忘れられた神殿は今までとは違ってパーティを組まないといけない。
俺とフェアは二人だけでも問題ないが、この神殿の条件として、四人のパーティーが必須なのだ。
もちろん、アイテムは分配。そのため、ドロップしたとしても自分の物になるかはわからない。
だが俺とフェアは同じ仲間。
半分の確立で手に入ると思えば、それも悪くはない。
すでに神殿の前には何人も待機していて、強い仲間と組みたがっている。
俺とフェアの名はすでにこの、ラインエイジで知られているので、沢山の人に声をかけられた。
俺は戦士、フェアは魔法使い。それを考えると、職業被りはないほうがいい。
特に魔法使いは、支援型と攻撃型に分かれる。フェアはどちらかというと支援型で、そうなると火力特化型の魔法使いが一人欲しい。
そして欲を言えば、もう一人は前衛のタンク。
タンクはすべての攻撃を一人で受ける。
とても頑丈で、どのボスの攻略でも必須だ。
しかしそれと相対するように不遇職でもあり、一人で狩りをすることが難しい。だからこそ、なかなか見つからないが……。
「宜しく! 私はシェル!」
「いいのかな? あたしはアクア!」
運よく、タンクをしているオーク族の女性と火力特化型のダークエルフの女性と知り合うことができた。二人ともそこそこいいレベルで、前作もプレイしていたとのことだ。
これはかなり期待できる。
俺たちはパーティーを組むと、すぐに石板に向かってダンジョン入場の申請をした。
視界の中心に、本当に入りますか? と、アナウンスが表示される。
承認を押すと、全員の姿が消えた。
次に目を開くと、そこは神殿の中だった。狭い小道からはじまり、壁は水で出来ている。
これが、この島のダンジョン。忘れられた神殿だ。
ダンジョンには、様々な属性や特徴がある。ここはアンデットと水属性の魔物が多い。
初期ダンジョンだが、油断のできない場所だ。
まず、フェアが覚えたての支援魔法を全員にかける。俺にかけるときだけは、少しだけ片目をウィンクしてくれた。ちょっとドキッとした。
萌え萌えキュン。
シェルとアクアは長い付き合いらしく、まるで俺たちみたいだった。
どんな狩りもボスも二人で攻略してきたとのことで、何か運命を感じた。
しかしながら俺の名前は知らなかった。
まぁそれはちょっと悔しかったが、このアズライト様を知らないとは、前作は大したことなかったのかな? とちょっと偉そうにも思ってしまった。さてさて。
「まずは前に進もう」
俺は格好よく、全員の前に立った。タンクのシェルを差し置いてちょっと申し訳ない気持ちになったが、少しはフェアに良いところを見せておかないと、もしかすると取られるかもしれないからな。
「ここからは敵も多くなる。油断せずいこう」
俺のリーダーとしての素質が開花されるようだった。全員が元気よく声をあげる。ああ、懐かしいな。ギルドでよくこうやって、みんなで狩りをしてたっけな。
そして俺たちは、ダンジョンを攻略しながら、モンスターをバタバタと討伐していった。
鳥の魔物のピーポム、アンデットモンスターの
休憩を挟みながら、俺たちは効率よく一階、二階、そしてようやく最上階に辿り着こうとしていた。
ダンジョンは地下に行く場合もあるが、これは上にあがる系のやつだ。最後どうやって帰るねんって思うが、まぁそれはゲームだ。深くは考えないでくれ。
途中でシェルが、フェアと少しだけ仲良くしていたのが気に障ったが、女の子同士。
こういうこともあるだろう。
というか、よく考えればこれはハーレムではないか。
俺の大好きな、ハーレムアニメの主人公になったような、そんな気分を味わえていることに今更ながらようやく気が付いた。
俺のHPを削ることができるのは、誰もいないぜ、みたいなセリフも、一度くらい吐いてみたい。
ちょっと言い方が違うかもしれないが、まぁこんな感じだっただろう。
そんなことはさて置き、俺たちはボスの前で準備を整えていた。
「アズアズ、装備は万端?」
フェアが俺の心配をしてくれている。ああ、もちろんだ、と声をかけ、頭を沢山撫でた。ういやつめ。
シェルとアクアもなかなかにいい装備をしている。というか、よく見ると結構可愛い。だが、俺は一途だ。フェア以外の女性は目入らない。
もう入ってるが、そういう意味ではない。
「アズライトさん、めちゃくちゃ強いですね」
「本当、ここまで楽にこれたわ」
シェルとアクアの賛辞が、俺の心をくすぐる。
まぁ俺は、あのアズライト様だ。お前たちは知らないが、俺は前作で……。おっと、まだこれは秘密だ。
面白みがなくなっちまうからな。
「そんなことないよ、君たちも十分に凄い。僕たちならクリアできる。がんばろう!」
俺は剣を天に、いや、天井に突き出した。後を追うようにフェアが魔法の杖を掲げる。
シェルとアクアもそれにならうと、全員で武器を天に掲げた。
最後の戦い。最後のボス。
そして俺たちは、最後の扉をあけた。
そこには龍のような大きな魔物、シヴァーナが眠っていた。 どうやら俺たちは、この魔物の安眠を妨げた侵入者のようだ。
「グウウウウウウガアアアアア」
シヴァーナは起き上がると、すぐに炎を噴き出した。
それをシェルが盾で防ぐ。
こいつ、なかなかやるじゃないか。
そしてフェアもすぐに支援魔法でシェルを支える。
俺はすぐに横に展開すると、手にしていた剣で斬撃を与えた。シヴァーナは翼をもぎ取られると、痛みでのたうち回る。
これが俺の【渾身の一撃】。クールダウンはあるが、かなり大ダメージを与えることができる。
クールダウンっていうのは、わかるだろう? スキルを連続で打てないように、運営が作っている時間のことだ。連続使用が出来ないようにな。
「アクア、シェル!」
俺は二人に叫んだ。同時に攻撃をしろ、という意味だ。フェアにはウィンクをしておいた。彼女なら、わざわざ口で伝える必要はない。
それが、内助の功ってやつだ。 合ってるか?
「行くぞ!」
俺は剣を突き出し、シヴァーナの身体を貫通させた。そして同時に、アクアとシェルも攻撃を仕掛ける。
フェアは風魔法のかまいたちでシヴァーナに攻撃を何度も仕掛けている。さすがだ。
そしてシヴァーナはついに倒れた。軽快なBGMがその場で流れはじめる。
シェルとアクアが喜びで飛び跳ねるように抱き着いた。女の子同士でぎゅっとしているところを眺めるのは悪くない。
俺もフェアに抱き着きたかったが、それはさすがに硬派な俺にはできない。そう思ったとき、フェアがぎゅっと俺を抱きしめた。
「おいおい、まだ最初のダンジョンだぜ」
これでは身体がいくつあっても足りないぜ。
俺はフェアの頭をなでなでしながら、これからダンジョンボスを討伐するたびに、こんな嬉しい出来事が起きるんじゃないかとワクワクしてしまった。
シヴァーナの身体が粒子のようにキラキラと消えていくと、アイテムだけがその場で残った。
ちなみにこういうアイテムは、ほかのプレイヤーが簡単に奪えないように、ダメージを多く与えたパーティーメンバーだけが取得できるようになっている。
まぁ、ダンジョンではあまり関係ないが、そのあたりは厳しく設定しておかないと、後々大変なことになる。
「これは……」
そして喜ばしいことに、なかなかでないアイテムが落ちていた。シヴァーナの特殊アイテム、リューグーノツカイという武器。
これは、何かになんかに似てる気がするが、深くは考える必要はない。とにかく強い武器だ。
俺たちは分配の方法を決めていなかった。そして一番簡単な、ジャンケンをすることにした。
もちろん俺は、アズライトはジャンケンも強い。
最初にグー、その掛け声の後、俺は勝った。これが、俺の凄さだ。
欲しい物は何でも手に入れてきた。たまに負けることもあるが、大体はという意味だ。
シェルとアクアとはそこで別れた。これがMMO。一期一会の出会いが、己を成長させる。
女性二人のペアも、なかなかに悪くはない。今後何かあれば、あの二人を呼ぶこともできる。フレンド申請は既に終わっているからな。
このアイテムは、今後進んで行く上でも必要なアイテムだ。
そしてこの武器は、戦士である俺のメイン武器になりえる。フェアには悪いが、これは俺が持っていたほうが、今後もスムーズにゲームを進めることができる。
フェアならわかってくれるだろう。そう、当たり前だ。
「フェア、この武器は僕がもらう。申し訳ないが、わかるだろう?」
俺は、ハッキリと意思表示した。わかってくれるよな? これは、仕方がないことなんだ。
しかし……。
フェアは、魅力的な唇をぷるんっと震わせて、あの、ダンスをしてきた。
身体をくねくねと動かして、腰つきはフラダンスのように小刻みに揺れている。
さすがに……さすがの俺でも、心は揺れ動かない。そんなことで、こんな大事な武器はプレゼントはできないんだ。
「フェア……」
俺は少し悲し気な表情を浮かべた。すると、
「アズアズ、ちゅっ」
フェアは、俺のほっぺに、あの唇でキスをしてきた。なんて……素晴らしいんだ……。
これが五感を支配する――ラインエイジ。
気が付いたら俺の手元から、リューグーノツカイは無くなっていた。仕方がない、これもフェアのためだ。
しかし、本当に、いやちょっと、がめついなと思ったが、これもまた生活費に使うらしい。
さすがの俺でも、少しだけ怪しく思ったが、本当なの……と涙を浮かべたその姿で、疑うのを止めた。
「わかってるよ、これからも一緒にがんばろう」
「うん! アズアズ……好きだよ」
そしてその日、俺たちはハグをしたままログアウトした。次にログインしたときは、フェアの顔ではじまるなんて、素敵すぎる。
ふう、俺はまたもや、大金を得る機会を失ってしまった。だがまぁいい、これはほんの序章。映画でいうと、プロローグみたいなもんだ。
桃太郎でいうと、まだ桃すら流れていない。
今のうち、フェアにはたくさん笑顔を与えたい。 俺はいつか、彼女を嫁に迎え入れるんだ。
俺は昨日の鮭弁当の残りを、冷蔵庫からひっぱりだすと、チンをして平らげた。
320円の貧相なご飯だが、今の胃には染みる。
はぁ……と、少しだけタメ息を吐いた。
明日もがんばろう、俺は呟きながら、いつのまにか眠りについた。
◇
同日、同時刻、東京都内の六畳半のアパートの一室で、山内次郎が、宅配ピザを食べていた。
サイドメニューは、フライドポテトに、レッグチキン、そして炭酸飲料。いつもは頼むことができなかった、山内次郎にとっては、高級品の数々だ。
「最高だ……」
布団で寝そべりながら、アズライトのことを考えた。
今日も楽しかった。明日はもーっと楽しくなるといいな、ジロ太郎。そんなことを一人で呟きながら、パンパンに膨れあがったお腹をさすさすして
深い眠りにつくのであった。