ジープが、ひた走っている。
カリフ国残党がいるはずの山岳地帯は、さらに80キロほど北上した地点にあるという。走るにつれて地形が複雑になり、背の低い木々の緑が目立つようになっていった。
捕虜収容所の兵士たちには、中隊長が意を含めてくれたおかげで、支障なくイーアドを連れ出すことができた。
しばらく走り、追っ手が来ないと判断した土方は、ジープの荷台に座っているイーアドに話しかけた。
「おい、イーアドよ」
『なんだ?』
イーアドは、同じく荷台のふちにもたれて座っている土方に、怪訝そうな目をむけた。
「写真を撮らせてくれ」
『は?』
「だから、写真だ」
『何を言いやがる』
そこで運転席から、山南が説明しはじめる。
「つまり、人質を殺させないための作戦なんですよ。カリフ国地方司令官が捕らわれている画像を見せれば、むやみに人質を殺さないでしょう」
『おれはお前らに協力してるわけじゃないぞ』
「まあそう言わず、お願いしますよ。平助」
「ほいさ」
山南に呼ばれて、ぴょこん、という感じで平助が後部座席から頭を出した。両手でスマホを構えている。
土方も一緒に写しておいたほうがいいだろうと判断した平助は、スマホをイーアドと土方にむけて、
「はい、二人とも笑ってー」
と、声をかけた。
「おかしくもねえのに笑えるか」
『おかしくもないのに笑えるか』
結局、二人とも仏頂面で写っている画像ができあがった。
「あんまいい出来じゃないなあ……」
平助がスマホを操作しながら、
「……ほい送信っと」
と、中隊長から教えてもらったカリフ国残党の連絡先に画像を送信した。あらかじめ作っておいた文書も同時に送った。
『おい』
イーアドが怪訝そうに言った。
『別におれはトッシーと闘えればなんでもいいんだがな』
「そのあだ名で呼ぶな」
土方が、大刀の鯉口を切った。
『気の短い野郎だ。なんでもいいんだが、そんな画像を送ったら、人質を救出しに行くことがバレるんじゃないか?』
「当然ですよ」
山南が気楽そうに言う。
「私たちはカリフ国に宣戦布告するのですから」
『はあ?』
「正々堂々と戦います。今回はこれから三時間後に、カリフ国残党の隠れ家を叩く。さっき平助が通告しました」
『馬鹿じゃないか』
「新選組らしいって言ってくれや」
行儀悪く窓に足を乗せた左之助が、振りかえって言った。
「正面から斬って斬って斬りまくるぜ。討ち入りじゃい」
「討ち入りはともかく」
山南が続けて言った。
「G9が投入した無人戦闘機が、新たなテロを起こす引き金となっています。無人戦闘機への怒りが自律型ドローンを開発させることとなった。敵が無人機で来るならこっちも無人機でやる、ということです。民間用ドローンをすこし改造するだけで大きな威力を得られる自爆ドローンは、カリフ国が潰えた今も世界を恐怖におとしいれています」
『だから何だ』
「私たちは正々堂々と人を殺す。預言者ムハンマドが戦に
『やはり馬鹿だな』
「新選組らしいだろ」
また左之助が口をはさんだ。
「背に刀傷を受けたときも士道不覚悟で切腹だぜ。おれらはな、正面から斬り込んでいくほかねえんだよ」
『……しかし』
イーアドは腑に落ちないようだった。
『もうカリフ国の残党は
イーアドがそう警告すると、助手席でスナイパーライフルを構えていた沖田が振りかえった。
「大丈夫ですよ」
沖田はただひとこと言った。斥候もすべて見つけて狙撃するというのだろう。
『ふん』
イーアドは馬鹿につける薬はない、とでも言いたげに、荷台に寝転がった。
『もう知らん。おれは寝る』
やがてイーアドはいびきをかいて寝てしまった。
ジープは、ひた走っている。カリフ国残党との開戦が近づいていた。