第30話☆他のパーティと協力する
ギルドのお姉さんは、織音から光の柱の攻略にコンピュータの演算が必要なことや、ドローンを飛ばして何回かパターンを調べなくてはならないことなど聞いて、他のパーティのメンバーを紹介してくれた。
「役割分担ね。助かるわ」
「こっちこそ助かるよ」
他のパーティのリーダーが白い歯をみせて、にかっと笑った。さわやか系だ!と巧ははらはらした。しかし、織音は心配いらないようだった。
「みんなのログアウト時に一人でやるつもりだったんだけど、明日、みんなが来てからにするわ」
「それがいいよ。一人で無理しちゃだめだよ」
「でもね、どうせ暇だから、位置情報発信プログラムの方はちゃっちゃとやっつけておくわ」
こっそり、織音が巧に耳打ちした。
「協力することを約束してくださいね。抜け駆けは無しで」とギルドのお姉さんが釘を刺した。
「「「了解!」」」
みんな肯定の返事だった。
翌日。
光の柱の対策が完了した。
「前衛と後衛にうちのメンバーがつくよ。いつモンスターと出くわすかわからないから」
「助かるわ」
リーダー同士の会話を聞いて、テツは「それじゃあモンスターのコインとか宝石とか全部もってかれるぞ」と巧に小声で言った。
「それでも、安全が第一だと思うよ」と、巧は肩をすくめてみせた。
「次の赤、青、赤でせーので入りましょう」
「せーの!」
一度に二人づつ。転移先は数ブロック先。
「俺と由美子ちゃんが次に行く」
「おう。そのすぐ後、僕とおりねちゃんが行くよ」
「しんがりは任せてくれ」
「お願いします」
快進撃だった。
でも、テツの予想通りコインや宝石はあらかた他のパーティのメンバーが手にしていった。
「ラスボスのブロックには光の柱使わないの?」
「出現したとたん攻撃されて灰になるぜ」
「そうか」
1ブロック前でみんないったん集合して、最後のブロックまで罠を避けつつ進んでいった。
「ミノタウロスだ!全員構え!」
呼吸ぴったりで全員一斉攻撃した。さすがのラスボスもこれにはかなわず、消滅した。
「あれ?宝石とかじゃないの?」
そこにあったのは、装飾の施された、一振りの剣だった。
地面に刺さっていてなかなか抜けない。
「俺に任せろ」
みんな一通りやってみたが、抜けなかった。
「あれ?」
巧が手をかけると、驚くほどすんなり剣が抜けた。
「なんで?」
一同あっけにとられて見守った。
「そういえば!」
織音が急に笑い出した。
「最初の自己設定の段階で、巧君、勇者、って選択してたよね!」
「ええっ!?」
みんなびっくりしている。
「あれ、冗談かと思って、俺設定しなかったぞ」
「真に受けたやつがいたのか」
ひそひそ。
「ええっと……」
巧はぽりぽり頭を掻いて、「これ、僕がもらっても?」とみんなを見渡した。
「いいよ、しょうがないし」とみんな。
「ひでーなー」とテツ。「巧!勇者の証ゲット!」と、声をはりあげた。
ぱち、ぱち。ぱちぱちぱち……。
ぱらぱらと拍手が起きた。
巧は胸いっぱいになった。
「ねえ、急がないと、ダンジョンの様相が変化し始めてるわよ」
織音の声に、みんな、はっとして、大急ぎでダンジョンを脱出した。
「巧、巧。それ俺にも持たせてくれ」
テツが興味津々で剣を持ちたがった。
他の人達も物欲しそうに見ていた。
「ほら」
ひょいと、渡す。
「んぎぎぎぎぎ」
重くてテツには持ち上げられなかった。
「しょーがねーよ」
他のパーティの人達は諦めたようだった。
「ここのダンジョンの一番の目玉は巧のものかぁ」
テツが嬉しいやら羨ましいやらで興奮していた。
「それ、ギルドに売っちゃわない?」
「やだ」
「たぶん、買い取ってもらえないわよ」と織音が言った。
他のパーティのメンバーたちと穏便に別れて、また四人で幌馬車に乗った。
「僕の剣」
巧はるんるん気分で背中のホルダーに剣を納めた。
今まで使っていた剣は、テツがもらった。
「俺、二刀流」
「わー、すごーい」
由美子が言うと、テツはまんざらでもなさそうだった。
「織音」
みんなどきっとして織音に注目した。
織音のブレスレットからイーサンが現れて、声をかけたのだ。
「なに?」
「私は、その剣の中に入りたい」
みんな顔を見合わせた。
「巧君、お願い」
織音が上目遣いで頼んだ。巧は折れた。
イーサンは剣の装飾の中の青い石の中に納まった。