「あぁ、こんな感じなんだ_。やっぱり、予想してた通りだな」
そう思った途端、今まであった読む気も失せてしまった。
今は深夜の3時前。高校生にしては遅めの時間帯だろう。
最も、今は夏休み期間なだけあってお咎めはなしなのだが_
「それにしても前から興味あった作家さんだったのになぁ…」
俺、相田空の趣味は読書だ。その証拠に机の上には数々の本が積まれている。
読書自体は暇潰し程度でしていたのだが友達が新人賞を受賞した情報を
別の友達から聞くや否や俺の興味は小説へと移り変わり気付けば
自分の金を本だけに使う日々になっていた。
その所為、なのだろう。俺は無駄な〈スキル〉を手に入れた。
「先読みする」というものでネタバレのようなものだと思って欲しい。
だから、どんなに人気な小説でも俺はその先の展開を
何とくだが感じてしまい、結果的にそうなった。ということが続いた。
その所為で俺は読書の醍醐味を1つ潰されていたのだ。
「本当、役に立たないものだよな_忘れられたら良いのに…」
自分で頭を殴っても冷やしてもそれは消えなかった。
別に詠唱や呪文を使う訳でもない。唯、脳内に浮かんでくる。
それだけの能力だ。日常生活では邪魔そのものだと言えるだろう。
「コンビニでも行って夜食でも買おう」
全部読んでしまう予定でカフェインを取ったので眠気0なのだが
今となっては邪魔だ。こんな展開も読めない無駄な〈スキル〉なのだから。
「こんなことになるなら…飲まなければ良かったなぁ」
日常生活でも使えないデバフ〈スキル〉に溜め息を吐きながら外へ出た。
金足りるよな?とスマホの残高を確認しつつ俺は横断歩道を渡り_
「あ?」
ふと気付けば変な場所に居た。いや、変な場所は変な場所なのだが_
「深夜だから暗いのは当たり前だが…少し暗過ぎるな」
辺りを見渡しても何も見えない。まるで、視界を奪われたような感覚だ。
「あ、気付いたんですね!大丈夫ですよ、安心してください!」
その言葉に振り返ると美女が座っていた。それもまた挿絵にあるような感じの。
実った果実を携え金髪に白のレースを纏った彼女は微笑みを浮かべた。
「えっと_すみません。俺、コンビニへ行く予定だったんですけど」
これは何かのドッキリなのか?それとも…悪ノリの悪戯だったりする?
「そうでしたね。相田空さん」
「何で_俺の名前を知ってるんだ?俺ら、初対面…だよな?」
突如、俺の本名を呼ばれて驚いたが彼女は平然としていた。
「ですね。あ、名前の方は貴方が既に死んでるので自然と分かるんです」
「それは便利な仕組み…すみません、聞こえなかったんですけど」
死んだ。なんて単語が出たが、きっと俺の勘違いだろう。
「…どうされましたか?何か御不明な点でも_」
「あの、死んだって聞こえたんだけど。気の所為…だよな?」
「信号無視した車に撥ねられて死にましたよ」
あぁ。と何処か納得したような表情を浮かべながら美女は言った。
「成程。俺は信号無視した車に撥ねられて死んだんだ」
無事に俺の死因も分かって良かった良かった。
「じゃ、ないんだけど!?」
「ひゃっ!も、もう。突然大声で叫ぶのは止めてください!」
と美少女に注意されて俺は我に返った。
「あの、死ぬ場合って行く前じゃなくてコンビニから出た後ですよね?」
「残念ですが死ぬのに場所や時間は関係ないですよ?」
…状況を整理する。まず、俺は死んだらしい。理解出来ないけど。
って、そもそも夢の可能性だってあるな、うん。深夜3時だったし。
「あの…夢だったりする?」
「残念ですけど現実なんですよ_。貴方が死んでしまったのは」
それを聞いて右頬を抓ってみる。_痛くない。あれ、やっぱり夢なんじゃ?
「死んでるので抓っても痛みはありませんよ?」
と淡い希望を抱いた直後、叩き落とされた。希望を抱くのも許されないと。
それに典型的な手段じゃ確かめられない、だって_詰んでるじゃん。
「まぁ、そうだよな…。じゃ、じゃあ…此処は何処なんだ?」
天国でも地獄でもなさそうな雰囲気なんだけど?あ、煉獄って場所_?
そう思っていると「まぁ。その説明もしますけど…」と濁された。
「その前にまずは自己紹介を。私はイリス。呼び捨てで良いですからね?」
流れで俺も自己紹介をしようとしたが彼女は知っていることを思い出した。
「あ、じゃあ…俺もその_空で。イリスさんだけなのは申し訳ないですし」
微笑みを浮かべながら椅子から降りると俺の隣へとやって来た。
「突然なことで困惑してると思いますがまずは結論を」
「え、なに?そんな重い展開になったりし_」
「空さんは異世界へ行くことになります」
「ふーん。そうなんだ。え、異世界…?」
「はい。空さんも異世界の想像は何となくですけど…出来ますよね?」
「えっと、人だけじゃなくて色んな種族の交わってるあの異世界?」
「はい、合ってますよ。それでなのですが_」
「え、もしかして色んなこと出来る?魔法飛ばしたり呪文放ったり!」
「ま、まぁ…急には出来ませんがある程度慣れたら出来るようには…」
「え、マジ?やったー!!」
ラノベで転生したら能力なしだったりと不遇だけど俺は違うぜぇ!
「そ、それでですね!その…転生する異世界は過酷なんです」
「過酷?それって…魔王が居るタイプ?」
暗い話をブッ込まれて少し心配になったのだが…。
「魔王は8世紀程前に討伐されたので既に居ませんよ。良かったですね」
「そうなんだ_。え、じゃあ何で?資源などの問題ってこと?」
「それもそうなんですが_凄く《理不尽》なんです」
え、理不尽?ちょっと嫌な予感がして来たんだけど_。
理に叶わない仕方で行うことやその様子を理不尽と言うのだが_。
「はい。空さんの居た世界での常識はまず通用しないと思ってください」
いきなり難易度高めの世界設定だが…まぁ、まだ許容範囲だ。
「まぁ、異世界ですし…通用しませんよね、大体は」
「理解が早くてありがとうございます!それでは、此方へ」
そう言われてイリスさんの手を握りながら〈門〉の前に立たされた。
それはそれはこの空間にそぐわない様な異質な存在感を放っていて_
「此処から異世界へ行けますよ。空さん、準備は出来ましたか?」
イリスさんの笑みを見て俺は何となく聞いてみた。
「あの、よくある〈スキル〉の説明だったりってないんですか?」
「…異世界に行けば大体はわかると思いますよ」
習うより慣れろ!と言うことらしい。とんでもないな。
「じゃあ、そろそろ〈門〉も開門するので…」
抵抗しようとした瞬間、開門したと思えば身体が消え始めた。
「え、展開が早くないですか?俺、まだ心の準備が_」
「空さんなら大丈夫ですよ。ふふっ、空さんの健闘を祈ってますよー!」
抵抗しようとするも元気な声と共に俺の身体はどんどんと消えていく。。
「ー空さん次第ではまた会えますよ、異世界でも頑張ってくださいね」
別れ際。そんな言葉が聞こえたような気がした。
その真意を探ることなく俺の意識は其処で途切れた。