第41話☆四色のボール
「いて」
テツがすっころんだ。
運んでいたアクセサリーが散らばって、みんなで拾い集めた。
「大丈夫?テツ君」
由美子が声をかけると、テツが直径10cmくらいの大きさの赤いボールをしげしげと眺めていた。
「なにそれ?」
「ボール。足元に転がってて、ふんづけてすっころんだ」
「ボール?なんでそんなものが?」
「なんか、数字が書いてある」
「あっ。木の梢に緑色のボールがある」
由美子がテツのボールと色違いをみつけた。これにも数字が書いてあった。
「なんだろう?」
「なんか意味があるのかな?」
巧と織音も興味を持った。
「あっ。僕もみつけた!」
巧は広場の噴水に浮いている青いボールをつかまえた。これにも数字が書いてある。
「私だけみつからない~」
織音が珍しく拗ねた。
「アクセサリーを売り終わったら、ギルドに寄ってみようよ」と巧。
「なんか情報あるかな?」と由美子。
「んー?どうかな」とテツ。
「私もボール欲しいぃー」と織音。
幌馬車に戻って、織音が買い置きのキャンディの袋を開けたら黄色いボールがみつかった。
「よかったね、おりねちゃん」
巧がにっこり笑った。
ギルドに行ってみると、いつもより人だかりができていて、掲示板の羊皮紙の内容にざわついていた。
「アルトさんの家企画・小さな宝探し」
なんでも、ボールの色と数字で景品が違うという。その景品が気に入らなければ、相応のコインと交換も可能だという。
「これ、みつけた場所とかにも関係あるのかな?」
「なにもらえるの?」
ざわざわ。
「ステータス画面のアルトさんの家のホームページで、ボールの色と数字を入力してください」
ギルドの女性が叫んでいた。集まっていた人たちは、はけて行った。
ひとまず四人は宿屋の部屋をとった。
「まず、俺、いきます!」
テツがステータス画面を開いた。
「赤の305!」
キンコン!
「あー、ラルフ・○―レンのベルトだ」
「ベルト?」
「いんじゃね?崖から落ちそうなとき、この丈夫なベルトをしてれば、由美子ちゃんが俺につかまっていたら助けてあげられるし」とテツは満面の笑みを浮かべた。
「妄想はいってるし」
由美子があきれ顔だ。
「由美子は?」
「緑の77」
キンコン!
「象嵌のブローチ。鳳凰の模様!これいい!」
興奮する由美子。
「じゃあ、僕いくね」
巧が「青の999」と打ち込んだ。
キンコン!
「星に名前をつける権利」
「なんじゃそりゃ」テツが巧の背後から画面を覗き込んだ」
「もちろん、おりねちゃんの名前をつけるよ」
巧の言葉に、織音がうっとりした。
誰も、コインの方がいいとは言わなかった。
「じゃあ、最後は私」と織音が言った。
「黄色の3」
キンコン!
「食器。漆塗り?四人用」
みんな織音の画面を覗き込んだ。
「これは、コインかな?」とテツが苦笑い。
「いいえ。これをもらうわ」と織音。
「なんに使うの?」
「みんなに手作り料理をふるまうわ」
織音の言葉に、みんな、じん、とした。
「料理、できないけれど、頑張って練習してみる!」
「期待してるよ。おりねちゃん」
巧が織音の肩に手を置いて言った。
「アルトさんの家、粋な計らいだね」
「全くだ」
「欲しいと思うもの、どうやって決めたのかな?」
「性格とか好みとかデータがそろってるのかな?」
「宝探しというより、サンタクロースとかのプレゼントに近いよな」
「あ……」
言ってて気づいた。現実世界ではクリスマスが近くて、師走の忙しい時期だった。みんな織音に気遣って話題にしてなかったが。
「サンタクローシズカミントゥナイト♪」
織音が歌っていた。
「ついでにホワイトクリスマスをリクエストしてくる?」
「歌?」
「そうじゃなくて、雪を降らせてもらおうよ」
「天気予報見た?」と織音。
「「「えっ?」」」
アルトさんの家ホームページに雪だるまのアイコンがちかちかしていた。
「雪、降るの?本物?」
「時間が過ぎたら跡形もなくなっちゃうけどね」
「寒くなるのかな?」
「さすがにそこまではリアリティを追求してないと思うけど」
「なるほどねぇ」
「遊びたい!ねえ、遊ぼうよみんな」と、由美子がはしゃいだ。
「良いクリスマスになりそうだ」と、巧は思った。