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03 機動部隊

「機動部隊?」

 首をひねった平助が、代表して訊いた。

「そりゃ一体、なにをする部隊なんで?」

『だから、これから説明すると言っている』

 中隊長が平助をひとにらみした。

 制圧した市街には、すでに工兵によって臨時の軍営が建てられていた。無線機や弾薬が運びこまれた大きなテントには、機密を守るためだろうか、中隊長と兵士ひとりだけしかいなかった。隊士たちがはいってくるなり、中隊長は新選組を機動部隊として運用する計画を語りはじめた。


『つまりお前らは、独自の指揮系統を持つ別働隊となって敵をたたく。奇襲をかけ、敵を恐怖させて指揮を混乱させることが目的だ。白兵戦で新選組にかなう奴はいないからな』

 実際、近距離で行われる戦闘において、新選組はほとんど無敗であった。

 刀の間合いに入って、無事だった兵士はいない。

 中隊長は淡々と説明していった。

 土方が指揮する新選組は、別働隊となり、中隊の指示をうけて神出鬼没に敵を攻撃することになるという。


『わかったな』

 中隊長の鋭い視線をうけて、土方は短く、

「了解した」

 とだけ言った。

『それから刀を棒のように使うあれもやめろ。斬り殺せ』

「峰打ちをやめろと言うのか」

 土方の冷たい言葉に、隊士たちのあいだにわずかな動揺が走った。

 敵はなるべく殺さないように、土方は隊士たちに命じている。

 隊士たちは、それが不満というわけではなかったが、内心おかしかった。京都で血の雨を降らせていた鬼の土方が、いったい何を言うのかと。

『そうだ。あれは駄目だ。敵を恐怖させることができん』


「武士の刀は」

 土方は眼光するどく、言った。

「義を為すために斬る。ここじゃあ義なんてものは存在しねえ」

『死ぬぞ』

「覚悟の上だ」

 中隊長は手に負えん、とばかりに薄くため息を吐いた。

『ならせめて、意地を張るのはお前だけにしろ』

 土方は無言で、かれを除く十二人の隊士を見まわした。

 沖田はいつもの微笑をうかべている。左之助が「大将にまかせるわ」と言って、ほかの隊士たちも左之助の言葉にうなずいた。

 土方は苦々しく言った。

「……わかった。斬るか斬らないかは、お前らが決めろ」

 いつにも増して不機嫌そうな顔である。

 土方のつくりあげた新選組という組織が、崩れていくように感じているのかもしれない。


『もうひとつ訊きたいんだが』

 中隊長がさらに問うた。

『お前の言う義とは何だ? 人を殺さないことか?』

「違う。おれはさんざん人を殺してきた」

『じゃあ何だ?』

 土方は沈黙のすえ、「わからん」と言った。

 中隊長は笑わなかった。ただ、

『行け』

 とだけ言った。

 新選組隊士たちは、臨時軍営を後にした。



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