第17話☆おかーさんじゃ、ありません!!!
「おはよう。巧。今日はお弁当作ったから、持っていきなさい」
「おはよう。お母さん」
ダイニングテーブルについて、用意してある朝ごはんにありつく。
「今日はパートは休みなの?」
「いいえ。でも、たまには巧と由美子と顔を合わせないと、心配になっちゃって」
「お母さん……」
本当に久しぶりだった。
僕は親孝行してるかなぁ?と、改めて巧は考えた。
じきに由美子も起き出してきて、「遅刻遅刻、遅刻するぅ」とあわてていた。
「僕も遅れそうだからもう、行くよ」
「巧」
「なに?」
「気をつけて行ってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
巧は学校に行っても、母親の顔がちらついた。
ずいぶん老けたよな。でも、その分僕らも成長してるし。
「おかあさん……」
「おい、巧、大丈夫か?」
気付くと、テツがてのひらを巧の顔の前で上下させていた。
「テツ?」
「おうよ。なぜにお前はそれをお母さんと呼ぶ?」
それ、と言って指さしたのは、巧の下敷きに描かれた仮面ライダーの姿だった。
「あっ。ああ。僕のお母さんは仮面ライダー……」
「んなわけあるか!」
うまい言い訳を思いつく前に突っ込まれてしまった。
「疲れてるんじゃないの?」
「んー、そーかも」
「どういう疲れかたじゃ」
「そーいえば、なんか用?」
「宿題見せて」
「宿題?……。忘れた」
「うそ?!」
「時間まだあるかな?今のうちにやらなきゃ」
ばたばた。他の巧の宿題をあてにしていたクラスメートたちも右往左往して慌てている。
「なんだなんだ騒がしいぞ!」
ガラリ。
ドアを開けて先生が教室に入ってきた。
「英単語の小テストをするぞ!」
やばい。そっちも勉強していない。巧は思わず、「お母さん、助けて」とつぶやいた。
今日は、なんだか調子が良くない。胸の辺りがむずむずする。
授業も上の空。
「おい、松永」
「なに?お母さん」
言ってから、後悔する。言葉を口の中に戻せたらいいのに。
「俺はお母さんじゃないぞ」
「はい。すみません、先生」
「どうかしたのか?」
「胸が苦しくて」
「恋か?」
「ちがいますぅ」
くすくすクラスメートたちが笑った。
「具合が悪いなら、保健室へ行きなさい」
「……はい」
保健委員に付き添われて保健室へ。保健の先生がベッドを用意してくれて、カーテンを引いてくれた。
はふ。
白い天井を見上げて横になって、息継ぎ。酸素が足りてない感じ。
うつらうつら。心地いい。
そういえば、いつか、おりねちゃんが膝枕してくれた時も心地よかったな……。
くすうー。
巧は寝息を立てた。
その日の夜。仮想世界にログインすると、もうみんなそろっていた。
「巧、大丈夫か?」
テツが声をかけた。
「うん」
「「どうしたの?」」
織音と由美子が聞いた。
「今日、昼間、学校で調子が悪そうだったんだ」
「大丈夫?」
「うん」
「由美子ちゃん、お家で何かあったの?」
「なんもないよ」
由美子はきょとんとして言った。
「どんなふうにあるの?」
織音が巧の額に手を当てて聞いた。
「なんか、胸が苦しくて」
「恋かしら?」
「違う!」
「じゃあなに?」
織音の顔が近い。巧は赤くなった。
「やっぱ恋だ」とテツがすかさず言った。
「違うって!」
「まあ、無理するな。俺と由美子ちゃんの2人でアクセサリー売ってくるから、他の2人は宿で待機。俺らが戻ってきたときに具合がよくなってたらみんなで鍛冶屋に行こうぜ。リーダー、巧を頼みます」
「わかったわ」
「そんな勝手に決めないでくれ!」
「さあ、由美子ちゃん、売って売って売りまくるぞ」
「はーい」
巧の声は無視された。
「なにかしてほしいことある?」
織音が聞いた。
「別にないよ。お母さん……あ」
しまった!巧はぎゅっと目をつぶった。
「お母さんか。まだまだ恋しい年ごろよね」
「へ?」
「私も、今現実世界に戻ったらお母さんに甘えたいな」
「おりねちゃん……」
「さしずめ、私が二十歳の頃産んだ子ども」
織音は巧を指さして微笑んだ。
「今戻ったら、おかーさんじゃ、ありません!今までどうしてたのって、キイキイ言うわね」
「そんな」
「ほんとよ。私のお母さんだったら絶対そうよ」
「……膝枕」
「え?」
「膝枕して。おりねちゃん」
「甘えん坊ね」
くす、と笑って、織音は軽くデコピンをした。
「いってぇ」
「膝枕してあげない。テツ君たちが見たらどう思うのよ」
「それはその」
「子守歌くらいなら歌ってあげるから、ちょっと眠ったら?」
「うん」
巧は素直に言う事を聞いた。
だいぶたってから。
「ただーいま、っとくりゃ」
テツが景気よくドアを開けた。
由美子が後から部屋に入ってくる。
「それで?巧は具合良くなったのか?」
「ありがとうテツ。もう大丈夫だよ」
巧はにっこり笑って言った。
「なにがあったかは聞くまい。俺のそーぞー力の限界までたのしませてもらおう」
「なんのこっちゃ」
巧はあきれて、言った。
「ちょっとだけ歌をうたっただけよ」
織音がそう言うと、
「ほんとにそれだけぇ?」
と、テツが拍子抜けした声を出した。
「それだけです。じゃあ、鍛冶屋さんに行きましょうか?」
「あのね、アクセサリー、いっぱい売れたの!」
由美子が幸せそうに言った。
「やったね!」
織音がサムズアップしてみせた。