第13話☆薬草摘み
「由美子。今日はギルドに寄ってからダンジョンの近くまで行くぞ」
巧が言った。
「んー、あんまり気が進まないなぁ」
「僕がしばらく、自分がついてなかったときにやってたこと、を教えてやるよ」
「なんだそりゃ?」
テツが聞いた。
「前のパーティを追放されたとき、一人でどうしてたと思う?」
「んー」
「興味ある?」
「うん」
「じゃ、そういうことで、まずギルドに行こう」
四人はギルドに向かった。
ギルドの掲示板を前に、
「ここで、お仕事を探します」
と巧が言った。
「ときどき破格のお仕事もありますが、コンスタントにいつも募集されているお仕事もあります」
「どんなの?」
「ポーションの原料の薬草を採ってくるお仕事」
「すっごい単価が低い」
テツがしかめっ面をした。
「地道な作業です」
「確かに」
「これをみんなでやればいくばくかの収入ができて、いい仕事です」
「……それを一人でやっていた、と?」
「まあ、そういうこと」
「んー、暇つぶしと気分転換にはいいんじゃない?」
と、織音が言った。
「あーあ、ダンジョンも初心者向け、中級者向け、上級者向け、があればいいのになぁ。いきなり上級者向けに入る度胸はないぞ」
他のパーティの誰かが愚痴っていた。
「ありますよ」
カウンターのお姉さんが言った。
えっ?
みんな耳をそばだてた。
「一番近いダンジョンは中級者向けで、各地にいくつかレベルの違うダンジョンが点在しています」
「あの、それほんとですか?」
由美子がお姉さんに聞いた。
「はい。近くのダンジョンはK県K市の管轄で、他の市部や郡部の管轄のダンジョンがいくつかあります」
「耳よりな情報じゃん」
テツがほくほくして言った。
「旅をしなきゃいけないですよね?その時シャッフル機能はどうしたらいいんですか?」
と、巧が聞くと、
「幌馬車やテントに位置固定機能がついています」とのこと。
「それってどうすれば手に入るの?」
「県庁に申請すれば、格安で入手できます」
「格安……。お金がいるの?」
「はい」
お姉さんは料金表を出した。
他のパーティのメンバーも、巧たちも集まって料金表を、ああだこうだ言ってながめた。
「ぎりぎりのコインはあるけど、幌馬車代に払ったらそのあとが心もとないなぁ」
「それでしたら、お仕事の依頼を受けてください」
「そーすべ」
「わあ、なんか、目の前が拓けた感じがするー」
由美子がほがらかに言った。
「よかったじゃん。割のいい仕事みつかるまで薬草摘みがんばろうな」
「うん」
巧たちはダンジョン周辺の草原に行き、さっそく仕事にかかった。
「鑑定!」
「鑑定!」
「鑑定!」
しばらくそう言いながら摘んでいったが、そのうち目で見分けがつくようになった。みんな無言でぷちぷち摘み始めた。
「よう、巧よ」
「なんだ?テツ」
「お前、俺にプレゼントくれただろう?リーダーとかにはやったの?」
「いや、まだ」
「女の子に先にプレゼントするだろう?ふつう」
「えーと」
「頭いいくせに、どっか抜けてるもんな、お前」
「うっせー」
テツが青い花で造った花かんむりを「リーダーにあげろよ」と手渡してきた。
「ありがとう。でもテツは?」
「由美子ちゃん用にもう一個造った」
「まめだなぁ」
巧は感心してしまった。
「みんな、集まって!」
「なによ、まだほんの少ししか薬草摘んでないわよ」
織音がそう言って走ってきた。
「テツがおりねちゃんと由美子に造ってくれましたー」
巧が花かんむりを見せると、織音も、由美子もわあー、と歓声をあげた。
巧が織音に、テツが由美子にそれぞれ花かんむりを頭上に乗せた。
みんな嬉しそうに薬草摘みに戻る。
「こういうのも悪くないわね」
と織音が言うと、
「ほんと!悪くない!」
と、由美子がうきうき気分で言った。
「テツ、ありがとな。僕も由美子を元気づけたかったんだ」
巧は改めてテツにお礼を言った。
「いやいや、どーいたしまして。あのな、実は、マウンテンバイク、親父たち売り払ったりしなくて、俺、毎日乗り回してるんだ」
「本当に?」
「うん。ありがとう、巧」
「よかった」
巧もほっとした。
「なにあれ?」
由美子が指さした方を見ると、小さなスライムが三匹いた。
「おー、でたでた。由美子。あれを弓矢で射るんだ」
「えー、なんで?かわいそうだよ」
「いいか、あれは生きてるように見えるけど、実はコインが擬態しているんだ」
「そんなむちゃくちゃな」
「ほんとだって。僕が一匹、ダガーでやっつけるからどうなるか見てろ」
巧はスライムの一匹をコインに変えた。
ちゃりん!
「ほんとだ」
由美子が目をまん丸に見開いて言った。
「ほら、他のが逃げる前に矢で射るんだよ」
「うん。お兄ちゃん」
由美子はぎりぎりと弓をひきしぼった。
一匹に命中。コインに変わる。
もう一匹は、テツが追いつめて仕留めた。
「ほら、由美子。このコインはお前のだ」
巧が由美子に拾ってきたコインを手渡した。
「わあ」
由美子は、コインを陽光にかざした。
「これ、大事にする」
「そうかい」
「あのね、針金でコインをペンダントトップにしてネックレス作るの!」
「いいわね」
織音がふーん、と感心した。
「みんなのお金で針金とか、チェーンとか、買ってもいい?」
「「「いいよ」」」
「わーい!」
「由美子ちゃんは手先が器用なのね」
「こいつ、いつも手芸ばっかりやってたんだ。なぁ由美子?」
「うん」
「それなら、材料もっと買ってアクセサリー作って売りましょうか?」
「できるの?」
「薬草集めより実入りはいいかもよ」
「それなら、そっちをやろう」
「作り方とかどうやるの?」
「YouTubeで出てるよ」
「YouTube、ステータス画面でみれるの?」
「見れるよ」
わいわいやってみんな楽しそうだった。