洞窟の外から、撃ってきている。
「下がれ!」
土方がさけんだ。
隊士たちは、ミューと二人のアメリカ人を囲むようにして、洞窟の奥に引きさがった。
坑道のような洞窟は、入り口からみて少し斜めになっているので、小銃弾があたる危険はなかった。
「沖田!」
土方は隊士たちを下がらせながら、なおも入り口近くの壁ぎわでスナイパーライフルを構えている沖田の名を呼んだ。
そのとき、ぼしゅう、と聞きなれた圧搾音が聞こえてきた。
白煙を上げて迫りくる榴弾を、沖田がすばやく照準した。
たんっ、という小気味いい狙撃音。
榴弾は洞窟の手前で、爆音とともに炸裂した。
爆炎がおさまり、黒煙と砂煙がただよっている。
「……トシさん、駄目です」
沖田が、めずらしく蒼白な顔で言った。
「これじゃあ、狙撃できな――」
間を置かず、さらに二発目の圧搾音がひびいた。
沖田がスナイパーライフルを構える。だが、眼前には黒煙がくすぶっていて照準できそうになかった。
ぶわっ、と渦を巻くように榴弾が黒煙を突きぬけ、
何かの冗談のように絶望的に、土方たちにむかって突き進んでいった。
「――っ!」
土方が抜刀した。
むかってくる榴弾を、居合いのように打ち払った。
今までにない手応えを感じ、身をひこうとした瞬間、視界が真っ白になった。
洞窟のなかで、爆炎と轟音がひびきわたった。
幾重にも反響する、凄まじい衝撃だった。
黒煙が充満し、息もできない。
「……トシさん!」
最初に見つけたのは沖田だった。
血へどを吐いて倒れている土方のすがたがあった。
「……大丈夫だ」
土方は大刀を地面に刺して、杖のようにして立ち上がった。
すばやく周囲を見わたす。沖田は無事で、洞窟の奥の隊士やミューたちも問題なさそうだった。
しかし、洞窟の内部構造をささえていた木材がずたずたに割れている。あと二、三発食らえば、崩壊するかもしれない。
「おい大将、大丈夫かよ!」
どたどたと左之助がやってきて、ライフルを構えながら土方を気遣った。
「別条ねえ。警戒しろ」
「土方さん……!」
ミューが真っ青な顔で、土方をささえようと肩に触れた。
「大丈夫だ。奥にいな」
土方はそう言って無理に背すじを伸ばし、地面から大刀を引き抜いた。顔も軍服も、炎に炙られてぼろぼろだった。
ふたたび銃声が連続してひびき、洞窟の入り口付近からぴしぴしと土煙があがった。
おそらく、攻撃しながら包囲網を狭めているのだろう。
「んなろー!」
左之助がさけび、ライフルを乱射して反撃した。
隊士たちも壁ぎわに身を隠しながら撃った。
もう一度榴弾が来たときのために、土方は大刀を構えて前に進み出た。無謀の極みとも言える行動だが、このとき、土方は命を捨ててミューたちを助けようと覚悟していたのかもしれない。
硝煙のなか、カリフ国兵士のすがたが見えた。
AKを構えて撃ってくる、顔じゅうにターバンを巻いた男たち。
――無駄だったのかもしれない。かれらに正しいイスラムの道を説いたところで、何の
土方は大刀を構えた。
RPGを肩に構えた兵士が、狙いをさだめて撃ってこようとしたとき、
そいつはまるで後ろから撃たれたかのように、倒れ伏した。
続いて、ほかの兵士たちが次々に倒れていった。
「……あれっ、なんかわかんねーけどやったぜ!」
倒れていくカリフ国兵士を見て、左之助が首をひねりながらガッツポーズをした。