日差しが背中を
原田左之助は地面に伏せた体勢で、構えた自動小銃の照準を、人を模した黒い板にあわせていた。
教わったとおり、銃の肩当てを肩関節にあてて、右頬を自然に
のぞきこんだ銃の
ゆっくりと、息を吐きながら引き金をしぼる。
左之助は、火縄銃なら何度か撃ったことがある。照準を定めたら、引き金をひくのではなく、握りしめるようにして撃つのが火縄のコツだと聞いた。
――鉄砲は鉄砲だ。変わりねえ。
引き金を握りしめるように力をこめた。
左之助のアゴから汗がしたたり落ちると同時に、破裂音が空気を震わせた。
標的は、無傷。
左之助に続いて、隣に伏せていた兵士たちが発砲した。
びしりと小気味いい音を立てて、続けざまに、標的の黒い板に穴が空いていった。
「なんであたらんのじゃあ!」
左之助が悔しそうに地面をたたいた。
その様子をちかくで見ていた山南が寄ってきて、
「原田君も鉄砲術は苦手とみえる」
左之助は伏せた姿勢のまま、銃を両手で抱えた山南を見た。
「……似合わねえ」
「私のことはともかく。たぶん肩に力が入りすぎているんだと思いますよ」
「なに?」
「火縄とちがって、反動がすくない。だからもっと肩の力を抜けば有効な射撃ができると思います」
「ふうん。あんたがそう言うならやってみるか」
そしてボロボロになった標的を片付け、射撃訓練の、左之助の属している組の順番がもう一度まわってきた。
今度こそ、と教ったとおりやってみたが、
「ああっ!」
悔しそうに頭をかきむしる左之助と、困ったような表情を浮かべる山南。
射撃訓練に参加した二人のすがたを見て、イーアドはため息をついた。
体術なら負けねえ。
と、左之助は白兵戦の訓練まで参加したがった。
もはや用心棒ではなく傭兵といった感じであるが、兵力が増えてこまることはない。イーアドは喜んで受けいれた。
「せいっ!!」
左之助の気合がひびき、取っ組み合っていた兵士の体が宙に浮いた。そのまま、平らな砂地にたたきつけられる。
背負い投げを決めた左之助は、逆手に持ったゴム製のナイフという
真剣そのものだった表情が、くしゃりと和らいだ。
――おれの勝ちだ。
わあっ、と周囲をかこんでいる兵士たちから歓声があがった。
左之助は立ち上がって、倒れた敗者の兵士に手をさしのべた。
通常なら
白兵戦の訓練を指導している上官が、頭に巻いている布の上からぼりぼりと頭をかいた。兵士たちのなかで左之助に敵うやつはいない。はたして、この東洋人をどう扱えばいいものか。
そのとき、上官の肩がぽんとたたかれた。
振りむくと、イーアドが不敵な面がまえで立っている。
イーアドはその太い首をまわした。ごきりと、いかにも硬そうな音がした。
「サノ!」
その一声で、兵士たちがぐるりと左之助とイーアドの周囲をかこみ、即席の拳闘場ができあがってしまった。
「お、大将みずからお出ましとは嬉しいねえ」
左之助がゴム製のナイフを逆手にかまえた。
イーアドが異言語でなにかさけんで、猪のような顔をゆがませた。どうやら笑っているらしい。
ゴム製ナイフが兵士のひとりから投げられた。それを受け取ったイーアドは順手に構え、
じりじりと距離をつめていった。
にらみあいの後、最初に仕掛けたのはイーアドだった。
左之助の鼻の先を、しゃっと空気を裂く鋭い音を立てて、ゴム製ナイフがかすめた。
大きくのけぞった体勢を強いられた左之助は、前のめりになったイーアドの胸に右足で蹴りを放ったが、難なく肘で弾かれた。
左の軸足が体重を支えられなくなり、左之助は左手を地面についた。体をねじり、
お互いに牽制しあうように、にらみあっている。
兵士どうしの闘いではヤジのひとつもあがったものだったが、周囲の取り巻きは声ひとつあげずに見守っている。
左之助が挑発するように、イーアドの間合いへ足を踏み入れた。
イーアドが動いた。飛びかかるように左之助の首筋を狙ってナイフを繰りだした。
左之助は身をかがめるようにして避ける。
攻撃をかわすことができたと思った瞬間がいちばん危ないのだという教訓を、左之助が思い出したときには手遅れだった。
イーアドは絶妙なタイミングでナイフから手を放していた。一気に左之助の襟をつかみ、荒々しく足を払って背負うように投げた。
――こいつ、柔術の技を盗みやがった。
ぐるりと視界が回転した。
あおむけに転がされた左之助が「畜生!」とさけんだとき、周りの兵士たちから歓声があがった。
左之助の視界には、からりとした