空色のだんだら羽織が、砂塵にまみれていた。
「トシさん、その
砂漠を行軍する奇妙な集団のなかの、目鼻だちの整った青年が、前をゆく背中にむかって訊いた。
「だまってあるけ」
振りかえりもせず、トシとよばれた男がこたえた。
無骨でぶっきらぼうなもの言いが、まるで背中の「誠」の一文字がしゃべっているように思えて、青年はからかうようにつづける。
「だってお天道様の熱をふくんで、半端もなく熱いですよこれ。隊士はほとんど脱いでますって」
トシとよばれた男は、青年の無駄口を黙殺した。
たしかに熱い。
はちまきに鉄を縫いつけた鉢金は、京都では考えられないほどのきびしい直射日光をあびて、耐えがたいほどの熱をもっている。
だが鉢金はカブトの一種であり、市中巡察のさなかにはずすなど、かれにとってはありえないことなのだろう。
しかし、と青年は思う。
――しかし、自分たちはどこまで巡察にきてしまったのだろう。
ずっと砂地をあるいていた。わらじは砂まみれで、羽織や袴も砂ぼこりにさらされてくすんでいる。
砂と岩ばかりの荒れ地は勾配がきつくて見とおしが悪い。この先になにがあるのか見当もつかない不安は、隊士たちの疲れを倍増させていった。
先頭をゆくトシと呼ばれた男は、
あいかわらず仏頂面で、無駄口ひとつきかないけれど。
青年は武州多摩で剣術修行をしていたころから、このひとのこういう優しさが、やがて命とりになるんじゃないかと危惧している。
「とまれ」
トシと呼ばれた男が命じた。
小高くなっている前方の丘に、人影が見えた。
陽光のもと、ゆらゆらとかげろうのように揺れている人影は、どうやら三名の忍びの者であるらしかった。黒い覆面をかぶり、異国語のような符丁を声高にさけんでいる。
総勢十六名の隊士たちが、いつでも抜刀できるよう腰を沈めた。
覆面たちが砂地を降りてくる。かれらは鉄砲のようなものを隊士たちにむけていた。あいかわらず、言葉はわからない。
しかし鉄砲を隊士にむけたとなれば、京都では斬り捨てされても文句は言えない。
トシと呼ばれた男が、一歩進みでて、眼光鋭くにらみつけた。
「――新選組副長!!