朗々《ろうろう》と、歌うように異国の言葉が流れてくる。
夜明け前。隊士たちは街中にひびきわたるこの声で起こされるのが日課となっていた。
隊士たちは着の身着のままだったので、イーアドたちから支給された洋風の下着をつけている。その上に麻の小袖を着て袴をはき、羽織は用心棒の番にあたっている隊士だけつけている。
部屋からぞろぞろ出てきた兵士たちとあいさつを交わし、二階の礼拝室に行く。
礼拝室では、隊士たちは隅っこのほうで正座する。
夜明け前の礼拝なのである。
もちろん隊士たちは異教徒なので礼拝するわけではないが、用心棒業のけじめとして、神妙な顔で座している。
一方通行の翻訳なので要領を得ないことが多いが、イーアドが語ったところによると、毎日五回の礼拝を神にささげるのだという。神は万物を創った方で、この世界のきまりごとをさだめた方でもあるという。
朝も暗いうちから、
だが現実は現実であり、今日は土方の組が用心棒の当番だ。
土方、平助に加えて、隊士三名がイーアドの護衛をする。
司令官であるイーアドは、だいたい朝から兵士たちの調練をして、昼からは執務室で事務作業をしている。
だが、今日は勝手が違った。
兵士たちに指示をあたえた後、土方たちについてくるよう命じ、宿舎の地下一階に降りていく。
「あれ、こっちってたしか捕虜のいる……」
イーアドにつづいて、階段を降りながら平助が指で示した先。
「うむ。牢だな」
土方がこたえを言った。
先日の戦闘で捕らえられた捕虜は地下の牢にいると、イーアドは教えてくれたが、新選組隊士が実際に見るのははじめてだった。
白い照明がついていて意外にあかるい階段を降りていく。
地下一階について、廊下をあるいていくと、部屋を改造したような牢があった。
鉄の格子ごしに、捕虜のすがたが見える。土方たちが捕まえた五人の兵士もいて、全員
うつろな表情でこちらをむく捕虜のなかに、一人の少年がいた。
年の頃は
「ガキじゃないか」
土方は、やや目を見開いて言った。
この国では、こんな年齢の
イーアドはなにか言いたげに土方を見た。しかしなにも伝えることはせず、捕虜たちにむきなおり、なにやら印籠を操作している。
隊士たちもあの印籠の機能はだいたいわかってきた。どうやら今回は捕虜たちのすがたを記録しているらしい。
「土方さん、おれ、なんか……」
平助が不安そうな声でつぶやいた。
「言うな。わかっている」
土方はイーアドにむかって、
「イーアド殿。ちと訊くが、こいつらは国へ帰らせるのか?」
だが、言葉は通じない。イーアドは片頬を上げるだけだった。
「不便で、しかも滑稽ときたもんだ」
土方はそう言って、身振り手振りでなんとか伝えようとした。
「平助、お前も手伝え」
「おれもっすか」
土方と平助は、芝居のような真似をして、捕虜は国に帰らせるのかということを訊こうとした。ばたばたとした二人の動きは、それを見ていた捕虜をも笑わせた。後ろの隊士が必死に笑いをこらえている。
イーアドはそんな新選組を見て心底おかしそうに笑い、
ゆっくりと、親指を首もとにあてて、首を切るしぐさをしてみせた。