第34話☆再挑戦
「次、右のやつの真ん中の頭!」
「「「オーケイ!!!」」」
みんなの連携がとれていて、復活していたケルベロスが一頭、また一頭と倒れていった。
「「リベンジ成功、いやっほう!」」
テツと巧がガッツポーズでとびあがって喜んだ。
「宝石箱だ!」
ケルベロスの跡から小さな宝石箱が二個転がった。
由美子とテツがそれにとびついたのに、巧はずんずん奥へ進もうとした。
「あ、だめ。巧君」織音が止めたが、巧はそのまま前進する。
「やべぇ。巧!」
テツが後ろから巧を羽交い絞めにした。
「でっかい宝箱」
次の間、つまり、ラスボスの間に巨大な宝箱が鎮座していた。
「どう考えても、これ、ミミックかなんかのモンスターだぜ」と、テツ。
「それか、強力な罠ね。巧君が引き寄せられてるし」と、織音。
「……」
しばらく沈黙があった。
「帰ろうか?」と、テツが言った。
「そうしましょ」と、織音。
「いやだー、僕はあれと」と巧が叫んだ。
「あれと?」
「たたか、もが」
巧に皆まで言わせず、テツが手のひらで巧の口をふさいで、じたばたするのをひきずって後戻りした。
「宝石箱の中身は?」
「こっちはガーネット」
「こっちはオリビン」
赤いガーネットと緑のオリビン。価値的にはあまり高くはないが、立派な戦利品だった。
「どうする?すぐ売っちゃう?」と由美子が聞くと、
「いや、これは、しばらく宝石のままで持っていて、目で楽しもうぜ」と、テツ。
「それもいいわね」と、織音。
「……」
「巧、いつまでもひきずってんなよ」
「だって……」
最後まで戦えなかったのが不服らしかった。
「引き際も大切よ」と織音。
でもしばらく巧は拗ねていた。
「お兄ちゃん、子どもみたい」
由美子が言うと、
「どーせ、子どもですよ!」と、変顔をしてみせる巧。ちょっとは機嫌がなおりつつあった。
織音は、巧が変顔したのがおかしくて、お腹の皮がよじれるほど笑い転げた。
由美子は幼い頃から巧の変顔を見慣れていたので、そこまでではなかったが、少し笑った。
テツはあきれて相手にしなかった。
「なんでラスボスと戦わずに戻ってきたんだ?」
「……昔々、スズメを助けたおじいさんは、ちいさなつづらをもらって帰って、つづらの中は金銀財宝でした」
「それで?」
「スズメの舌をハサミで切った欲深ばあさんが大きなつづらをもらって帰る途中でつづらを開けると、そこには……」
テツがすごんで見せた。ずごごごご。
「もういいよ!」
巧はうやむやにされて、とにかく、そういうことか、と(どういうこと?)思って一応納得した。納得はしたが、納得できなかった。そういうわけで、この話はここでおしまい。
☆
「街へ買い物に行きましょう」
織音がそう言ったので、四人の買い出し部隊が街に繰り出した。
「何を買うの?」
「ポーションをありったけ!今後に備えて」織音は至極真面目な顔で言った。
「気持ちはわかるけどさ、せっかくポーションの作り方、初心者向けダンジョンでゲットしてたんだから、自分らでポーション作ろうよ」と、テツが言った。
「じゃあ、薬草以外の材料買うわ」
「好きにして」テツが疲れた様子で言った。
以前採っておいた薬草は、保存状態がいいので、鮮度がよかった。(大量にあった)
「他には何を買うの?」
由美子が尋ねると、
「アクセサリーの材料の補充!」と、織音。
「アイアイサー!」由美子がびしっと敬礼した。
「うむ。気合い入れて行きましょう!」
「なあ、巧。なんか欲しいもんある?」
「いや……」
「なんか、買う前から疲れた」
テツがぐったりとした。
「僕も」
巧も精神的に乗り遅れてしまった。
「なんか、娯楽が欲しい」と、巧。
「どんな娯楽?」と、テツが聞いた。
「女の子と楽しくデートしたい」
「女の子いるじゃん、あそこに」と、前行く二人を指さした。
「あんな自分たちだけで突っ走る輩はだめだ」
「じゃあ、他の子ナンパしてみる?」
「「!」」
はた、と二人は顔を見合わせた。
「「いいねぇー!」」
「たまには他の女の子とお話しても、怒られないだろう?」
「そーだな。そうだよな」
ささっと、物陰に身を隠す。幸い織音も由美子も気付いていない。
「お嬢さん、俺たちとお茶しませんか?」
「えー、どうしよーかなー」
「お茶だけ。ちょっとお話するだけ」
「ほんとに?」
「うん」
「おごってくれる?」
「もちろん」
お団子屋さんでお茶を飲んできゃっきゃ言って、楽しい時間だった。
「たくみぃー、テツぅー」
「みいつけたぁ」
織音と由美子が凄い形相で立っていた。
「みんなのためを思ってこっちは買い物してたのに、なにやってんの?」
「いやあの、ささやかな心の癒しを求めてたんだ、な?巧」
「そうそう。癒しが欲しかっただけ」
「そう?これ持って」
二人は大荷物を男たちに押し付けた。
「い、いっぱい買ったんだね」
「そうよ」
「なんか腹立たない?由美子ちゃん」
「ええ。どうしてでしょうか」
「むしゃくしゃは買い物で晴らしましょう!」
「と、いうと?」
「ドレスとかハイヒールとか欲しくない?」
「欲しい!!!」
「あのう、君たち?」
「なによ。私たちだって癒やしが欲しいわよ」
それを言われると反論できなかった。
「とほほ」
荷物持ちでこき使われて巧もテツもくたくたになった。