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07 正面突破 三

 洞窟の外から、撃ってきている。

「下がれ!」

 土方がさけんだ。

 隊士たちは、ミューと二人のアメリカ人を囲むようにして、洞窟の奥に引きさがった。

 坑道のような洞窟は、入り口からみて少し斜めになっているので、小銃弾があたる危険はなかった。


「沖田!」

 土方は隊士たちを下がらせながら、なおも入り口近くの壁ぎわでスナイパーライフルを構えている沖田の名を呼んだ。

 そのとき、ぼしゅう、と聞きなれた圧搾音が聞こえてきた。

 白煙を上げて迫りくる榴弾を、沖田がすばやく照準した。

 たんっ、という小気味いい狙撃音。

 榴弾は洞窟の手前で、爆音とともに炸裂した。

 爆炎がおさまり、黒煙と砂煙がただよっている。


「……トシさん、駄目です」

 沖田が、めずらしく蒼白な顔で言った。

「これじゃあ、狙撃できな――」

 間を置かず、さらに二発目の圧搾音がひびいた。

 沖田がスナイパーライフルを構える。だが、眼前には黒煙がくすぶっていて照準できそうになかった。


 ぶわっ、と渦を巻くように榴弾が黒煙を突きぬけ、

 何かの冗談のように絶望的に、土方たちにむかって突き進んでいった。

「――っ!」

 土方が抜刀した。

 むかってくる榴弾を、居合いのように打ち払った。

 今までにない手応えを感じ、身をひこうとした瞬間、視界が真っ白になった。


 洞窟のなかで、爆炎と轟音がひびきわたった。

 幾重にも反響する、凄まじい衝撃だった。

 黒煙が充満し、息もできない。

「……トシさん!」

 最初に見つけたのは沖田だった。

 血へどを吐いて倒れている土方のすがたがあった。

「……大丈夫だ」

 土方は大刀を地面に刺して、杖のようにして立ち上がった。

 すばやく周囲を見わたす。沖田は無事で、洞窟の奥の隊士やミューたちも問題なさそうだった。

 しかし、洞窟の内部構造をささえていた木材がずたずたに割れている。あと二、三発食らえば、崩壊するかもしれない。


「おい大将、大丈夫かよ!」

 どたどたと左之助がやってきて、ライフルを構えながら土方を気遣った。

「別条ねえ。警戒しろ」

「土方さん……!」

 ミューが真っ青な顔で、土方をささえようと肩に触れた。

「大丈夫だ。奥にいな」

 土方はそう言って無理に背すじを伸ばし、地面から大刀を引き抜いた。顔も軍服も、炎に炙られてぼろぼろだった。


 ふたたび銃声が連続してひびき、洞窟の入り口付近からぴしぴしと土煙があがった。

 おそらく、攻撃しながら包囲網を狭めているのだろう。

「んなろー!」

 左之助がさけび、ライフルを乱射して反撃した。

 隊士たちも壁ぎわに身を隠しながら撃った。

 もう一度榴弾が来たときのために、土方は大刀を構えて前に進み出た。無謀の極みとも言える行動だが、このとき、土方は命を捨ててミューたちを助けようと覚悟していたのかもしれない。


 硝煙のなか、カリフ国兵士のすがたが見えた。

 AKを構えて撃ってくる、顔じゅうにターバンを巻いた男たち。

 ――無駄だったのかもしれない。かれらに正しいイスラムの道を説いたところで、何の痛痒つうようも感じずに人を殺すだろう。心を無くすことを覚悟した人間は強く、強く、哀しかった。

 土方は大刀を構えた。

 RPGを肩に構えた兵士が、狙いをさだめて撃ってこようとしたとき、

 そいつはまるで後ろから撃たれたかのように、倒れ伏した。

 続いて、ほかの兵士たちが次々に倒れていった。


「……あれっ、なんかわかんねーけどやったぜ!」

 倒れていくカリフ国兵士を見て、左之助が首をひねりながらガッツポーズをした。



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