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第32話☆学校




第32話☆学校



「巧~宿題見せて」

「んー」

数学のプリント問題。今日もみんな丸写ししている。

「自分でやらなくちゃ身にならないってば」

「わかってるよー」

ほんとにほんと?

でも、しょうがないな。

「俺、今日はやってきたぜ」

テツがにかっと笑った。

「おお」

巧は嬉しかった。


「宿題を丸写ししているだろう!」

午前中の休み時間、数学の先生が怒鳴り込んできた。

「えっ」

なんでわかったんだ?ざわざわ。

「誰のものを写したのかはこの際追求しないが、いつまでも他人に頼ってるんじゃないぞ」

「先生!なんでわかったんですか」

「間違えてる場所がみんな一緒なんだよ!まったく同じ間違い同時にするわけないだろ!」

「それは……」

えっ?僕、間違えた?

巧は衝撃だった。

見直してみると、確かに数字があっていない。

昨日の夜、眠りかぶって解いた問題だった。

「ごめん、みんな」

「いやあ、もともと写してた俺らが悪いし、気にすんなよ」

みんなしおらしかった。


「お前、ちゃんと休息とれてる?」

テツが聞いてきた。

「えーん、テツぅ」

巧は泣きごとを言った。

「眠い時は、無理せず寝ろよ」

「でも、神経集中しとかないと、頭に入らないんだ」

「うー」

近頃ではそれは自分も思い当たり始めていたので、テツはうなった。

「今、やらなきゃ、きっと後悔すると思うんだ」

「巧……」

それは、学生の本分だった。避けて通れない問題。

「先生によってはさ、高校で勉強頑張って大学で遊べばいい、なんて言う人もいるけど、大学へは勉強しに行くのが本当なんだって思う」

「そうだな」

「特に僕たち、将来なりたい職業とかあるし、それを成功させるには頑張るしかないと思うんだ」

「うん」

テツは、巧に引っ張り上げられていく自分を感じていた。

「でも、やっぱり、休む時は休め。張りつめている糸が切れたらおしまいだぞ」

「わかったよ」

巧は数学の間違いが相当ショックだったようだ。



「由美子様、ごきげんよう」

「ごきげんよう」

F女はお嬢様学校と言われるだけあって、挨拶もこんな感じだった。

猫かぶってるの、疲れる。と、由美子はひそかに溜め息。

家は仏教なのに、学校はカトリック。学校の敷地内に教会があって、クリスマスにはキャンドルサービスの中、讃美歌を歌う。

授業で宗教の時間があり、交代制で聖書の朗読もある。

「由美子様」

「はい?」

振り向くと、親友の京子だった。

「授業中、なにをしてらっしゃるの?」

「授業を受けておりますが?」

「とぼけなさんな。編み物してるでしょ?彼氏できたの?」

「好きな人はいる……」

「わあ、青春ね!」

「片思いよ!」

「いいないいな」

「なかなかうまくいかなくて」

「編み物が?恋が?」

「両方よ!」

「教えてあげましょうか?」

「恋を?」

「編み物を!」

「んー」

「ちなみに何を編んでるの?セーターとか?」

「まふりゃー」

「まふりゃーか。なら教えられるよ」

「ほんと?」由美子は喜んだ。

「棒針?カギ針?」

「棒針」

「オーケーオーケー。私も材料揃えるから、手芸屋さんにつきあってよ!」

「百均でいいよ」

「なんだ」

「なにが?」

「その程度の恋なのね」

「どういう意味よ!」

京子がそう言うので、由美子は手芸屋さんについていくことにした。

「毛糸もいろいろ種類があってね……」

京子は詳しかった。

一玉500円の並太の毛糸を3つ。あと、8号の棒針。京子はそれだけ買い込んだ。

「それからー」

「まだ買うの?」

「あんたが編みやすいやつを目利きしてあげる」

「京子様~」

「こういうのとか、こういうのがいいわよ」

「わかった」

由美子は勧められたものをどっさり買い込んだ。

「あんた金持ちね」

「別腹」

「編む気満々じゃないの?それも2つ分?」

「お兄ちゃんにも作るの」

「お兄ちゃん孝行だねぇ」

「風邪ひかれちゃ困るし」

「ひゅーひゅー」

「お礼に帰りにミスドでおごっちゃる」

「わー、由美子様―」

「編み方も教えてよ?」

「もちのろん」

きゃっきゃ言いながら二人は少しずつ肌寒くなってきた街を歩いて行った。


「お兄ちゃん」

「なんだ?由美子」

「テツ君に渡して」

「なにを?」

「まふりゃー」

「マフラー?」

「まふりゃーよ!」

「はいはい、まふりゃーな」

紙袋を手渡されて、中を覗いてみると、ブラウンの毛糸の手編みのマフラーが入っていた。

「わー、見ちゃダメ!」

「僕のは?」

「ちゃんとあるよ」

もう一つ紙袋登場。

開けてみると、落ち着いたグリーンのマフラーが入っていた。

「うわー、ありがとう由美子」

「ちゃんとテツ君にも渡してよ」

「うん。テツのやつもきっと大喜びだぞ」

「そうかな?」

「そうだよ」

由美子は舞い上がって喜んだ。

「ありがとな。お兄ちゃん元気出た」

「ん?うん」

「来年はとうとう三年生だし、テンパってるんだ」

「そうなんだ。私も来年は二年生かあ。今回のテスト、全然勉強してないからどーしよー」

「仮想世界に行って、みんなで勉強会しようか?」

「げー」

「お前に教えたらいい復習になるし」

「おにいちゃん……」

由美子はローテンションになった。



「なにしてるの?」

織音が信じられないものを見た顔つきになった。

「「「勉強会」」」

三人が顔を上げて言った。

「どひいい」

織音が鳥肌をたてて逃げて行った。

「おりねちゃんでも苦手なものあるんだな」

「そんなのんきでいいのかよ?」とテツがしぶしぶ言った。

「ほんとよ」

と、由美子がしかめっ面だった。





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