「機動部隊?」
首をひねった平助が、代表して訊いた。
「そりゃ一体、なにをする部隊なんで?」
『だから、これから説明すると言っている』
中隊長が平助をひとにらみした。
制圧した市街には、すでに工兵によって臨時の軍営が建てられていた。無線機や弾薬が運びこまれた大きなテントには、機密を守るためだろうか、中隊長と兵士ひとりだけしかいなかった。隊士たちがはいってくるなり、中隊長は新選組を機動部隊として運用する計画を語りはじめた。
『つまりお前らは、独自の指揮系統を持つ別働隊となって敵をたたく。奇襲をかけ、敵を恐怖させて指揮を混乱させることが目的だ。白兵戦で新選組にかなう奴はいないからな』
実際、近距離で行われる戦闘において、新選組はほとんど無敗であった。
刀の間合いに入って、無事だった兵士はいない。
中隊長は淡々と説明していった。
土方が指揮する新選組は、別働隊となり、中隊の指示をうけて神出鬼没に敵を攻撃することになるという。
『わかったな』
中隊長の鋭い視線をうけて、土方は短く、
「了解した」
とだけ言った。
『それから刀を棒のように使うあれもやめろ。斬り殺せ』
「峰打ちをやめろと言うのか」
土方の冷たい言葉に、隊士たちのあいだにわずかな動揺が走った。
敵はなるべく殺さないように、土方は隊士たちに命じている。
隊士たちは、それが不満というわけではなかったが、内心おかしかった。京都で血の雨を降らせていた鬼の土方が、いったい何を言うのかと。
『そうだ。あれは駄目だ。敵を恐怖させることができん』
「武士の刀は」
土方は眼光するどく、言った。
「義を為すために斬る。ここじゃあ義なんてものは存在しねえ」
『死ぬぞ』
「覚悟の上だ」
中隊長は手に負えん、とばかりに薄くため息を吐いた。
『ならせめて、意地を張るのはお前だけにしろ』
土方は無言で、かれを除く十二人の隊士を見まわした。
沖田はいつもの微笑をうかべている。左之助が「大将にまかせるわ」と言って、ほかの隊士たちも左之助の言葉にうなずいた。
土方は苦々しく言った。
「……わかった。斬るか斬らないかは、お前らが決めろ」
いつにも増して不機嫌そうな顔である。
土方のつくりあげた新選組という組織が、崩れていくように感じているのかもしれない。
『もうひとつ訊きたいんだが』
中隊長がさらに問うた。
『お前の言う義とは何だ? 人を殺さないことか?』
「違う。おれはさんざん人を殺してきた」
『じゃあ何だ?』
土方は沈黙のすえ、「わからん」と言った。
中隊長は笑わなかった。ただ、
『行け』
とだけ言った。
新選組隊士たちは、臨時軍営を後にした。