第12話☆練習場
由美子が弓に矢を継がって、迷うことなく弦を引く。
だんっ!
一発で的に命中。
「「おおー、すげー」」
巧とテツの声がはもった。
「一発必中!すごいでしょ?」
「「うんうん」」
「リーダーの剣さばきもすごいんだから」
「私は実戦でしか見せないわ」
「うわー。俺ら遅れをとったぞ、巧」
「ほんとだよ。こりゃ、気を入れて練習しなくちゃ」
男たちが焦っていると、女二人は、ぷっと噴き出して、けらけら笑った。
「なんだよ?」
「あのね、AIのサポートで姿勢とか力の入れ具合とか調整してもらえるの」
「なんだー」
「心配しなくてもずぶの素人を玄人ばりに仕立て上げる技術があります」
「すげー」
「この数日、私達、ほとんど練習しなくて、おしゃべりばっかりしていたわ」
「どんな話?」
「コイバナ」
「聞かせて」
「男の子はダメ。まぜてやんない」
「ケチー」
グエー、ケケケケ。
突然けたたましい声がした。大勢のゴブリンが練習場にどっとなだれ込んでくる。
「なにあれ?気持ち悪い」
由美子が怖気で泣きそうになった。
「由美子ちゃん、俺の後ろへ」
と、テツが由美子をかばった。
「なんでこんな街中に?」
巧が疑問を口にした。
「確かにおかしいわね」
織音が剣をさやから抜いて、構えた。
「おい、巧。俺らもぶっつけ本番」
「わかった」
二人も剣を抜き、身構える。
「おい、ゴブリンは大の女好きで、さらって子どもを身籠らせるらしいぞ」
テツの言葉に、由美子は気が遠くなりそうだった。
「由美子ちゃんをお願い」
織音がその姿を炎の竜に変えて、ゴブリンたちに襲い掛かった。
「「リーダー!」」
テツと由美子が初めて見る織音の変身に驚きを隠せなかった。
メラメラとゴブリンたちが燃えている。しかし、一向に数が減らない。
テツは向かってきた数匹のゴブリンを剣で切った。
「これじゃあ、きりがないぞ」
そういえば、巧は?
三人が一瞬そう思った。その時、
ガシャーンン。
なにか壊れる音が響き、まばたきする間にあんなにいたゴブリンたちが姿を消していた。
「巧、なにやった?」
「うん。まあ、これが……」
練習場の一角になにかの装置が設置されていて、巧はそれを叩き壊したのだった。
「ふぉっふぉっふぉっ。そっちのはえらく勘がいいな」
店主のバルタンおやじがにこやかに現れた。
「どういうこと?」
織音が元の姿に戻って尋ねた。
「実戦の練習用のプログラム投射機を壊しよった」
「練習用……」
テツが脱力してやっと立っていた。
「あんなのが、練習って!実戦ではもっと気持ち悪いのとか怖いのが出てくるの?」
由美子が涙をポロポロ流しながらしゃがみこんで言った。
「なんか、ダンジョンの罠の感じに似てる気がして近寄ったらレンズとかついてて、動いてるし。もしかして、と思って」
巧は頭をぽりぽりかきながら、ぼそぼそ言った。
「あなた、生きた罠探知機ですものね」
織音が巧にあきれて言った。
「どうして前もって言っててくれなかったんですか?」
「先に言っておったら練習にならんじゃろ?」
「それはそうだけど」
不意打ちは、みんなにかなりのショックを与えた。
「ダンジョン攻略はお遊びじゃない。それだけ高額で素晴らしいお宝が用意されておる」
「下手すると、ほんとに死人でるんじゃない?」
「こちらの世界での死は、現実世界からこちらへ来れなくなる仕組みになっておる」
じゃあ、おりねちゃんは?どうなるんだ?と、巧は心配した。
こちらの世界で死んだら、織音は現実世界と仮想世界のはざまで、さまようことになるだろう。そこは時間と関係なく続く世界のように思えた。
僕がおりねちゃんを守らなきゃ。巧はそう強く思った。
「実戦の練習用のプログラム投影機って、高いんですか?」
「そうさのう。だが、県庁に申請すれば格安で修理や交換をしてもらえるようになっとるから、気にせんでいい」
「もしかして、この機械と同じものがダンジョンにもしかけられてるんですか?」
「するどいのぉ」
ふぉっふぉっ、と店主は笑った。
「悪趣味だわ」
由美子がふくれっ面で言った。
「今回のことは、いい買い物をしたオプションだと思っておくわ」
織音が言った。自分が調子に乗っていたかもしれないと内心反省しながらだった。
「リーダーがそう言うなら、そうだな」
テツがこの話はここまで、と仲間に目配せした。
「とりあえず、剣の基本形だけでも習っておこうかな」
巧がそう言って自分の剣をさやから出した。
「ステータス画面を呼び出して、リンクさせるといいわ」
織音が横から覗き込んで、指示した。
「俺、さっき、まだリンクしてない状態で戦ったぞ」
テツが焦って言った。
「災難だったわね」
織音の言葉に、
「それだけ?」
とテツが情けない声を出した。
「テツくん、さっきはありがとう」
由美子がお礼を言った。テツは赤くなりながら、
「当然だろ?」
と言った。
「テツ、かっこいい!ヒューヒュー」
巧が茶化した。
「おい、巧。俺はてっきりお前がまた逃げたのかと疑ったぞ」
「戦うこと以外のこと考えてたから、逃げたのとそう変わりないんじゃないの?お兄ちゃん」
テツと由美子が言った。
イーサンが巧はユニークだって言ってたけれど、こういうところかしら?と織音は思った。
「すげー、相手の太刀筋が見える」
テツと巧が練習で剣を交えた。
「ほんとだ。攻撃を予測して反射的に動ける」
「仮想敵相手にも練習できるわよ」
織音が言った。
「そうだな。お互い怪我しない程度にしとこうぜ」
「おう」
「私、やっていけるかしら」
由美子がしゃがみこんで悩んでいた。
「由美子ちゃん、さっきのはひどかったわね」
織音が隣に来た。
「私、気持ち悪くて、怖くて、弓矢で戦う事できなかった」
「それが普通よ。今ならやめることもできるけど?」
「……。考えてみる」
「うん」
由美子は遠くをみつめた。