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第23話☆かつてのパーティのリーダー




第23話☆かつてのパーティのリーダー



「よう!テツに巧じゃないか」

町の中央の噴水広場でアクセサリーの露店を広げていると、聞きなれた声がした。

「リュウ先輩!」

テツがぱあっと顔を輝かせて言った。

「誰?」

織音が問うた。

「前のパーティのリーダーだよ。ついでに、僕らの高校の3年生」

巧が説明した。

「どうしたんすか?こんなところに一人で」

テツが聞くと、リュウは戸惑ったような表情になった。

「おりねちゃん、ごめん、由美子と店番お願いできるかな?僕たち、幌馬車の中で話してくる」

「わかったわ」


「実はな、テツがうちのパーティ抜けた後、ダンジョン攻略中に落盤事故があって、気が付いたら他のメンバーの姿が無くて、俺ひとりだったんだ」

「よく助かりましたね」

「ああ。俺は運だけはいいんだ」

「それからどうしてたんですか?」

「それがな、記憶があいまいなんだ」

「記憶があいまい?」

「そういえば、学校でお見掛けしないなーって思ってたんですが……」

「それがな、現実世界に戻れなくなってしまって」

「「えっ」」

「でもでも、あれからだいぶ時間が経っちゃったですよね?」

「そうだな」

この人もおりねちゃんみたいになにかのバグがあるのか、と、巧は内心思った。

「リュウ先輩。よかったら、俺らのパーティに入りませんか?」

テツが言った。

「えっ」

「なんだよ、巧。なんか文句ある?」

「いや、僕はないけど、由美子とおりねちゃんの意見も聞かないと」

「なんだ?お前らのパーティは女が幅を利かせてるのか?」

「そういう言い方はちょっと……」


「お兄ちゃん。商品だいぶはけたよ」

由美子が幌馬車に乗ってきて言った。

「きゃあ」

「安産型」

一瞬、何が起こったかわからなかったが、どうもリュウが由美子のお尻を触ったらしかった。

「なにするんですかっ!」

「まあそういきりたつな。男が助べえじゃないと、人類が滅ぶ」

「なに!この人っ!?」

由美子がわなわなとして言った。

「どうしたの?」

織音が顔を出した。

「気を付けて、リーダー。この人セクハラよ!変態、痴漢!」

由美子がキイキイ言った。

「女がリーダーなのか?」

理解不能、って感じで、リュウが言った。

織音が、リュウの目をじっと見据えた。

みんななんだろうと思いながら二人をみた。

リュウと織音はしばらく微動だにしなかった。

「この人、現実世界に帰ってないでしょ?」

「うん。そう言ってた」

「落盤事故の時に死んじゃってるわ」

「「「「えっ?」」」」

「おりねちゃん?仮想世界で死んだら、アバターだけ残して現実世界に帰るんじゃないの?」

巧が聞いた。

「だから、現実世界の方の本体がなんらかの原因で亡くなるかなにかして、魂だけこっちにとどまってるのよ!」

「えらいことだぞ」テツが青ざめて言った。

「俺は幽霊なのか?」

リュウが自分の両手をじっとみつめた。


「リュウ先輩が落盤事故にあったダンジョンまで現場を確認に行きましょう」

織音がそう言うので、みんなが従った。


Y市のダンジョンは上級者向け指定だった。

「いきなり途中の段階すっとばして入って大丈夫かな?」

「落盤があったのはダンジョンの途中だから、なんとかなるでしょ」

リュウは、織音がてきぱきみんなに指示が出せるのをみて、織音がリーダーだということに納得したようだった。

「おりねちゃん、こっちに引っ張られる」

「はい、最初のトラップよ」

「うへえ」

みんな、罠を回避して先に進んだ。

「まだ罠に引き寄せられるのか?巧」

「はい~」

涙目で巧が返事した。

「そこを左へ……」

「いいえ。右に行きましょう」

「なんで?」

「最初のセーブポイントがこっちにあるわ。もうすぐ三人はログアウト時間なの」

ヒュー。

リュウは口笛を吹いた。

何の変哲もない壁に手をかざして、織音はセーブポイントの部屋を開けた。

「おりねちゃん、すごいや」

巧が本気でほめた。

「前にここに来たことがあるのか?」

「いいえ」

「じゃあ、なんでわかった?」

「奥の手があるの」

「奥の手ねえ」

「リュウ先輩。現実世界の方で先輩がどうなってるか確かめてきます」

「頼んだぞ、テツ」

やがてログアウトの時間になった。

三人が現実世界に帰り、セーブポイントは薄暗くなり、星空のプラネタリウムのようなものが壁に投影された。

「あんたも帰れないのかい?」

リュウが聞くと、織音はうなずいた。

「私はこの仮想世界の意志に同化しているの」

「世界に意志があるのか?」

「ある」

「奥の手ってそれに関係してるのか?」

「まあね」

「俺も欲しいな。その力」

「それはあなた次第ね」

「そうか……」

無言の時間がしばらく続いた。

「やっぱり、俺はいいや。現実世界の方に未練がある」

「現実世界のどこがいいの?」

「わからないか?」

「わからない」

「なんていうかさ、運命の歯車がかみ合ってそうでかみ合ってないんだ」

「なにそれ?」

「予測不能、摩訶不思議、それが現実世界」

「それこそ、仮想世界に当てはまる言葉だと思うけど」

「解釈の違いだな」

……い。リュウ先輩!

「誰か呼んでる」

「良かったわね。テツ君よ。きっと接続不良で戻れなかっただけだわ。声の方へお進みなさい。帰れるわよ」

「帰る?帰れるのか」

「ええ」

リュウは最後に織音の微笑みを見てから、目をつぶり、現実世界の方から聞こえるテツの呼び声の方へ意識を集中した。


織音は誰かが喜んでいる声を聞いた気がした。





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