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第39話☆トランプ




第39話☆トランプ




巧はツイッターを見ていて、興味深い漫画を見た。

宇宙人とのファーストコンタクトで、最初に手渡したものがトランプ一枚だったのだが、次の瞬間、人類は皆、一枚ずつのトランプを持たされていた。

もし、最初に手渡したのが爆弾とかだったら、人類は皆爆弾を手にしていた!というお話。

「相手にしたことがそのまま自分たちにかえってくるのか」

攻撃には攻撃が。友好には友好が。

人間同士でも、同じようなものだよな、と巧は思った。

モンスターも、攻撃してきたら攻撃を返すけど、攻撃じゃなかったら、攻撃を返さなくていいのかもしれない。

「あ。そういえば」

由美子に最初に攻撃させたスライム。思えばかわいそうなことしたかもしれない。


その日。仮想世界にダイブして最初に、由美子にあの時のスライムのコイン、どうしてるか、と聞いてみたら、大事にネックレスにして、今もつけているらしかった。巧はちょっと、ほっとした気分になった。

「由美子。ありがとう」

「どうしたの?お兄ちゃん」

由美子はきょとんとしていた。


「こっちにもトランプあるかなぁ?」

巧はみんなで買い物に街に出た時、トランプを一式買い求めた。

「こっちにはなんでもあるなぁ」

思わず感心してしまった。


「お。トランプ。みんなで遊ぼうぜ」

テツが嬉しそうに言った。

「そうだな」

トランプは本来、遊ぶものだ。


「私、ダイヤ。テツ君は、クローバー。お兄ちゃんは、スペード。リーダーは、ハート」

由美子が振り分けた。

「?なんの遊びをするの?」と織音が尋ねた。

「カードをシャッフルして、山にして伏せます。順番に一人一枚ずつ表に返して、自分のマークのカードだったらもらえるけど、そうじゃなかったら場に捨てます。最後に一番多く自分のカードを持っていた人の勝ち!」と、由美子。

「そんなゲームあるんだ」

「私が今、即興で考えたの」

「すごいね」

「とりあえず、やってみようぜ」と、テツが言った。

「……、これは?」

巧がジョーカーを引いた。

みんな目が点になった。

「ほんっと、おまえって、そういうやつだよな」

と、テツが言った。

「どういう意味だよ!」

と、巧は尋ねた。

「予想の斜め上いってるってこと」

「そんなわけないだろ」

「まあ、そう、怒りなさんな。由美子ちゃん、この場合は?」

「お兄ちゃんの手持ち札が増えます」

「おー、よかったじゃん」

「むー」

巧はジョーカーのカードをしばらくみつめていた。

番狂わせ?もあるってことか?


「トランプっていえば、ソリティアも面白いよね」と由美子。

「デバイスにダウンロードして、暇なときに遊んでるよ。赤と黒のカードが交互に並んで、数の順になっていて……」

「面白そうだな」と巧はさっそく、自分のデバイスにもソリティアをダウンロードした。

最後の場面でトランプが並んでぴょんぴょん飛んでゆくのが印象的だった。

「そうだ。不思議の国のアリスで、ハートの女王から命じられてトランプの兵隊がアリスを追っかける場面があったな。あれっぽい」


ぱらぱらぱらぱら。

巧は目の前がトランプで見えなくなった。

「大丈夫?巧君?」

織音の声が聞こえる。

「トランプじゃなくて、葉っぱだよ」

くすくす。笑い声。

そおっと目を開けると、いつの間にか、織音の膝枕で寝ていて、織音が微笑んでいる。

「前にもこんなこと、なかった?」と、巧はつい、聞いてしまう。

「そうね。あったかも」あやふやな答え。

暖かくて、心地いい。

眠ってしまいそう。


はっ!

一気に目が冴える。今はダンジョン攻略中だった。

「眠れ―眠れー、眠ってしまえ!」

周りをトランプの兵隊たちが囲んでぐるぐる回っていた。

「しっかりしろ、僕!」

剣で活路を切り開く。

どこまでが夢でどこからが現実なんだ?

「巧、起きろ!夢魔が相手だ」

テツの声がすぐ近くでした。

くっそお!

見えない鎖の呪縛を振りほどき、巧は目覚めた。

「みんな!」

「よう。お目覚めか?」

テツが眠気と戦いながら、夢魔の攻撃を逸らしてくれていた。

「巧、お前の剣でやっつけてくれ」

「よし!」

夢魔がひるんだ。

逃げようとするその背中に斬り込んでゆく。

ぎゃあああああ!


ちゃりん。

コインが四方に飛び散った。

「眠い」

由美子が伸びをしている。

織音は眉根を寄せて、頭を抱え込んでいる。

ねむりかぶったテツが、サムズアップしてみせた。

「お前すげーな、テツ」

「はは。精神力の見せ場だな。受験勉強でだいぶ鍛えられたよ」

「僕、負けそうだよ」

あはは、と笑った。

「どんな夢見た?」

「トランプが出てきた」

「よっぽど意識の上辺にあったんだな」

「うん。そうかも」

それに、おりねちゃんが、膝枕してくれていた。きっと自分の願望だったんだろうな、と巧は思った。

「さあ、ダンジョンの途中だぜ。ここで怯むなよ、みんな」

テツが活を入れた。

コインを拾い集めて、テツのアイテムボックスに収める。

「なあ、今も夢の中じゃないか?」

「ちげーよ」

テツが巧にチョップをかました。

「いってえ」

「ほら痛いだろ?目は覚めたか」

「おう」

不思議な体験だった。





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