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07 首都潜入

 さすがにジープで乗りつけるわけにはゆかず、カリフ国の占領する首都の手前で土方たちは歩くことになった。

『健闘を祈る』

 と、ジープで待つことになったティハーミが励ましてくれた。


 闇夜を、銃を背負った全身黒ずくめの四人があるいていく。

新選組うちらしくねえなあ」

 と左之助がぼやいたが、土方は無視してあるいていった。

 やがて、ごく薄い月明かりに、古い街並みが見えてきた。

 度重なる戦闘で、市街はほとんど廃墟となっていた。

 銃座を取り付けたトラックや、兵員輸送用のトラックが路肩に停まっている。慎重にあるき、やがて目標地点へたどりついた。

 トタン屋根の大きな建物だった。出入り口に二人の歩哨が立っていたが、忍び寄ってライフルの銃把でひと殴りして気絶させた。


 土方が指向性燃焼爆薬を鍵穴にとりつけた。

 ぷしゅう、と気の抜けた音がして煙が立ち、鍵が焼き切れた。

 ライフルを構えて、そっとドアを開く。

 土方たちは、そろりと侵入した。

 暗闇のなか、何体ものドローンの影が作業台の上に並んでいた。安価な民生用ドローンを、技師たちが自律型ドローンに改造しているという話だった。


 土方が爆薬を取りだそうとしたとき。

 ぱっ、といきなり電気が点いた。

 ――!

 囲むように壁をつくり、ずらりとAKを構えたカリフ国兵士たちのすがたがあった。

 その中心では、イーアドが不敵な笑みをうかべて立っていた。

 数十人はいるであろう兵士たちの目は血走って、いまにも撃ってきそうな勢いだった。


『ひさしぶりだな』

 イーアドが顔をゆがめて、まるでふるい戦友にあったかのような口調で言った。

「うむ」

 土方がうなずいて、構えていたG3ライフルから手を放した。ぶらりと、ライフルが肩からぶらさがった状態になる。

「どうしてわかった?」

 土方が訊くと、イーアドは鷹揚にかぶりを振って、

『なんでも知ってるさ』

 と言った。

「まさかここで会うとはな」

『お前らシンセングミのせいで、カリフ国は劣勢に立たされている。呼びつけられて、首都の重要な拠点はおれたちが警備しているのさ』

 イーアドが話している間にも、兵士たちがAKを構えたまま、じわりと土方たちを囲んでいった。


「さあて、どうすっかな」

 G3ライフルを構えた左之助が、緊張したような口調で言った。

 数十人の兵士たちがこちらに銃口をむけている。左之助は背中に槍を背負い、ほかの三人は腰に刀を帯びているが、いかに近接戦が得意な新選組でも、これだけの人数を相手にできるかどうかは疑問だった。土方たちを囲んでいる兵士は、刀の間合いには入ってこようとしなかった。

「ちくしょー、なんでわかったんだよ」

 平助が口惜しそうに毒づいた。

『馬鹿かお前ら』

 イーアドがあざけるように言う。

『こんな夜更けに見慣れないジープがむかってくるなんて、敵に決まっているだろう』

 どうやら、パトロール中のカリフ国兵士から連絡を受けていたようだった。


「イーアドよ」

 土方は、そんなことはどうでもいいとでもいうような口調で問うた。

「お前は、どうしてカリフ国なんかに手を貸しているんだ?」

『ヒジカタ』

 イーアドは、発音しにくそうに土方の名前を呼んだ。

『お前もカリフ国に入ったほうがいい』

 一瞬の沈黙のあと、

「入るわけねーだろ!」

 と左之助が代わりにさけんだ。

 だがイーアドは意に介せず、土方を見据えている。

「どういうことだ?」

 眉根をよせて土方が訊きかえした。


 イーアドは、なんの敵意も持っていなさそうな口調で語りはじめた。

『おれたちは戦いのなかでしか生きられない存在だ。戦いが終われば生きていく場所はない。みな、手のひらを返したように差別しはじめる。おれたちが誰のために戦ったのかということさえ、忘れてな』

 イーアドは軽く首を振って、言い切った。

『必ずそうなる』

「哀れな野郎だ」

 土方も言い切った。

「だから人の道に外れたことも平気でするってえのか? 戦いつづけるためならガキでも殺すのか?」

『カリフ国兵士にするだけだ。真のイスラム国家でこそ、人は人になる』

「……大切な人を、亡くしたからか?」

 そう土方に問われて、

『ずいぶんおしゃべりな脱走者がいたようだな』

 と、イーアドは皮肉っぽく口をゆがめてみせた。

『そうとも。おれの家族は市民に殺された。兵士じゃない。自国民を殺すための国軍の爆撃があったとき、幼子をかかえた妻を助けてくれる人間など誰もいなかった』


 耳を傾けていた土方は、一言、断じた。

「逆恨みか」

『おれにとっての真実だ』

「武士は義に死ぬが定めだ。イーアド、お前、死に損なったな」

『ふふ』

 イーアドはさもおかしそうに笑った。

『まったく、お前はおれが見込んだ男だけあるよ。昔のおれに似ている』

「馬鹿をいうな」

 顔をゆがめた土方は、不快そうに、べっ、と唾を吐いた。

「似ていてたまるものか。吐き気がすらあ」

『そうか』

 イーアドは、腰に吊っていた大振りのナイフを抜いた。

『ところで、お前たちにおれたちは撃てないだろう。ここにはたっぷり炸薬の詰まったドローンがあるからな』

 そう言ってアゴをしゃくった。

 壁一面に、改造を終えたであろうドローンが並べられている。


『そしておれたちも同じだ』

 イーアドは、ナイフを土方の足もとに投げた。

 甲高い金属音が鳴って、くるくるとナイフが転がった。

『死に損ないどうし、ナイフで殺し合うとするか』

 土方は、その刀身が黒く塗られた無骨なナイフを一瞥して言った。

「気が合うじゃねえか」



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