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第11話 理不尽を跳ね除けて

「おっちゃん、馬車を出来るだけ飛ばしてくれ!」

そうレンが叫ぶと馬車が急激に速度を上げ思わず体勢を崩し掛ける。

「馬車の中にナイフを投擲するって腕凄くね?」

「今回の馬車は速度が同じだったから読めたんだろう。まぁ、腕はあるな」

「そんな余裕そうな感じだけど何か策でもあるのか?」

「ある訳ないだろ!あったら、さっさと実行してる」

激しく揺れる馬車の中で俺は外をチラリと見ようとし引っ張られた。

「ちょっ、何すんだよ!」

「窓から見るのは自殺行為だぞ?見るならせめて、別のところ見ろ」

確かに。と俺も自分の軽率な行動に反省しつつ様子を伺う。…暗いだけだった。

「なぁ、周囲は既に暗いのに、何でこんな正確射撃が出来るんだ?」

「それは、彼奴らが魔法を使ってるからだ。恐らく、暗視魔法だとは思うが」

「暗視魔法って俺らの世界常識で考えて良いんだよな?」

「あぁ。因みに発動してからの効果時間も長く夜襲戦では重宝されてる」

「…効果時間ってどれくらいなんだ?」

「それは〈詠唱強化〉によるな。詠唱強化ってのはそのまんまの意味な?」

「えっと…詠唱を長くすればするほど、効果も大きくなるってこと?」

「あぁ。大体、3段階構成で暗視魔法だと2段構成だな」

「それぞれの持続時間はどれくらいなんだ?」

「え?そ、それは…。すまん、使ったことないから分からな_」

「…5と8(其処まで胸を反らしながら)」

そんな風にヨミが自慢風に語ったことに苦笑しつつも頭を撫でた。

「だそうだ。で、お前はそれを聞いた訳だが…何か策でもあるのか?」

「その前に、撃った魔法の効果中にその魔法を解除出来るのか?」

「基本的には無理だ。そんなポンポン解除出来るもんじゃない」

そりゃそうだろ?という顔のレンに俺はニヤリと笑った。

「それさえ分かれば後はどうにかなると思う。魔法はまだ撃てるのか?」

「…撃てるけど。因みに、最上級魔法は無理な?ラナ切れて動けなくなる」

「なら、外に向かって光属性魔法をぶっ放してくれ」

「ぶっ放せって…俺は光属性の攻撃魔法は撃てないぞ?」

「別に攻撃する必要はない。…彼奴らのを潰すんだ」


俺の考えている通りなら撃った瞬間、相手は何も見えなくなるはずだ。

暗視魔法の効果は暗闇でも活動出来るように魔法で視界を良くしている。

言い換えれば。魔法で無理矢理にでも見えるようにしてるのだ。

其処に強烈な光を放たれたらどうなるか?答えは簡単。

暗闇の中でのみ適用されるのだから当然、逆効果となって視界は奪われる。


「勿論、理不尽な世界なんだし通用しない可能性だってある。でも」

此処で無意味に馬車を飛ばしても時間の問題だと思うんだ。

「…確かにな。でも、俺は光属性魔法を撃てないんだぞ?」

「それは、攻撃魔法の話だろ?逆に言えば攻撃魔法以外は撃てるんだよな?」

「あ、あぁ。まぁ_。…ローライトなら」

「なら、それを今すぐ唱えてくれ!馬車のスピードも落として貰うよ_」

「…リム。それを使うのは止めるべき。…凄く、悲惨なことになる」

「な、何でだ?攻撃魔法じゃないんだろ?だったら大丈夫じゃないのか?」

「残念だが、此処はヨミの言う通り使うのは止めるべきだ」

「…そんな危険な魔法なのか?」

「危険…まぁ、そうだな。最悪、放った瞬間にぶっ飛ばされる」

「…それは攻撃魔法じゃないのか?」

「正確には妨害魔法。相手の視界以上に…を潰すんだ」

「…説、明_。…下手。…そう、物凄く…大きな…音が出る」

それも大き過ぎて死んじゃう。と耳を塞ぐようなポーズをするヨミ。

「大体はそうだ。放った瞬間、爆音と共に光が出るんだ」

「…ってことは、視力を潰す代わりに俺らは耳が死ぬってこと?」

「まぁ、端的に言えばそうだな。だから、無理だって言ってるん_」

その瞬間、馬車が大きく揺れた。

「もう、其処まで来てますよ!このままだと桟橋を境に追い付かれます!」

おっちゃんにそう言われた俺らは途端に焦り出した。

「ちっ…。もう時間がねぇ!どうする?目標さえあれば撃てるのに…!」

「(撃ちたくても照準がないから撃てない。だから明るくしたい)」

でも、そうすれば今度は俺らに被害が出て本末転倒だ。

「(このままだと時間切れで死ぬ、もしくは共倒れになっちまう…!)」

「決めた。俺が馬車を降りて応戦する」

「お前、何を言ってんだ?そんなの駄目に決まってるだろ!」

「敵さえ分かれば俺の魔法でお前らを考慮せずにまとめて吹っ飛ばせる」

「そ、それはそうかもしんないけど…!でも、そんなの認められる訳_」

「そうと決まればさっさと終わらせよう。此処で時間を喰っても…無駄死にだ」

言うや否やレンは走る馬車のドアを開けて飛び降りると逆走し始めた。

「(レンの奴…本気で行きやがった_!)」

こんな状況で行くなんて、完全に死亡フラグだ。誰がどう見ても彼奴は…。

そうして俺がレンの行った方向を見ているとヨミに服を引っ張られた。

「…リム。心配になる気持ちは分かる…。でも、今は_前だけを…見て」

「で、でも_!レンの奴は俺らの為に…」

「…レンのことが心配なら_。…レンの気持ちに_報いるべき」

「それは…そう、だけど_」

ヨミの言葉に俺は詰まってしまった。感情論として動いても何が出来るのか?

無力で無知なのに。俺にとって、どうにか出来る状況じゃなかった。


「ほら、着いたぞ」

「ありがとうございます。おっちゃん」

「おっちゃんじゃなくて、ヴァンダムだ。それと…嬢ちゃんも」

「…どうも」

ヨミを連れてスタリヤさんの家へと戻った俺はそのままベッドに倒れ込んだ。

スタリヤさんは用事で不在だったのは不幸中の幸いなのだろう。

「(俺はあそこで死ぬべきだったんだ…)」

俺があそこで死ねば過去に戻ってやり直せた。

イリスさんに怒られるだろうけど…それでも、レンを失うよりマシだ。

でも…それも、もはや手遅れなのだろう。

「(今になって自殺しても…もう戻れる時間外なんだろうな)」

この瞬間に死ねばレンと別れる前まで時間を戻せる、なんて都合良く行く訳ない。

そんなことが通用するのなら今までの苦労は何だったのだと、そう自嘲したくなる。

「(後から、スタリヤさんにも説明しないといけない。…どう説明する?)」

スタリヤさんにレンは死んだ。なんて言える訳ない。言えるはずもない。

「(俺は…これからどうするべきなんだろう…)」


「…俺、寝てたんだな」

気付けば3時間程経っていた。こんな状況でも寝れる俺の怠慢さに自嘲する。

「…寝てた、けど_。…まだ、疲れてる?」

身体を起こすと同時にヨミが部屋へと入ってきてそう尋ねた。

「別に疲れてない訳じゃないけど…どうしたんだ?」

「…帰って、きたよ?」

俺はその言葉に溜息を吐くとヨミに連れられて下へと降りた。

「(結局、寝落ちした所為でスタリヤさんへの説明を考えてなかった…)」

ヨミも隣に居てくれるとは思うけど説明は俺からすべきなのは明白。

そんなことを考えつつスタリヤさんと対面し_

「あの後、すぐに寝ちまうなんて…よっぽど疲れてたんだな」

其処に居たのは…死んだはずのレンだった。

「…お前。何で、生きてるんだ?お前は、あの場所で死んだはずじゃ_」

「何で勝手に殺してるんだ?あんな見え見えの死亡フラグで死ぬと思ったのか?」

「そりゃ、思うだろ…。だって、あんなヤバイ状況だったんだぞ?」

「ヤバイ状況だったのは事実だな。実際、死に掛けた」

「でも、生きて帰って来れたんだな。…良かった」

「まぁな。因みにネジキの方も終わったよ。作戦は無事に成功だ」

それからレンは俺たちと別れてからの出来事を話してくれた。


「(…まぁ、あんな感じで別れたらそりゃ、焦るよなぁ)」

漫画や小説じゃお決まりの死亡フラグだが俺は違う。

「この発言もある意味、死亡フラグになるのか?自信過剰って奴で」

でも、実際に俺は死なない。そもそも、無策で突っ込むことはしないしな。

最上級魔法の火力に頼って強引に殲滅させるのは無理だがそれでも手札はある。

「お前らも御苦労なこった。どうせ、此処で逃げ仰るのにな」

俺を取り囲む奴らは漏れなくネハイルの寄越した奴らだろう。

「(ネジキの奴も不安材料を俺に押し付けるなんて厄介なことしやがって_)」

「お前と喋る意味もなければその猶予すらない。さっさと死んで貰おう」

「死んでくれ、って言われて素直に死ぬ奴が居ると思ってるのか?」

「寧ろ、この人数差で挑む方が愚かなものだ」

「確かに表面上は7人相手に挑もうってする俺は愚か者だな」

でも、それは愚か者であるとした時のみってことを忘れてないよな?

殺れ!男が言った瞬間、俺は鞘を抜き応戦する形を取る。

「俺らはお前と違って構ってる時間がない。さっさと死んでくれ」

「残念だが此処で死ぬのはそっちだ。…馬鹿野郎」

投擲された斧を避け斬り掛かってくる2人を押し除けた。

「お前らは勘違いしてるようだが…俺に勝つのは不可能だ」

何故、俺が戦いを嫌うのか?そんなの、俺を知っている奴なら分かるだろう。

「それは、俺がしょうもない肩書きを持つ、剣聖だからだ」

刹那、俺を中心に全てが爆ぜる。


爆弾と言えば高威力でとんでもない破壊力を持つ化学兵器だ。

そしてその威力は爆心地に近ければ近いほど大きくなるのは周知の事実だろう。

目の前に爆弾があれば逃げようとする。それは常識人なら当たり前の行為だ。

時間があれば解除するかもしれないが大体は大きく距離を取ろうとするだろう。

では、問おう。目の前で自分の犠牲を顧みず即爆破する物はどう避けるのだ?


全てを無に変えた跡地を眺めた俺は来た道を戻った。

「初めて使ったけど成功して良かった…。もし、失敗してたら死んでたわ」


自爆魔法。その名の通り威力を代償に自分を犠牲にする魔法だ。

詠唱時間なしで発動出来る上にその威力は最上級魔法以上とも言われる。

唯、その代償はとても大きく使えば最期。使用者は死んでしまう諸刃の剣だ。

なら、どうして生きているのか?それは自爆魔法の仕様にある。

実は自爆魔法の正体をざっくり説明すると逃げる心理を逆手に取った魔法だ。

自爆するのに逃げられると自分は喰らうのに相手に避けられてしまう。

だからこそ、自爆魔法はから喰らうようになっている。

まずは、外側を焼いた後に使用者を焼く。そんな仕様になっているのだ。

だからこそ、俺は自分が喰らう直前に速攻で防御魔法を展開し自分を守った。

外側と使用者の爆発誤差はたったの0.1秒。失敗すれば漏れなく死んでいた。


「(…まぁ、もう使うのは止めよう。生きた心地しなかったし)」

そうして俺は無事に撤退することが出来たのだった。


「自爆魔法って_お前、マジでヤバイじゃん!」

「…それは思った」

「だから言っただろ?死に掛けたって。流石の俺も賭けだったんだ」

「そう思うんだったらもう2度と使うのを止めてくれ…俺が死んじゃう」

「あぁ、そうするよ。もう俺も走馬灯を拝みたくはないからな」

そう苦笑するレンに対して俺は呆れたのだった。

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