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第25話☆混浴温泉




第25話☆混浴温泉



「なあ、巧」

「なんだよ、テツ」

「その、リーダーと由美子ちゃん、どっちが胸でかいかな?」

「なんのこっちゃ」

かぽーん、こーん。

水場の音響が響く。

「お前は気にならないの?」

「由美子は妹だし、べつにどうでもいいよ」

「じゃあ、リーダーには興味あるんだ」

「なんでそーなる」

ざばあ。

湯船から上がって、巧は洗面器にお湯をくんで、石鹸を泡立てた。

ぶくぶく泡だらけになり、ごしごし体を洗う。

「なあ、お前なんともないの?」

「なにが?」

「混浴だぜ、混浴!女の子と一緒の風呂」

それでさっきからテツはおちつかないのだ。

ガラガラガラ。

扉のあく音がした。

「お兄ちゃん、テツ君、おまたせ~」

由美子の声。

巧は振り向くことができずに、ぶばあ、と鼻血を吹いた。

「巧君。大丈夫?」

「なんだ、おりねちゃん。水着着てるんなら早くそう言ってくれよ」

「何言ってんの!当たり前でしょ!」

織音が巧に冷水を浴びせた。

「ぷはー。のぼせちゃった」

巧はタイルばりの床に仰向けに倒れて、冷たいタオルで顔を拭いた。

「巧、お前、むっつりすけべだな」

テツが湯船の縁に両腕を置いて、顔を乗せて言った。

「うるへー、テツ。お前だって出歯亀(でばがめ)のくせに」

「でばがめ、ってなに?」

「すけべ、ってこと!」

「お兄ちゃん、死語使わないで」

「死語じゃないよ。読書してたら出てきたんだ」

「古い本読んだの?」

「そこまで古くないと思う」

鼻血は止まった。だけど、湯船のお湯につかるとまた出血大サービスしそうで、椅子に座って、上を向いていた。タオルで股間を隠している。巧は、そういえば何かのアニメで、二つの桶で見えそうで見えない踊りを踊ってたのがあったっけ、と考えた。

酔っぱらったかどうかしないと、そんなことしないよなー、とぼんやり考える。


「鼻血止まった?」

織音が至近距離で聞いた。

思わず水着の胸の辺りに目線が釘付けになる。

ぶばあ!

鼻血がっ。

「巧君!大丈夫?」

ばったり。

巧は前のめりに倒れ込んだ。


「あれ?」

ふっと気付くと、巧は幌馬車の中で寝ていた。

「夢?」

「巧君」

「なに?おりねちゃん」

「あなた、どーゆー夢見てるのよ」

「えっ?なんで?」

「あんまり幸せそうな顔で寝てるから、夢の中覗いたら……」

「そんなことできるの?!」

「できるんだなこれが」

「うそお。じゃあ、僕にもおりねちゃんの夢覗かせて」

「だめ」

「ずるいよ」

「ずるくない」


「どうしたの?」

由美子が聞いた。

「あなたのお兄さん、混浴のお風呂の夢みてたわ」と織音。

「わー、むっつりすけべ!」

「うるさい!」


「夢は願望が出るから」

「僕は、決してそんな」

「でも、拍子抜けしちゃった」

「なんで?」

「もっとひどいこと考えてたら、奈落の底に突き落としてやろうと思ってたから」

「どういう意味?」

「言葉通りよ」

「おりねちゃん?」

巧は後ろを向いた織音に問いかけた。

「私は、巧君が思ってるほどいい人じゃないのよ」

「なんでそんなこと言うの?」

「私、あなたが私の気に食わないこと考えたら、いつでもひどい目に遭わせてどっか行っちゃうから」

「おりねちゃん~」

どうしたんだろう、と、巧は涙目で思った。

「でも、今も一緒にいてくれるってことは、僕のこと嫌いじゃないんだね?」

「えっ?」

なんて、天然、ばか?織音は毒気を抜かれてふんわり巧のことをいとしく思った。


「なになにー?巧のばかが混浴の夢見たって?」

御者台で見張りをしていたテツが幌馬車の中に入ってきた。

「由美子!テツにまで言わなくていいだろう?」

「しらないもーん」

「それで、見えたの?あそこ」

「「「あそこ?」」」

「テツ、あそこって、胸のことだよな?」

「え?ああ」

女の子たちの視線に気おくれして、テツはちょっと言葉を濁した。

「女の子は水着姿だったよ」

「なんだ~」

テツはちょっと考えてから

「ほんとに混浴に行かない?」と問題発言をした。

「「「えっ?」」」

「ちょっとちょっと、何考えてんだ?」

「俺もみたい。女の子の裸」


がつん!

由美子の回し蹴りがテツの後頭部にヒットした。

「夢の中でみてらっしゃい!」

「由美子さん、凶暴ですな。毎度のこと」

「お兄ちゃん、うるさい」

「あーあ、なにやってるの」

織音があきれた声で言った。


「これだから、私は、この子たちと離れられないのかもね」

織音はもう、以前のように人間不信の冷たい自分には戻らなさそうだと感じていた。

悲しい一人ぼっちの20年を埋める仲間の存在をありがたいと思っていた。


「ほー、ここが、巧の見た夢の中の混浴風呂かぁ」

テツは温泉の湯気の中に立っていた。

もやの向こうに、人影が見える。

「かわいこちゃん、こっち向いて」

鼻の下を延ばしてテツは声をかけた。

ぱしゃん。

お湯をはじいて、振り向いたのは、かわいいメスの猿だった。

「どへー」

テツは精神的にずっこけた。

じゃばじゃば。

あっちを歩いていく影は、もしかしなくともキリンだし、なんか、ぱおーん、って鳴き声も聞こえるし、混浴は混浴でも、動物との混浴風呂だ。


「うーん、うーん」

テツがうなされているのを見て、心配した他の三人が、織音の魔法でテツの夢の中を覗いて、大笑いしたのは言うまでもない。





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