どやどやと、多種多様な人種が食堂に集まってきていた。
その半数くらいは、所属している報道機関の腕章を腕にまいている。
イーアドを捕虜にしたことで一躍有名になった新選組を、取材しようと集まった連中である。国際世論を味方につけたほうが得策だろうと考えたらしい中隊長が、記者会見のような場を設けたのだ。
背の高い欧米人ジャーナリストのうしろで、ミューがぴょんぴょんと跳ねて涙ぐましい努力をしている。
「おれ、緊張してきちゃった」
胸に手をあてている平助を、左之助が肘で小突いた。
「なんでお前が緊張するんだよ」
こういうイベントには不慣れな隊士たちも、やや緊張している様子だった。
「寝グセついてないか?」「たぶん大丈夫だ」「お前癖っ毛だからな」「堂々としてりゃいいんだよ」
中隊長に呼ばれて、ぞろぞろと新選組が食堂に入っていく。食堂といっても、幔幕で日差しをさえぎっただけの簡素な施設である。
土方と山南が中央の長イスに座り、ややぎこちなく隊士たちが二人を囲む形に移動した。
テーブルを挟んでむかいあったジャーナリストたちが、カメラのフラッシュを焚いた。
『こちらが、カリフ国地方司令官を捕らえた日本の傭兵シンセングミです』
中隊長が世慣れた感じでしゃべった。
『勇敢なシンセングミは、ウルミスタン義勇軍の目指す平和のため、ともに戦う決意をしてくれました』
さらにフラッシュが焚かれた。
土方はまぶしげに目を細めた。
「どーも、ヒジカタ、さん」
最前列の赤毛の男が、片言の日本語を話した。
「どうも」
むすっ面のまま、土方が短く返事をした。
赤毛の男は親密な笑みをみせて、あとは異国語で話しはじめた。スマホが同時通訳をはじめる。
『このような機会を提供していただき感謝しています。いろいろ質問したいことがあるのですが、まずシンセングミは過去からやってきたというのは本当ですか?』
「本当だ。信じるかどうかは勝手だが」
土方が短く言うと、ジャーナリストたちが、おおお、とどよめいた。
『どうしてウルミスタン義勇軍に入隊したのですか?』
質問の途中で、土方は山南に目くばせした。
山南が無難な回答を口にする。
「理由はいろいろありますが、カリフ国の行っている非道が許せなかったから、というのが大きいですね」
また、ジャーナリストたちがどよめいた。
『空手! 空手は強いですか!?』
別のジャーナリストが手をあげて訊いた。お調子者、といった印象の男だった。
「そこにいる左之助が達人です」
「えっ、おれ?」
「実演してあげてくださいよ」
「しょうがねえなあ」
左之助はすこし離れた場所に立ち、意識を集中させた後、
「せいあっ!!」
と、
『すごい!』『格好いい!』『富士山!』と、ジャーナリストたちから歓声があがる。
「へへへ……」
照れながら左之助が戻ってきた。
『俳句! 俳句をつくってください!』
調子に乗ったお調子者が、さらに要求した。
「仕方ないな」
ひとつうなずいて口を開きかけた土方を、山南が押しとどめた。
「恐縮ですが、新選組に関係ない質問はご遠慮ください」
山南の言葉を聞いて、土方は仏頂面になった。
その後も質問が続き、そのつど山南が無難に返答していった。
「――すみません」
端のほうにいた東洋人が手をあげて、日本語で言った。
「質問よろしいですか?」
山南は突然の日本語に、軽く驚いたようにこたえた。
「え、ええどうぞ」
日本人らしき男は、所属している報道機関を名乗ったあと、鋭い目つきで言った。
「なぜ、あなたたちは日本に帰らないのですか?」
「ええと、実際に日本に帰った隊士も何名かいます。私たちは自分の意志で、ここに残っています」
「この国に、外務省が避難勧告を出していることを知っていますか?」
そう問われて、山南がすこしたじろいでこたえる。
「まあ、一応は」
「一応、ではありません。出ているんです。あなたたちがカリフ国に捕まりでもしたら、日本政府はその対応に追われなければなりません。その経済的損失は、いくらになるかお分かりにならないでしょうね」
「え、ええまあ」
と、山南が苦笑いしてあいまいに言った。
「傭兵気取りも結構ですがね、もう少し自覚というものを持っていただかないと困るんですよ」
「はあ……なんと申し上げればいいか」
「あくまで希望的にはということですが、将来的にあなたたちは日本に帰るべきではないでしょうか」
「ええ……隊内で検討させていただき……」
人のいい山南があいまいに返事をしたところで、かれは、となりから怒りの熱のようなものを感じた。
見れば、土方がものすごい形相で、こめかみに血管を浮かせている。
それに気づいた隊士たちが、土方から距離を置いた。
山南は尻を浮かせて、長イスの端に座りなおした。
「てめえ!!」
土方が立ち上がりざまに大刀を抜き放ち、どかりとテーブルに突き立てた。
気温の高い中東の地で、なお冷え冷えとした刃がきらめいた。
「新選組を舐めるんじゃねえ!!」
その大喝に腰砕けになったジャーナリスト全員が、先ほどの嫌みな男もふくめて、土方を注視していた。
「おれたちがここにいるのは、戦いを正すためだ!」
テーブルに片足を乗せて、土方がさけんだ。
『……どういうこと?』
最初に質問した赤毛の男が、おそるおそる訊いた。
「新選組は人斬り集団だ! だが、おれたちは刀にかけて、人を殺すということを背負ってきた!」
土方は、さらに続ける。
「だが銃ってなあ何だ。混戦状態じゃ誰か殺したのかわからねえ。義勇軍の無人兵器も、自律ドローンもさらに悪りぃ。誰も殺してねえのに殺されている。殺された側は国と民族を恨むしか仕方ねえだろう」
土方はぐるりと、ジャーナリストたちを見まわした。
「だからおれたちが、人の殺しかたを教えにやってきたのさ」
沈黙があった。
やがて、意を決したように赤毛の男が言った。
『……な、なるほど。無人兵器は……人道的兵器でありながら実は非人道的兵器だということでしょうか』
「そういうこった」
土方は刀を引き抜き、鞘におさめた。
「おいお前ら! 拍手!」
左之助がめずらしく焦ったように言った。
ぱちぱち、と愛想笑いを浮かべたジャーナリストたちが手を叩いた。そのなかの二、三人は感動したように大きく拍手している。
うしろでミューが、跳びはねて拍手している。
『……備品代を引かれるのが好きなやつだな』
中隊長が薄く笑いながらつぶやいた。