「取り合えず、現場へ行こう。日が出ている内に終わらせたいしな」
そうして地図に載った場所へとやって来たのだが…
「天気は晴れてるのに此処ら辺は随分と暗いんだな」
「イーツは暗い場所で栽培されるんだが本来もこんな感じの場所で育つんだ」
だから、早めに終わらせたいんだよ。と先程の言葉の意味にも納得が行く。
「この時間帯でこの暗さなんだし日が沈んだら…本当に不味そうだな」
「恐らくだが…視聴覚室レベルの暗さになる。…流石にその表現は伝わるよな?」
随分と懐かしい単語だと思ったが想像すると少し怖気付いた。
「じゃあ、どうやって取るのかを見せるからちゃんと覚えとけよ?」
「あぁ。撮り方も知ってるなんて流石は便利屋ってところだな」
そういうとさも当たり前のように、それが自然かのようにジャンプで木の幹に上った。
「念の為に聞くが…此処まで跳べるか?」
「跳べる訳ないだろ。寧ろレンこそ何で当たり前のように2mも跳ぶんだよ」
「え、まぁ…特に気にしては来なかったけど…」
「(何?この異世界は
と聞こえないであろう天のイリスに毒付いているとレンが別案を出した。
「…じゃあ、代わりに飛躍魔法を使うからそれで代用しよう」
と言うや否や彼は詠唱を始めた。
「飛点を讃えし心象よ 遊宴抱きし快翼よ 刹那の歌美を鎖り紡げ」
終えた途端、自分の身体がヤケに軽くなるのを感じた。
「多分、魔法は発動してる。飛んでみろ」
その言葉を信じながら軽くジャンプをしてみると宙に浮いた。
「これは〈ジェスティア〉っていう魔法なんだ」
地味に便利なのは低コストで名前を言わなくても発動する点だな。
「それは俺にも使えるんだよな?」
「まぁな。覚えるまでに時間は掛かるが自然に出来るようになるさ」
そう言うと枝になっている実を簡単そうに取った。
「こんな風に枝との部分を軽く回せば簡単に取れる。やってみてくれ」
そうしてレンと同じように真似てみたのだが…中々に上手く行かない。
その様子を見ていたレンが再び声を掛けた。
「そうだな…じゃあ、このヘタの部分を直接回す感じでやってみてくれ」
「こんな感じか…?あ、と、取れた!」
「そうだ。…見た感じリムは日本であんまり果物狩りとかしてないか?」
「まぁ、そうだな_あんまりする機会は…なかった」
と言うか殆ど家に居た。なんて言ったらどんな反応をするのだろうか。
「そうか。…高校生相手に生前のことを聞くのは癪だったか」
「別にどうってことはない。結局は死んで異世界に転生しちまった訳だしな」
「…それだと良いんだけど」
「(まぁ、俺の人生なんて殆ど価値のないようなものだったからな)」
本に金を使うということは言い換えれば他に使ってないことの裏返しになる。
高校生活で使う場面は沢山あるのにその殆どを使用する時点で察して欲しい。
それくらい惨めな人生だったから_未練はそんなにない。…強いて言うなら、
「(両親は大丈夫なのか_?)」
死んでからというものそれだけが心配だった。…両親は凄く優しかったから。
そんな両親に息子の早死を味わわせるのは心苦しかった。
「(最期まで恩を仇で返すことになるなんてな_)」
そういう意味では理不尽ってのも自分に対する罰なのだと思_
「…リム?」
その言葉で俺の意識は現実に引き戻さた。隣を見ればちゃんとレンも居た。
「暗い記憶を思い出させたようだな。…俺の配慮不足だ、悪かった」
戻されたってよりも、戻してくれたのだろう。言葉を選んでくれたのだから。
「…考えてみればリムは転生してまだ2日目なんだよな」
「あぁ。でも、この2日間は充実してる」
その言葉を最後に俺らは無言で作業を続けた。
最後の1つを集め終えた時には既に日が暮れる頃合いだった。
「取り敢えず、これで全部集め終えたな_。代わりに日が暮れそうだけど」
「そうだな。ところで、リム。俺が使った飛躍魔法は覚えてるか?」
「あぁ。〈ジェスティア〉だろ?要するにそれを使えば良いんだな」
「…リムもこの世界に慣れてきたようで安心した」
「どうなんだろうな_。まぁ、さっさと帰って今日は寝たい」
それくらい疲れたんだ。と沈んで行く光を浴びながら疲労を吐露するのだった。
【奉納ギルド】「イーツ」〈PERFECT CLEAR〉
ギルドに戻るとレンがクリアした報告と報酬金を受け取って戻ってきた。
「今日の報酬金だ。ほら、受けよれよ」
そうして貰った包みの中には銀貨が数枚入っていた。
「俺の計算が間違ってなかったら…。数的に全額、だよな?」
「当たり前だろ?報酬金なんだし金額が間違ってたら問題だぜ?」
「いや、そういうことじゃなくて…レンの取り分もあるだろ?」
俺のクリアは建前で実際に協力してくれたレンにも取り分はあるはずだ。
ギルドとしての内訳では俺の報酬金であってもレンには渡す必要があるのだが_
「別にどうってことはないさ。お前の頑張りってことで受け取れ」
と報酬を受け取ることを頑なに断った。そのことに説得したが最終的に折れた。
「じゃあ…有難く貰うからな」
「あぁ、そうしてくれ。じゃあ、明日も色々とする予定だから早めに休めよ」
「本当にありがとうな、レン」
この後、依頼があるから帰りは遅くなる。と出て行ったレンを見送って
俺は席に戻った。レンには昨日からずっと世話になりっぱなしだ。
「(感謝を述べても本当に足りないくらいなんだよな)」
昨日も言ったが改めてお礼をしないといけないと感じたのだった。
その後、この世界の色々な食べ物に挑戦してみた。
例えば「クテット」と言う料理は日本で言う唐揚げみたいなもので
肉はこの世界の「サンらる」と呼ばれる巨大鳥を使っているらしい。
最初は抵抗があったものの食べてみたらめちゃくちゃ美味しかったし
思わず評判がどうなのか聞いたのだが看板料理の1つでもあるそうだ。
そうして悩みに悩んでクテットを7個も購入してしまった。
そして、「ライヒロ」と言う商品はこの世界のお菓子枠でそれぞれ
味が違っているらしい。俺が食べたのは味噌味と穴味だった。
味噌味は何となく分かると思うが穴味に関しては俺も分からなかった。
まぁ、不味くはなかったし良かったことにしておくべきなのだろう_。
(この後、知ったことだが穴味は中身は兎も角、元気になれるらしい…)
ギルドを出た俺は夜の街をぶらぶらと歩いていた。
夜の街の雰囲気は凄く落ち着くもので個人的には凄く好きだ。
「(現実と似てるけど_異世界なんだよな…)」
別に異世界だからって目立つ建物はない。見た目は完全に欧州だ。
仮に写真を撮って日本の皆に見せてもそう言われてもおかしくない。
それくらい納得の出来るほど雰囲気が似ているのだ。
そうして、暫く歩いて帰ろうという時、俺は座り込む少女を見掛けた。
「こんな暗い時間に_何をしてるんだ…?」
古びた服1枚で座り込んでいる少女に質問したが少女は黙ったままだった。
状況を見るに長時間、此処に居たのだろう_となれば人の目に留まったはずだ。
恐らく、誰にも声を掛けて貰えなかったから此処に居るに違いない。
俺だってそうすることも出来たし人との関わりを嫌う昔の俺は間違いなくそうした。
「立てるか?」
…でも、そうしなかった。何故?だなんて聞かれても理由は決まっている。
転生してから俺は常にレンに助けられているのだから。
もし、レンと会えなかったら俺も確実にこうなっていたと断言出来る。
だから、俺も助けるのだ。それが例えどんな人であったとしても_。
「ほら、手を貸すから。ゆっくりで良い」
そう少女に声を掛けると俺はゆっくりと立ち上がらせ…少し高いな、おい。
少女、と呼ぶには少し大きい。女子少中学生前後の大きさだろうか?
「念の為に聞くけど1人で歩けるか?」
「…無理」
期待はしてみたが想像通りの返ってきた言葉に溜息を吐くと彼女を背負った。
「…何するの」
「こんな所に居たら死んじまうだろ?ちょっとの辛抱だから耐えてくれ」
「…」
そうして俺は彼女と共にスタリヤさんの家に向かったのだった。
「で、あの嬢ちゃんを連れてきたと」
「…こんな頼みは無謀だと分かってる。でも、住まわせて欲しいんだ」
住まわせて貰えている分際でこんな頼みはお門違いだ。
そう分かっている。スタリヤさんにとって理不尽極まりないだろう。
だから、断られるのは目に見えているし最悪の場合、追い出される可能性もある。
そうなったら俺はどうするべきなのか?そう考えていた矢先_
「お前が面倒を見るなら考えてやる。俺は女の扱い方を知らんからな」
と何故か了承してくれた。だが、そんな簡単な話ではなく_
「だが、色々と条件もある」
「それは…分かってます。迷惑を掛けているのは事実なので_」
「…取り敢えず、嬢ちゃんには風呂に入って貰おう。話はそれからだ」
「ありがとう、スタリヤさん」
そうして俺は3つの条件を承諾し追い出されずに済むのだった。
「(今後を考えた上で結構な痛手だが仕方ないよな…)」
そうして俺は自室に居る彼女を呼んで風呂に入れさせようとし_
「風呂に入って貰うんだけど…」
「…?」
「えっと、その…身体汚れてるしさ、綺麗にした方が良いと思うんだ」
中々のセクハラ発言と自覚しつつも俺は無言の彼女を風呂に入れさせた。
漢なら無知な彼女と風呂に入って身体を洗う。なんて下衆な考えも出来るだろうけど
そんなことをしたらスタリヤさんに殺されそうだしそもそも出来ない。
そうして外で待つことを強制されたのだった。