第21話☆文化祭
「今度の土日、西高校で文化祭をやるんだ」
巧が由美子に言った。
「そう?私の学校お休みだから遊びに行っていい?」
「うん。僕もテツも待ってるよ」
「リーダーには言わなくていいの?」
「おりねちゃんは来れない」
「そう。残念だね」
「テツの奴が準備で大道具作ってるときにペンキの缶ぶちまけてたいへんだったんだぞ」
「うわあ。大丈夫だったの?」
「早めに落としたから大事には至らなかったよ」
松永兄妹は、朝の短い時間にやりとりして、それぞれの学校へ登校した。
「松永君!おはよう」
「おはようゆいちゃん」
「巧!おはよー」
テツが最近巧とべったりなので、ゆいは不満げだった。
「テツ。あんた邪魔よ」
「そういうおまえこそ邪魔だよ」
「まあまあ、二人とも」
「まさかあなたたち、できてるんじゃないでしょーね」
「なんのこっちゃ」
「松永君は私のだから!」
「おっと問題発言!巧には他にちゃんと彼女がいるよ」
「うそ!」
「ほんとほんと」
「おい、よせよ」巧が赤くなってテツに言った。
「あのね、松永君は、勉強一本で、彼女なんて作る暇ないの!誰かさんとちがって」
「でもいるぜ。毎日会ってるもんな、なあ巧」
「う~ん」
「うそお」
ゆいは信じなかった。
「ま、私という彼女がいるからね!」
「巧、お前ちゃんと意志表明しとかないと、女の闘いに巻き込まれるぞ」とテツがひそひそ声で巧に耳打ちした。
「んな、むちゃくちゃな」と、巧は辟易した。
「松永君はこのまま成績優秀で卒業して、進学して、一流企業に就職して、私と結婚するの」
「はあ?」
「私の人生、一生安泰!」
「お前、笑わせんな。自分はなあんにも努力せずに幸せになれると思ってるのか?」と、テツが怒鳴った。
「いけない?」
「根本的なところで狂ってるぜ」
「なんですって」
「テツ。行くぞ。ほら」
巧がテツを引っ張って足早に逃げた。
「大丈夫か、あれ」
「わからん。でも怖い」
「俺も恐ろしい」
「ずっとつきまとわれてるし、ストーカーの気がありそうだ」
「やばいな」
そんなことがあってから数日後、文化祭の当日。
「外部のお客さん来てくれるかな?準備、相当がんばったもんな」
「俺らだけでも十分盛り上がれるぜ!」
みんなわくわくしていた。
午前中、開始してからほどなくして、「F女学院の子が来てるって!」と男子生徒たちがざわついた。
「F女っていったらおじょうさま学校だろう?どんな子かな」
「なんだ。由美子がもう来たかも」
「えっ?」
テツが素っ頓狂な声を上げた。
「由美子、F女に通ってるぞ」
「うっそー」
今までテツは知らなかった。
「二年二組の喫茶店!」
「はい?」
「松永巧と池端哲也にお客さんだよ」
がらりとドアを開けて、F女の制服姿の由美子と、やじ馬がやってきた。
「やあ、よく来たな」
「うん」
「とりあえず、なんか飲むか?」
ウェイトレスの格好のゆいが水を運んできて、どん!と乱暴にテーブルに置いた。
一瞬、巧たちは固まったが、ゆいを無視して話をはずませた。
「その子誰?」とゆいが聞いて、
「由美子ちゃん」
と、テツが真顔で言った。
「むかつく!」
「えっ?」
みんなびっくりしてゆいに注目した。
「松永君!そんな子ほっといて私と文化祭の出し物見に行きましょ」
「えっ。でも僕は……」
「ちょっと!失礼じゃないですか!」
由美子が怒鳴った。
「そうだぞ」
テツも由美子に味方した。
「うるさいうるさいうるさい!」
ゆいが狂ったように叫んだ。
「ちょっと、先生呼んできて」
誰かが先生を呼びに行った。
「他校生といざこざがあってるって聞いたけど?」
先生がすぐに駆け付けた。
「田所ゆいが、松永巧の妹にけんかふっかけてます」
テツが言った。
「妹……?」
ゆいが毒気を抜かれておとなしくなった。
完全に巧の噂の彼女だと勘違いして由美子に嫉妬したのだった。
「お兄ちゃん、この人じゃない?学年トトカルチョって」
由美子が憤慨して言った。
あっ!その場が凍り付いた。
「なんだね?学年トトカルチョって?」
先生が由美子に聞いた。
「お兄ちゃんの成績を賭け事にしてる人です」
「なにぃ?」
ゆいは、あわあわして、どうするすべもなかった。
「職員室にきなさい」
ゆいは先生にひっぱっていかれた。
「やべー、ばれるぞ」
生徒の何人かが真っ青になって慌てていた。
「由美子ちゃん。あっぱれ!」
テツが由美子の肩に手を置いて言った。
「どうしたらいいかな」
巧が不安げに言うと、
「私たちは悪くないんだから、普通にしてましょ」
と由美子が運ばれてきたジュースを飲んだ。
三人は出し物や展示を見て回って、文化祭を楽しんだ。
一方で、その日、停学や退学になった生徒が十数名出た。
ゆいは精神科に強制入院させられたそうだ。