第15話☆幌馬車と、超初心者ダンジョン
「これからよろしくね」
由美子がAIロボットの馬たちにそう声をかけた。
ロボットはよくできていて、本物そっくりだった。だが、御者がいなくとも目的地まで走る機能がついていた。
四人を乗せて幌馬車は出発した。
「快適だな」
テツが通り抜ける風に吹かれながら寝っ転がっていた。
「思ったより揺れないし、いいね」
巧も同意見だった。
「気は抜かない方がいいわよ。交代で見張りしながら行きましょう」
「「「わかった」」」
キンコーン!キンコーン!
「なんだなんだ」
「目的地に到着しました」
「馬がしゃべってる」
キンコーン!キンコーン!
「目的地に到着しました」
何度もくりかえされる。
「ちょっと、これなんとかなんない?頭に響くよ」
「変更可能っていってたから、音を調整しましょう」
一段落ついて。
「はあ。疲れた」
と、巧は言った。
「これからダンジョンに入るのに、もう疲れてどうするんだよ」
「だって、テツ。お前だって疲れたろう?」
「うん」
二人して地べたに座り込む。
「なあ、あれ、どう見ても鍾乳洞だよな」
「うん」
「あれがダンジョン?」
「うーん」
「なんでもありなのかな?」
「うーん」
そこへ織音と由美子が来た。
「ほら、行くわよ」
「なんかさ」
「何?」
「やめとかない?」
「なんで?」
「気が進まない」
「何言ってるの!」
織音がおかんむり。
「行くわよ!」
「「へーい」」
しぶしぶ巧とテツは立ち上がった。
ぴちょーんん。
水滴が落ちる音。じめじめした鍾乳洞内部。
「ライティング!」
織音が魔法の灯りを各自に持たせた。
ひんやりとして、そのせいか、ちょっと怖い。
足元を水が流れている。
「滑らないように気を付けて」
「はーい」
きーきーきー。ばさばさばさ。
「うわ。蝙蝠だ」
びびりまくりで巧が叫ぶ。
どこまでも高い天井から鍾乳石が伸びている。地面からも盛り上がった鍾乳石がいくつもあった。
「おい、行き止まりだぜ」
テツがふさがった前方の鍾乳壁を照らして言った。
「宝箱がある!」
「そんな安直な展開でいいのかよ」
中身は羊皮紙一枚。
「なになに、ポーションの作り方?」
「あら、よかったじゃない」
この羊皮紙は持ち帰れません、と注意書き。
「こういう場合は、コピー、ペースト!」
「パソコンかよ」
織音の言動にツッコミを入れるテツ。
「なんだー。なんにもなかった」
鍾乳洞から外に出ると、由美子が物足りなさそうに言った。
「あったじゃん、宝箱」
「んー」
巧と由美子はにやりと笑った。
「「もう一回入ろう」」
「お前ら、あほか?」
テツがあきれて言った。
「いいじゃん。ちょっと涼んでくるよ」
「私もー」
やっぱり兄妹。巧と由美子は一緒に超初心者用ダンジョンにもう一度入って行った。
「観光旅行かよ」
「そうね」
織音とテツは一緒に外で待っていた。
「リーダー。一つ聞いて良い?」
「なに?」
「巧のことどう思ってる?」
「弟みたいに思ってるわ」
「巧―!がんばれ」
「巧くんだけじゃなく、テツくんも弟みたいだし、由美子ちゃんは妹ね」
「もしかして俺ら幼く見える?」
「あはは」
巧と由美子が戻ってきた。
「テツ!おりねちゃんとなに話してたんだよ」
「がんばれ、巧」
テツは巧の肩にポン、と手を置いて、心底そう言った。
「僕は、これ以上なにをがんばるんだよ!」
「そうだな。そうだったな。お前は頑張り屋だ。だが彼女の歓心を買うにはもっと別のがんばりがだな」
「なんのこっちゃ」
巧は、しかめっ面になった。
「……彼女?」
「そう彼女」
「彼女って、もしかしておりねちゃん?」
「そう」
「おりねちゃんはお姉さんだよ」
ずり。テツはずっこけた。
「気があるのかと思ってたのに」
「さあね」
「?。ちょっとはある?」
「しらないよ」
巧はふいっとあっちへ行ってしまった。
みんなの靴が渇いたころ、鍾乳洞近くの林から男性の声で、「助けてくれー!」と聞こえた。
「なんだろう?」
「行ってみましょう」
四人は土の地面を踏みしめて、林に分け入って行った。
ホウ、ホホウ。
「梟?」
「いや、熊、みたいだ」
巨体は今にもそのかぎ爪で男性に襲い掛かろうとしていた。
「由美子!」
「はい!」
由美子はその場で、ぎりぎりぎり、弓矢を引き絞る。
その間、他の三人は分かれて回り込む。
とす。毛むくじゃらの巨体の肩に、矢が刺さった。
巨体は振り向き、由美子を見る。
「なに、あれ!あんな生き物いままで見たことないわ!」
次の矢を継ぎながら、由美子が叫んだ。
駆けて行った三人は、さやから剣を抜いて、巨体に斬りかかった。
「こいつは、『オウルベア』だ」
テツが言った。
「知ってるのか?」
「顔が梟で体が熊のモンスターだよ。こんなのがいるとは」
「助けてくれ」
「もう大丈夫だから、さがってて。ぼくらが仕留めます」
さっきの男性は怖いのか、誰かの背後に回ろうとばかりしていた。
「気を付けろ!その男もモンスターだぞ!」
「「「「ええっ?」」」」
織音のブレスレットからイーサンが姿を現して警告した。
がぱあ。
男性の頭が真っ二つに割れて、口が出現した。
「イーサン!?」
「織音。これは人間に擬態して他の人間を食らうモンスターだ」
織音は攻撃魔法を繰り出した。
「ファイヤーボール!」
男性だったものは、途端にメラメラと燃え上がった。
巧たちが三人がかりで、オウルベアにとどめをさすと、それは小さな宝箱に変わった。
「おりねちゃん、加勢するよ」
「こっちももう終わりよ」
そう言って背中を向けた織音に燃える人型は襲い掛かってきた。
「おりねちゃん!!」
一刀両断。
巧の剣が人型を切り裂いた。
「ありがとう、巧くん。油断したわ」
倒れ込んだ人型はいつまでもぱちぱち音を立てて燃えていた。