目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第42話☆雪が降る




第42話☆雪が降る




仮想世界に雪が降った。

一面の銀世界。

宿屋で目覚めた巧たちはうわあ、と歓声をあげた。

「ねえ、雪合戦しようよ!」

由美子が言った。

「でもこんな薄着で外に出て大丈夫かな?」

巧がそう言うと、

織音が宿屋の窓を開けた。

「少しも寒くないわ」

降ってくる雪を捕まえて、手のひらの上に乗せたが、溶けなかった。

「本物の雪?」

テツがデバイスの顕微鏡の仕様を使ってその雪を見てみたが、氷の結晶が確かに見えた。

「ほんものっぽい」

「なんで溶けないの?」

「冷たくないのはなんで?」

「仮想世界の雪だから」と織音が言った。

「降ったら積もりっぱなし?」

「これは、たぶん、時間で設定されてるわ。たぶん今日一日溶けないで、明日溶けるんだと思う」

「すげー」

テツが目をキラキラさせて言った。


「ちょっと待て!」

巧が叫んだ。

「溶けないということは、水分が無いってことじゃ?雪だるまも、雪合戦の雪玉も、固まらないぞ」

「ええっ?」

「乾燥してる、ってことは、摩擦熱で発火する恐れがある……」

みんな真っ青になった。

「天候管理はどこの管轄だっけ?」

大急ぎで調べて連絡を取った。

「わかりました!よく気付かれましたね。ありがとうございます。早急に雪を溶かします」

ほんの数分で雨が降り出し、銀世界は消えてしまった。


「ああ。なんてこと」由美子が泣きそうだった。

「現実世界で本物の雪が降ったら遊ぼう」

テツが由美子の肩に手を置いてなぐさめた。


「自然の摂理に反することをやると、どこかで反動が起きるんだ」と、巧が言った。

「私、魔法とか、いろいろ自然の摂理から離れたことをやっていたけど、どこか狂っていたりしたのかしら」と織音が心配そうに言った。

「今のところ、大丈夫だろう」と、巧が織音に言った。

巧は内心、イーサンのことを危険だと感じるようになってきていた。イーサンはいろんなことを力で捻じ曲げている。それにはどこかで反動が来るはずだ。なんとかしなければ。


「しかし、今日はこれからどうしようか?」

巧がみんなに向かって言った。

「ケーキが食べたい。イチゴの乗った白い生クリームのやつ」と由美子が即答した。

「そう、そういえば、クリスマスだっけ」

すっかり忘れていた。

「どうして現実世界の方で食べないの?」と織音が聞くと、

「だって、リーダーにも一緒に食べて欲しいもの」と由美子。

「由美子ちゃん……」

織音がめずらしく瞳をうるうるさせた。

「また、ファミレスもどきでいい?」

テツが聞いた。

「そうね。でかけましょ」

四人は身支度をしてクリスマスケーキを食べに出かけた。

「シャンメリーで乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」

「おい、巧。いまのうちに堪能しとこうぜ。来年の今頃は受験本番だ」

「おう。テツ」

カチン。グラスのぶつかり合う音。真剣なまなざしの二人。

「相変わらず、腹にたまらないなあ」

「あー、お兄ちゃんが私のイチゴとったー」

「お前最後までイチゴたべないだろう」

「いつもいつも!好物は最後にたべるんだってば」

巧と由美子のやり取りを他の2人はほほえましく見守っていた。

「兄妹仲がいいのね」と、羨ましそうに、織音。

「「どこが!」」

巧と由美子が同時にむきになって怒鳴った。

「テツ、覚悟してろよ」と巧が言った。

「なにが?」

「由美子と雪が降ったら遊ぶ約束しただろ?地の果てまで追いかけてくるぞ」

「へ?」

「テツくうん。や、く、そ、く」

由美子が右手の小指を立てて笑った。

「怖いよおおお」

テツがドン引きした。

「えー?怖くないよ」由美子がにこにこ笑いながら言う。テツはそれが余計に怖い。

「俺、由美子ちゃんのこと、まだ知らない部分いっぱいある」

「少しずつお互いを知っていこうよ」

「少しずつ?」

「うん」

「んー、まあ、いっか」

テツは己と妥協した。


「ギルドに寄って行きましょう」織音がそう言ったので、四人はギルドに寄った。

「掲示板チェックしてくる」巧がそう言って掲示板の方へ歩いて行った。


「雪のように白い粉砂糖でデコレーションしたお菓子があるんだけど」と、由美子。

「お菓子の上にも雪が降るんだ?」とテツ。

「ロマンチックだよね」

「うん」


「吉川織音さん?ことづてを預かっています」

ギルドの女性がはっとして織音を呼んだ。

「なんですか?」

「国の管轄の仮想世界の主が、織音さんのそばにいる仮想世界の主に会いに来るそうです」

「えっ。いつですか?」

「さあ。近いうちに、としかわかりません」

織音は巧の姿を探した。彼はちょうどこっちへ来る途中だったので、織音はそっちへ小走りに近づいた。

「どうしたの?おりねちゃん?」

「イーサンに伝えなきゃならないことが」

「イーサンに?」巧は怪訝そうな顔をした。

「イーサン。国の管轄の仮想世界の主があなたに近いうちに会いに来るそうよ」

巧の剣の飾りの青い石に、織音がそう言うと、石は確かに輝いた。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?