見慣れない物を持っていた。
「レン、彼の検査を終えたが『ニルヴァーナ・シリニティ』だったよ」
「マジ?お前、スゲェな!まぁ、スゲェってより運が良いって言うべきなのか?」
「レン、スゲェって言われても何が凄いのかサッパリなんだが…?」
「あ、そうか。すまんな。俺らの知ってる言葉で言うなら『涅槃寂静』だ」
「涅槃寂静?えっと、数を数える時の単位だっけ?」
「日本ではな。こっちでは木属性と水属性を使える奴をそう呼んでるんだ」
「木属性と水属性を扱える…ってマジで言ってる?」
「あぁ。2属性使えるなんて羨ましい。それも汎用性のある水属性もオマケでだ」
「ってことはメインは木属性魔法を使うってことだよな?」
俺がレンに尋ねると代わりにシュヴィアさんが答えてくれた。
「サブ属性って考えで運用していくことを薦めるよ。まずは、暗記だけどね」
「あ、暗記?魔法を発動するのに?」
「あぁ。だって詠唱が要るだろ?覚えなきゃ魔法も使えない」
必要な知識だ、と当たり前のような顔をするシュヴィアさんに対し
「勿論、冗談だからな?」
とシュヴィアさんに対して慌てて突っ込んだ。
「…だよね?冗談じゃなかったらいよいよ鬱になってたぞ」
「ってもそれぞれの魔法の役割は完璧に覚えないと駄目なんだけどな」
「そ、それなら…まだ出来ると思うけど。上級や中級の分別ってことだよな?」
「まぁ…そうだ。具体的にはまた説明するけど…今はそれで大丈夫だ」
取り敢えず、最悪の危機は免れたらしい。
「じゃあ、後はレン君に頼もうかな。実戦は君の方が得意だろう?」
「投げやりに聞こえるけど…まぁ、俺がやった方が良いと思いますし…」
「では、宜しく頼むよ。また、気になることがあったら気軽に来るんだよ」
そうしてシュヴィアさんと別れた俺たちは部屋を出た。
「それにしても、属性魔法を2つも使えるなんてなぁ。羨ましぃ」
「俺的には火属性魔法をぶっ放して無双するお前の方がカッコイイよ…」
2属性使えるとはいえ個人的にはド派手な魔法を使いたかった。
「(まぁ、2属性使えるのに、そんなことを言うのは傲慢なんだろうけど…)」
「この後はどうする?まだ昼には早いけど食べるか?』
「そう、しようかな。こっちに来ることもないし…ヨミもそう思う…ってあれ?」
てっきりついて来ていると思ったヨミだったが居なかった。
周囲を見渡しても俺とレンだけでヨミの姿はない。
「あれ、ヨミの奴…何処に行ったんだ?」
「探そう。此処で迷子になったら問題だ。集合は…あそこの噴水にしよう」
シンボルらしい噴水を指差したレンに頷くと俺たちは別れて探し出した。
「(ヨミの奴、何処に行ったんだ?)」
ヨミは無口だが俺の近くにはずっと居た。勝手に居なくなるなんてなかった。
そうして角を色々と曲がっている後に別の問題も発生した。
「(此処、何処なんだ?)」
初めて来た場所で人探しをしていたら自分が迷子になっていた。
「(噴水を探せば良いけど…建物が高くて視界が悪い)」
人通りも少ないし居ても意味はない。そうして歩き続けたが結果は同じだった。
「(畜生…。どうしたら良いんだ?次に出会った人に付いて行くべきか?)」
自分だけでは手詰まりだし…そう思った時、奥で人影が角を曲がるのが見えた。
「ちょっと、待ってくれ!」
慌てて少女の後を追ったものの角を曲がった時には既に少女の姿が見えな_
「追い掛けようとしてたけど、私に何の用があるの?」
「…っ!」
後ろに回り込まれ鋭利な物を俺の首筋に当てていた。…ひんやりしている。
「それで、私に何の用があるの?」
「そ、その…噴水に行きたかったけど迷ったんだ。此処に来るのは…初めてだから」
俺が素直にそう答えると少女は長い沈黙を綴った。
「…嘘は吐いてないようだし付いて来なさい。でも、変なことをしたら…殺すから」
鋭利なモノの正体であるナイフを少女はしまうとそう言った。…許されたようだ。
そうして黙ったまま少女に付いて行き…気付けば先程の大通りに出ていた。
「此処まで来れば…後は分かるでしょう」
そう言うと少女は先程までに来た道を引き返して行った。
「あ、ありがとう…って。き、消えた…?」
振り向いたものの既に少女の姿は消えており俺は道の真ん中に残されていた。
「何者、なんだ?あの子は。それに…何処かで会った気もしたんだけどな_」
俺は当てられた首筋が切れてないのを念の為に確認してから噴水へと向かった。