銃声が連続してひびいている。
横転した車のかげから、沖田総司が顔を出して、M110スナイパーライフルを構えた。
ろくにスコープを見もせずに、次々と狙撃していく。
低く抑えられた銃声がひびき、ビルの壁や土嚢のかげから発砲していた敵兵士たちに、小気味いいほど命中した。
「左之、斎藤、続け!」
土方が抜刀して、駆けた。
最前線にいた左之助、斎藤がそれにつづいた。
崩れかけて内部が露出している建物がならぶ市街を、三人は銃弾をくぐり抜けるようにして走った。
隊士たちが建物のかげを移動しながら、G3ライフルを連射して弾幕をつくった。
土嚢をひと息に飛び越えた土方は、ぎょっと目を剥いて敵兵士がかまえたAKの銃身を擦り上げるようにはじき飛ばし、逆胴をしたたかに打った。
唾を飛ばし、兵士がくずおれる。
峰打ちだった。
運が良ければ、助かるだろう。
右と左では、左之助と斎藤が同じように敵兵士を制圧している。
中隊長や沖田には、甘い、と言われ続けているが、接近戦において銃を持った人間など
暴風が吹き荒れるように、土嚢のかげにいた敵が制圧された。
「他愛ねえ!」
G3ライフルを背負った左之助が、槍で大地をたたいた。
そのすがたはいかにも仁王のように映ったのか、敵の銃弾が左之助の鼻先をかすめて飛んできた。
決死の反撃が来たのだ。
「うおお危ねえ!」
左之助がさけび、土方は周囲を見まわして「隠れろ!」と命じた。
新選組の三人は土嚢の反対側にまわって、背を土嚢につけるような体勢になった。
びしびしと、背中ごしに銃撃の振動が伝わってくる。
「おい沖田、撃ちそこねてる野郎がたんまりいやがるぜ」
左之助が楽しそうな口調で、無線を飛ばした。
「無茶ですよ」
耳につけたレシーバーから、沖田のあきれたような声が聞こえてくる。
「左之助さんは歌舞伎役者みたいに見得を切るんだから。狙ってくれっていってるようなもんです」
沖田はそう言いながらも一人一人仕留めているが、どうにも敵の数が多すぎる。
やっかいなのは前方にあるひときわ高いビルで、崩れかけて露出している内部から銃弾が飛んでくる。
「山南」
土方が無線を飛ばした。日本に帰った隊士から譲り受けた大刀を鞘におさめながら、
「タンクはいまどこにいる?」
と中隊長自ら乗っている戦車の場所を訊いた。
やや後方の建物のかげで、ウルミスタン義勇軍の歩兵や衛生兵と一緒に待機している山南がこたえる。
「北東2キロの地点で、バリケードを築いた敵と交戦中です」
山南はタブレットを操作しながら、
「即時の支援は期待しないほうがいいでしょう」
「じゃあやっぱりカミサマ頼みでいくか」
G3ライフルに持ち替えた平助が、気楽な調子で言った。
土方は、ちょっと顔をしかめた。
ウルミスタン義勇軍の兵器を神様にたとえるなど、ほめられたものではないと常に言っている。
だが、戦場ではときに金銭よりも、洒落や冗談がもてはやされる。いつ死ぬかわからない兵士にとって、笑いは金よりも大切なものだった。もちろんムスリムの兵士の前でこんなことを言えば、おおきく顔をしかめられるのだが。
山南から無線が入ってくる。
「ドローンの使用には、まだ条件が揃っていません」
「まだ足りねーのかよ」
平助がぶーたれるように言った。
「申し訳ないですが、建物の裏側まで撮影してきてください」
銃弾がぴしぴしと土嚢をかすめている。
土方は腰に吊っていた手榴弾を取りだし、
「援護射撃用意しろ」
ひとこと告げた。
「おい土方さん……」
平助が止める間もなく、土方は歯で手榴弾のピンを抜いて、ビルにむかって放り投げた。
ぷっ、とピンを吐きすてると同時に、轟音がひびく。
土方が土嚢から飛び出して、駆けた。
沖田が次々に狙撃を成功させていく。
新選組隊士とウルミスタン義勇軍歩兵の援護射撃が威勢よく飛びかうなか、G3ライフルを構えた土方が矢のように駆けていく。
露出した建物内部から狙ってくる敵兵士たちと目があった。駆けながらフルオートで掃射した。むこうも気づいて撃ち返してくる。足下からぴしぴしと砂煙があがったが、一気に駆け抜けてビルの裏側にたどりついた。
ビルの裏側は、比較的崩れておらず手薄だった。
土方は焼けた車のかげにかくれて、
「どうだ!?」
と呼ばわった。
耳にひっかけた無線機にはカメラも搭載されている。
「ばっちりです」
無線から山南の声が聞こえてくる。
「現在、データ転送中……許可出ました」
忙しそうに山南は、さらに早口で告げる。
「ウルミスタン義勇軍国際免責条約第三十八条二項のA規定による空爆要請を行います」
ドローンによる空爆は厳しい制限がついていて、誤爆を防止するための地上撮影に加えて、空爆前に免責宣言をしておかなければならない。
やがて、きいん、と独特の飛行音が誰の耳にも聞こえてきた。
蒼天を、やけに頭でっかちな戦闘機が飛んでいる。急速に高度を落とした戦闘機は、腹につけられていたスコーピオンミサイルを発射した。煙の尾を引いて、ミサイルが崩れかけのビルに直進していく。
「ひでえカミサマもあったもんだ」
焼けた車に背を預けて、土方がつぶやく。
その直後、爆音がとどろき、ビルをおおい尽くすような炎が巻きあがった。
土方は振りむかない。熱い爆風が頬をなぶっていった。