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第4話 相棒は身近な君と

 おはようございます、と言いながら、コンビニのゲージ裏に入った。

 ん? そうだ。俺は退職したはずだ。


 だが今朝になって、その話が上手く通っていないことを知った。それは一本の電話から。

 フェアとの狩りでクタクタになり、布団の上でいつものようにいびきを豪快にかいていると(多分)、同僚から連絡がきた。


「山田さん? ねぇ、聞こえてますか? ぐーすか寝てましたか?」


 その聞きなれた声が、頭に響く。

 こいつは同僚の男だ。いつも不躾な態度で距離感がよくわからない。

 あんまり好きじゃないので、何をしているのかも知らない。


「はい? なんですか?」

「今日、シフト入ってますよ」


 ん? おかしいな。俺は退職したはずだ。

 ちゃんと伝えたし、書き置きもした。

 更に言付けも頼んだはず。


「そうでした? 忘れてました。後、書き置きは捨てたかもしれません」


 ……なんてことだ。

 ちなみにここの店長はとても良い人で、こんな俺でも雇ってくれていた。そう、ラインエイジがはじまるまでは。

 というか、今も働いていることになっているみたいだが……。


 このままぶっちすることもできたが、それはさすがに悪いと思った。この男にではなく、店長にだ。ちなみに店長は、若くしてフランチャイズのオーナーなり、非常に頑張っている。

 迷惑をかけるのは、さすがの俺でも……気が引ける。


 今日はフェアも仕事でログインが出来ないといっていた。

 バイトよりラインエイジでお金を稼ぎたいと思ったが仕方ない。これで最後にしよう。


 その思いで俺はコンビニに出勤した。そもそもこいつも……先月辞めたとかいってなかったか? 出戻りか? よくわからんやつだな。


「やっと来たか……。もう搬入とかもたまってるから、宜しく頼むよ。僕は一旦休憩するね」


 そう言いながら、俺と入れ違いで裏に入っていった。お前の感謝も言えないそういうところが、俺の気に障るんだ。フェアを見習え。少しはもじもじして、その身体をくねらせろ!

 まぁそこまでは……思わないが……。


 俺はしぶしぶ、半ば強引にレジに入って仕事を頑張った。朝方になると、店長がきて、退職のことを伝えた。


「ええ!? 聞いてないよ!?」


 やっぱりあの野郎、ホウレンソウもできないのか、社会人として常識だろう。

 まあ、直接伝えなかった俺も少し悪いか。いや、結構悪いか?


「そうか……うーん、あと一ヵ月だけ。一ヵ月いてくれないかな? ちょうど、四月になるし、今辞められると……困るんだよね」


 店長の悲し気な表情が心に突き刺さった。今はラインエイジが一番大事だ。そしてフェアが大事だ。

 しかし……こんな俺を今まで支えてくれた店長を悲しませたくはない。俺にも人の心はある。


「わかりました。でしたら、一か月間働きます」


 ありがとう、ありがとうと、店長は俺の手を強く握った。まぁ仕方ない。これも人助けだ。それなら時給も上げてくれと思ったが、この際はもういいだろう。

 そして――。


「ういーす、お疲れ様です」


 帰り際、バックヤードでまたもやこいつを顔を合わせた。

 もとはといえば、こいつのせいで俺はこんなややこしい目に合ってる。

 お前がちゃんと連絡を怠っていなければ、俺は……。まぁいい。ラインエイジにログインすれば、俺はすべてを忘れることができるだろう。


「じゃ、さいなら」


 なんだかビールの匂いがする。もしかすると、バイト中にお酒を飲んでいる可能性がありそうだ。

 しかしこいつともすぐにおさらばだ。俺はラインエイジで、お前と違う人生を歩む予定だ。



 自宅に戻ると、廃棄処分される予定だったお弁当をレンジでチンをした。ビールも用意して腹ごしらえだ。


 しかし、段々とむかっ腹がたってきた。あの野郎、あの、山内次郎・・・・の野郎。

 俺と同じ年齢だったか? 見た目も……ちょっとだけ俺に似てるか……。まぁ俺のがいい男だがな。


 何もかも忘れて夢を追いかけよう。あいつはきっと今頃、汚いベットの上でごろごろしてるだけだ。


 ヘルメットを被ると、すぐにラインエイジにログインした。

 それからほどなくすると、フェアも現れた。


「遅くなってごめん~。実は急に仕事が入って……もう辞めるっていったんだけどね。あんまり言われちゃったから、もう少しだけ続けてほしいって」


 なんだ、まさに俺と同じじゃないか、さすがフェアだ。


「そうなの? 実は……僕もなんだ。奇遇だね」

「ええ~! びっくり! それでね……なんかすごい嫌な人がいて」

「嫌な人?」

「おじさんなんだけど、というか……もういい年なのかな? あ、でもアズアズは違うよ! 素敵だから!」


 いい年……ちょっともやもやしたが、まぁいいだろう。


「それで?」

「凄い……なんというか、臭いんだよね……挨拶もまともにできないし……」

「それは嫌だね……あんまり、関わらないようにしなよ」

「うんっ! やっぱりアズアズは素敵だね!」


 ニッコリと笑うと、俺の腕をぎゅっと掴む。ああ、これだ。これが幸せってやつだ。見てるか? 聞いてるか? 山内次郎。

 独身のお前にはわからない、これが恋愛ってやつだ。


「ねぇ」

「なんだい?」

「今日はどうする?」

「そうだなぁ……島のクエストは終わったけど、忘れられた神殿にいってみようか」


 忘れられた神殿とは、この島にある小さなダンジョンだ。もうここにいる必要はないが、たまにいいアイテムが手に入ることが出来る。


「わかった!」

「よしじゃあ、行こうか」


 俺は手を差し出した。フェアはそれを掴むと、ぎゅっと握り返した。


「はぐれないでね、フェア」

「うん! アズアズ!」


 そして俺たちは、忘れられた神殿に向かって、歩き出した。


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