第35話☆お城のダンスパーティ
「「なんで僕(俺)がこれを着て踊らなくちゃならないんだ!!!」」
タキシードをおしつけられて、巧とテツが叫んだ。
「だってだって、ドレス一式買ったらお城のダンスパーティの招待状もらっちゃったんだもん」
由美子が両手を握って上下に振った。
「はいこれ。ダンスを教えてくれるレッスン場のチケット」
「いらんわ、こんなもん!」
「ねえ、お願いよ二人とも。私たちをエスコートしてよ」
「エスコートって、何?食べもの?」
すっとぼける巧。
「でえい!言う事聞かんかーい!」
織音が全身メラメラと魔法の炎に包まれた。
「わかりましたー。おりね様、由美子様」
「おーこわ」
男たちは震えあがり、言う事を聞くしかなかった。
四人はそれぞれ、レッスン場に通い詰め、ダンスや作法を習った。
当日。
「着替えるの手伝って」と由美子がテツに言った。
「えっ?」
「背中のチャックあげて」
じじじ……。
「……」
役得?間近で見ると、由美子ちゃんって、思ったより胸でかい。
テツが鼻の下を伸ばした。
「でへへ」
「こら、テツ!」と巧がめっ、した。
「まあそう固いこと言うなよ。案外楽しいかもだぜ」
テツは女の色香に懐柔されてしまった。
「巧君、こっち手伝って」
織音が呼んでいる。巧はふらふらと呼ばれる方へ行った。
織音は髪をアップにしているのだが、おくれ毛が色っぽい。
「私のドレスのチャックもあ・げ・て」
「はあい」
巧も知らず知らず鼻の下が伸びていた。
「「えへへ」」
男たちは一気にダンスパーティが楽しみになった。
レッスン場では先生が男性だったのでそれほど期待してなかったのだが、今考えてみると、あの振り付けのあのシーンでは女性の胸が密着するぞ、と二人は妄想を繰り広げた。
「ほら、タキシード着て」
「へいへい」
二人とも、馬子にも衣裳だった。
「巧君と私。テツ君と由美子ちゃんの組み合わせでね」
「「「はーい」」」
みんなうきうきしながら幌馬車を下りた。
エスコートもなんとか、さまになっている。
「なんだか夢みたいね」と由美子。みんな同感だった。
AIの王様のいる広間で、楽団がひっきりなしに曲を弾いている。
「行こうか!」
みんな輝く光の輪の中へ吸い込まれて行って、思う存分踊り明かした。
☆
「足が疲れちゃった」
「どれ、おんぶしようか?」
「えー恥ずかしいよ」
由美子とテツのやりとりを横で織音と巧は無言で見守り、二人の視線がかち合った。
「おりねちゃん、背中貸すよ」
「……お願いします」
織音の頬が赤いのを巧は見逃さなかった。
「やっぱり、僕にはおりねちゃんしかいないな」
「え?」
「いや、なんでもないよ」
「うそ」
背中をポコポコ叩かれる。
「今日、綺麗だね、っていったの!」
「!」
今度は聞こえたらしい。織音はおとなしくなった。
「由美子もテツにならやってもいいか」
「わー、おにいさん寛容ね」
「うっさいよ」
二人はくすくす笑った。
お城の庭園の噴水の前で、水晶占いをやっていた。
「そこのお若いの、占ってしんぜよう」
占い師は、巧と織音のてのひらを見てから水晶を覗き込み、「あんたがたは困難があるが、将来いい家庭を築くだろう」と言った。二人はじんと胸があつくなった。
「俺らも占って」
テツが言うと、同じようにテツと由美子のてのひらを見てから水晶を覗き込んだ。
「あんたらは結婚する」
「「ええっ?」」
「しかし離婚するだろう」
「「なんでやねーん!!」」
テツと由美子が同時にツッコミをいれた。
「冗談じゃ。そう、息がぴったり合った夫婦になるじゃろう」
幌馬車に帰っても、テツと由美子が「「なにあれ!?」」とぶうぶう言っていた。
「からかわれたんだよ!」
テツがそう言って何度目かの溜め息をついた。
「テツ君。巧君がね、テツになら由美子をやってもいいかな、なんて言ってたよ」
織音がテツに耳打ちした。テツはぼうっとなって、由美子をみつめた。
「なに?なんて?」
「ちょっと、外で頭を冷やしてくる」
テツは停めてある幌馬車から下りた。そこで巧が涼んでいた。
「巧、おにいさん」
巧がびっくりして振り向いた。
「しー。まだそれを言うには早すぎる」
「そっか。そうだな」
二人はあはは、と笑った。
「楽しいな。俺、この旅のこと一生忘れないよ」
「死亡フラグか?」
「ちがわい!」
「わかってるって。僕だって忘れるもんか。大事な記憶の宝物だよ」
「おっと、この宝物は下手すると、宝石やコインより貴重かもしれないぜ」
「ほんとだ」
巧はしみじみと想った。
形のない宝物。つかみどころがないふわふわした想い。無くしたくない、本当に貴重なもの。
「ぼくらは手に入れたんだ。そしてこれからも旅は続いていくし、思い出も増えてゆく」
巧はじっと自分のてのひらを見た。