第18話☆鍛冶屋
「弓矢の矢じりを研磨して、固い木材の棒に継いで新しい矢に作り替えます。それから、三本の剣ですが、鍛冶師が鍛えなおします」
「ありがとうございます。どのくらい時間と費用がかかりますか?」
「手分けして作業をやりますので、今日中にはできあがります。費用は……」
このくらいかぁ、とみんな顔を見合わせた。無難な金額だった。
「待っている間どうしようか?」と巧が問うと、由美子がアクセサリーの材料を持ち歩いていたので、みんなで作ることにした。
「うーん!俺ちょっと、鍛冶師が剣を鍛えてるところ、見学してくる」
しばらくして、テツが気分転換に立ち上がった。
「あ、僕も行こうかな」
「はいはい。行ってらっしゃい」
織音が手をひらひらと振った。
「すいません。見学させてください」
「あっ」
作業場のみんながテツと巧を一斉に見た。
「なにしてるんだ!あんたたち」
テツが叫んだ。
鍛冶師の中央の一人がすっくと立ちあがった。
「女?」
テツは怪訝そうにその女を見た。
「織音。サキュバスの気配がするぞ」
イーサンがブレスレットからまた現れた。
「リーダー。サキュバスって?」
由美子が聞くと、
「女淫魔よ。男をたぶらかして金銭を奪い、骨抜きにするの」
「テツ君たちが危ない!」
「急ぎましょう。弓矢はまだ残っているわね?」
「はい」
次の間に入ると、ぐでんぐでんになった男たちが累々と倒れていた。
「おねえさまー」
テツの甘える声が聞こえて、サキュバスにめろめろになっている姿があった。
「テツ君!」
由美子がわなわなと打ち震えた。
「この場合、お兄ちゃんはどーでもいいのね」
織音が苦笑する。
「その女から離れて」
「やだ」
「テツ君!テツ!」
由美子がテツにびんたをお見舞いした。
「あれえ、由美子ひゃん」
「モンスターよ。退治して!」
「やだやだー。由美子ちゃんといいことするぅ」
テツが由美子に抱き着いてきた。
「もう!」
「由美子ちゃん。チャームの魔法をかけたから、しばらくテツ君はあなたにぞっこんよ」
「なんでそんなことするんですかっ!」
「テツ君をサキュバスから離すためよ」
織音は呪文を唱えて、サキュバスを攻撃した。
女と女の闘い。壮絶を極めた。
「おりねちゃん!離れて」
高温の溶けた鉄を巧がサキュバスに浴びせた。
ギャー!
サキュバスの女は溶けてしまった。
「なんであなたはどうもなかったの?」
織音が聞くと、巧が、
「テツのほうが金目の物いっぱいもってたからじゃないかな?」
と言った。
イーサンがサキュバスのなれの果てを吸収して、「またパズルのピースが一つ手に入った」と言った。
「由美子ちゃん、由美子ちゃん、大好きだ!俺と結婚して」
テツがまだしばらく騒いでいた。
「あれどうしたらいい?」
「ほっときましょ」
「えっ」
「冗談よ」
織音がテツと由美子にかけている、チャームの魔法を解いた。
テツはしばらく呆けて宙空を見上げていた。
他の人達も正気に返りはじめ、鍛冶師たちは織音たちに謝罪してから仕事をやってくれた。
他のパーティの男たちは、自分たちのパーティにも女の子がいたらなぁ、とうらやましそうだった。
「だけど、こんなところにもモンスターがいるなんて、油断大敵ね」
「ほんとほんと」織音と巧は口々に言い合った。
「ごめんって!」
むこうでテツが由美子に土下座していた。
「テツ君のばか!知らない!」
由美子がふくれっ面で腕組みしてつんとそっぽを向いている。
「あの二人、どう思う?」
「いい相棒じゃないの?」
織音と巧はくすくす笑った。
二人は由美子とテツのそばに行った。
「しかし、お兄さんは許しません」
「えっなにが?」
「ひとの妹に手を出すなんて見損なったぞテツ」
「ひえー、お兄様、巧様、ごめんなさい。俺は決して由美子ちゃんに下心持ってるわけじゃなくて」
「「「本当?」」」
みんなにつめよられて、テツが泣きだしそうだった。
「まあ、このくらいにしときましょ。テツ君も今回は不可抗力だったわけだし」
と織音。
「リーダー!ありがとう」
テツがほっとして言った。
剣と弓矢が出来上がってきて、おわびだとお店の人が値引きしてくれた。
「とんだ一日だったわね」
と織音がつぶやいた。
「「なんか、ごめん」」
テツと巧がそう言って謝った。
「しょうがないわね!」
と由美子が言った。もう怒っていないようだった。
いや、怒っていないどころではなく、由美子は内心
「テツ君に抱き着かれちゃった。それに、結婚してって言われたあああ」
と舞い上がっていた。
前からテツのことが、ちょっといいなーと思っていたのである。しかし、誰にも知られたくなかった。それが、今回のことで、恋心が全開になってしまっていた。
「でも、これは秘密。絶対秘密」
ばくばくいう心臓を抱えて、由美子は「この、四人でパーティ組んで旅する状況は、逃せないわ!絶対やめない!」と固く誓ったのだった。
恋する乙女は最強なのである。
例えテツがさっきは一時的におかしくなっていたにせよ、由美子の心は燃えあがってしまった。
由美子がテツのことを想っているなんて、他の誰も全く気付かなかった。当のテツ本人でさえも。それだけ、由美子の演技がすごかった。平静を装って、内心はハートの嵐。そうすることで、今までのようにやってゆける。それを由美子が一番よくわかっていた。