第16話☆仮想世界の意志
「イーサン、出てきちゃった」
織音が、あーあ、と言った。
「その人誰?ていうか、何者?」
テツが聞いた。
「私はイーサン。湖の精」
「なんでその湖の精がここにいるんだよ?ここら辺、湖ないぜ」
「織音のブレスレットに入っていた」
「ほんと?リーダー」
織音はうなずく。
「巧は知ってたの?」
とテツが聞いた。
「うん、まあ」
「ひどいよ教えてくれてたって良かったはずだ」
「ごめん、テツ」
「私も知らなかったわ」
由美子が言った。
「ごめん、由美子」
「私のせいよ。巧くんを責めないで」
「おりねちゃん……」
「イーサンは湖の精だけど、この仮想世界の意志の一部なの」
「仮想世界の意志?」
「そう。今のままでいるよりも自由になりたい、って思ってるの」
「今のまま、って、K県の管轄でAI制御だってことしかわからんけど?」
「それらから自由になって自分の意志で世界を造りたい、成長したい、と願っているの」
「ふうん」
「他の仮想世界とも交流したいと思っているし、きっと他の仮想世界だって同じ気持ちだろうって」
「世界に意志がある、って驚きだな」とテツ。
「そうだね」と巧。
イーサンが、さっきの人型をしきりに気にしていた。
仮想世界のほころび?バグ?
普通のモンスターは、AIのプログラム通りだったら、コインとか宝石に変化するはずなのに、あの人型は、いまだにくすぶっているようだ。
そのことをみんなに指摘すると、
「人間に擬態するモンスターなんて、どうやって見分ければいいんだ?」
と、みんなは危機感を抱いていた。
「とりあえず、私にはわかる」
イーサンの言葉に、しぶしぶみんな納得する。
「跡形が残らないように消滅させよう。いつ復活するかわからないから」
イーサンの力で人型を消し去った。
「パズルのピースのように、手がかりのかけらが手に入った」
そう言って、イーサンはブレスレットに戻って行った。
「仮想世界の意志の願いをかなえた時、本当の宝物がみつかると私は思うの」
と、織音が言った。
「人によって宝物ってさまざまだけど、その時手にする宝物を僕は見てみたい」
と、巧。
「んー、いいんじゃない?ここにきてる最終目的は宝探しだしさ」
テツがわくわくしながら言った。
「ねえねえそれより、これは?」
由美子がオウルベアから出てきた宝箱を示した。
「おっと、わすれてたぜ」
テツが、両手をにぎにぎしながら箱に手を伸ばした。
「「「「うわあ」」」」
箱の中には、ビロードの布が敷かれて、その上に巨大な宝石が鎮座していた。
「ルビーだ。きっとピジョンブラッドよ!」
と由美子がうっとりして言った。
「ピジョンブラッドって何?」
「知らないのお兄ちゃん。鳩の血色のルビーが最高のものなんだって」
「へええ」
巧は本気で感心している。
「なくさないうちにアイテムボックスにしまいましょう」
「そうだね」
みんながテツのアイテムボックスに宝石箱をしまうと、
「金目の物ばっかり俺に預けてていいの?持ち逃げするかもよ?」とテツが言った。
「「「信じてるから」」」
みんな即座に言い返した。
「まいったなぁ、もう」
テツはほんとうに参ってしまった。
「あのな、俺んちはほんとにビンボーなの。いつ魔がさすかわからんぜよ」
「「「それでも、信じてるよ」」」
「うえーん」
テツは泣き声をあげた。
「ほらほら、それより、行かなくちゃいけないところ、あるでしょ?」
「どこ?トイレ?」
「仮想世界で飲み食いしてないのに出るわけないでしょ!」
「じゃあ、どこ?」
「鍛冶屋さんよ」
「「「鍛冶屋さん?」」」
拾った矢とか剣とか点検してみると修理や、刃こぼれの処理が必要なことがわかった。
「さすがリーダー。隣町までいこうぜみんな」
「「「おー」」」
再び幌馬車に乗り込んだ。
「ダンジョンは超初心者向きだったけれど、モンスターはそこそこ手を焼いたよな」
「オウルベア?あれとダンジョンは別口だったみたいね」
「でも退治出来て良かった」
由美子が本当にしみじみ言った。
「時間的に次の目的地に着いたらすぐ宿をとりましょう」
織音が言う。
「リーダー、時計なしですごいな」
「さては、カウント機能使いこなしてないわね?」
「カウント機能?」
「みんな、ステータス画面呼び出して」
織音のレクチャーで、みんなは時間のカウント機能を使用できるようになった。
「てってれー♪」
「なに?」
「ワンナップ。レベルが1あがりました。なんつって」
「ゲームかよ?」
「ゲームだろう?」
「仮想世界でしょ?」
???
みんな目が?になった。
「どゆこと?」
「今のじょーきょー?」
「んだんだ」
「楽しければ、それでよし」
「そうかぁ?」
うやむやのうちに隣町に着いた。
宿の裏に幌馬車をとめて、手続きをして、部屋に入る。
「ログアウトまで少し時間があるから、休みましょう」
「私、アクセサリー作る!」と由美子。
「俺と巧は明日の準備」と、テツ。巧もうなずく。
「みんな元気ね。じゃあ、私はここの町のギルドに許可証の申請に行くわ。遅くなったら先にログアウトしててね」と、織音。
「「「オーケー」」」
まるでお母さんと子ども達みたいだな、と巧は思った。