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第19話☆食べもの




第19話☆食べもの




「なんかさ、ものたりなくない?」

テツが言った。

「どんなふうに?」

と巧が聞き返すと、

「仮想世界で全く食べものを口にしないだろう?たまには味覚を堪能して至福の時を過ごしたいなあって」

「至福の時?」

「そうそう。俺って結構グルメだからさ。食の楽しみもあじわいたいな、って」

「でも、食べたら消化して、出てくるだろ?それに対処したトイレってみかけないぜ」

「うーん」


「何の話?」と、織音。

「食べもの食べたいなって話」

「食べられるわよ」

「うそ!?」

「消化吸収しないだけで、どんなご馳走だって食べれるのよ」

「ほんとに?」

「うん。味わって飲み込んだら消滅しちゃうの」

「消滅?」

「だから、ふだんはそんなのにお金かけれないから誰も食べないだけで、物好きだと食べてるかもね」

「物好き?」

テツが物好きという言葉にひっかかったようだった。

「食べる喜びがなかったら、何のために生きてるんだよ」

他の三人は、テツの言葉に一理あると思ってぐっとなった。

「じゃあ、食べに行こうか?」

巧が言った。

「うん。私も自分の好きなことにお金使わせてもらってるから、テツ君も自由に使っていいと思うの」

と、由美子。

「そうね。たまにはいいかもね」

と、織音。

地図を呼び出して、レストランをみつけた。

「いらっしゃいませー、四名様入ります」

現実世界のファミレスみたいな感じだった。

「ご馳走じゃなくていいの?」

「ここで十分」

「食べ放題コースにしよう!」

ドリンクバーで飲み物持ち寄り、

「なんか、学校の帰りに寄り道してる気分だぜ」

とテツが嬉しそうに言った。


「お腹はすいてないね」

「空腹は最上のソース、っていうけどね」

料理が次々と運ばれてきた。

「おいしい!」

「味は現実と同じだね」

「問題は、いくら食っても腹がふくれん」

「満腹感がない」

「私はもういいわ」

「俺も……」

テツがなんか思ってたのと違ったのでちょっと残念そうだった。

「デザートはいくらでもいけるわ!ダイエットにはいいかも」と、由美子。

「ありがとうございましたー」

お店を出て、すぐにテツがその場にうずくまった。

「テツ?」

「おう、巧よ!俺、現実世界で3日ろくに食べてないんだ」

「なんだって!?」

「はずかしいけど、なんか食いたい!どうにかなっちまう」

「仮想世界では食べても意味がないわね。現実世界で食べなくちゃ」

「どうしたらいい?」

「お金が欲しい」

うつむいて、テツが言った。

「今の食事代、どのくらいだった?」

「四人で1万五千円くらい」

「テツの家も四人家族だよな」

「うん」

「おりねちゃん、由美子、テツにそのくらいお金やっていい?」

「もちろんよ」と由美子。


「ちょっと待って。オウルベアのルビー。あれを売りましょう!」と、織音が思いついた。

「ええっ」

「四等分してみんなで平等にお金使いましょう」

「それはいいや!」

巧が膝を打った。

「そんなことしていいの?」とテツ。

「「「いいの!」」」

「みんなで倒した最初の大物モンスターの対価だよ。みんなの稼ぎだ。遠慮しなくていい」


みんなでギルドに向かった。

ルビーは宝箱込みでコイン2万枚。200万円の値が付いた。

「一人当たり50万円!」

「わお」

コインで受け取ると保管場所に困るので、現実世界の自分へ各自署名して入金してもらうことにした。

「俺、今すぐログアウトしてなんか食べてくる!」

「わかった」

「恩に着るぜ!」

テツのアバターが動かなくなった。

「現実世界は真夜中でしょ?どこで食糧調達するのかしら?」

「コンビニだと思うよ」

「コンビニ?便利ね」

織音がそう言った。

「僕、お母さんにお金あげようかな?毎日パートで働いてて大変なんだ」

「あ、じゃ、お兄ちゃん。私もそうする」

由美子が言った。

「私は……。私が今更お金送ってもお母さんは許してくれないんじゃないかしら?」

織音がつぶやいた。

「そんなことあるもんか。おりねちゃん」

巧が織音の背中を押した。

「そうね。そうよね」

織音は泣き出しそうだった。



テツは寝床でむくりと起き上がると、デバイスを確認して確かに入金しているのを確認した。

「こんな時間にどこ行くの?」

弟が目をこすりながら起きてきた。

「コンビニ。お前も行くか?」

「お金は?」

「俺が稼いだ」

「ほんとに?兄ちゃんすごいや」

テツは弟の頭をぐりぐりやってなでると、二人で着替えてから出かけた。

夜気がひんやりした。

「食いもん買うぞ」

「うん!」

二人とも両手いっぱいに食べものの袋を抱えて店を出た。

「今、食べたい」

「俺も!腹がすいて死にそうだ」

夜の公園のベンチに座ってがつがつ飲み食いした。

「お父さんとお母さんにも持って帰ろうよ」

「そうだな」

果たして、帰宅して両親を起こすと、母親は素直に喜んだのに、父親は「金はどうした?!」とつめよってきた。

「兄ちゃんが稼いだんだって」

弟が誇らしげに言った。

「バイトしてるのか?テツ?」

「違う。仮想世界で稼いだ」

「全部出せ。俺が倍にして返す」

「いやだ。そう言ってギャンブルで全部なくすだろう!」

「なにをぅ」

がつん。父親はテツを殴った。

「いってえ」

むくり。テツは起き上がった。

「親父!」

がつんがつん!。

テツは倍にして返した。

父親はひっくり返ってしまった。

「母さん。親父をどうしたらいいかな」

「精神科に入院させましょう。ギャンブル依存症だ。私たちの手に負えない」

夜中に救急車を呼んで、テツの家族は父親を入院させた。

「俺、仮想世界で待ってる仲間に報告してこなくちゃ。母さんたちは、飯食ってから眠って」

テツはそう言って、再びログインした。





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