第8話☆新パーティ結成
日曜日。
テツと由美子に仮想世界の宿屋で落ち合う約束をつけて、巧は現実世界の昼間のんびり休息をとった。
「そういえばこっちでは、もうすぐテストだったなぁ。勉強してないや。した方がいいかなぁ」
毎日それなりに授業に身を入れていたから、基礎的なことはある程度は頭に残ってはいる。
でも卒業後の進学も視野に入れたら、2年生の今頃から本腰入れて勉強しておかないと手遅れになるだろう。
「あっちの世界でもこっちの世界でも大忙しだよ。まったく」
ひとりごちて、スナック菓子をつまむ。
仮想世界では食事らしい食事をしたことがなかった。食べる気になれば食べられるのだが、食べなくても昼間現実世界で食事しているから、たいして必要ではなかった。
「おりねちゃんは……」
現実世界に戻れないなら食事はどうしているんだろう?巧は本気で心配になった。
「県庁の人が、おりねちゃんを心配している方々がいる、って言ってたけれど、おりねちゃんを置き去りにしちゃった人とか親御さんとか大変だろうなぁ」
改めて巧はそこに思い至った。
でも、それを織音に言うと、責めることになりそうで、時期が来るまで黙っていよう、と巧は思った。
夜。
「おやすみお兄ちゃん。後で向こうで会おうね」
由美子がパジャマ姿でそう言って自分の寝室へ立ち去った。
仮想世界にダイブすると、宿屋の一室だった。
「巧、いるか?」
ノックの音がして、テツが顔をみせた。
「さすがに場慣れしてるとスムーズに会えるよな」
「まあね。じゃあ、一階の食堂に行って、由美子ちゃんが来るのを待とうか」
「そうしよう」
なかなか由美子は現れなかった。
「迷子になってなきゃいいけど」
「この人が新しいパーティのメンバー?」
いつの間にか織音が姿を現した。
「おりねちゃん」
巧はテツと由美子がそろってから織音を紹介しようと思っていたが、織音の方が由美子より早く来てしまった。
「だれ?」
「おりねちゃん、っていうんだ。こっちの世界で知り合った」
「へえ。俺、テツです。よろしく」
テツが右手を差し出して、織音と握手した。
「こちらこそよろしく」
三人でテーブルに着き、何をするでもなく時間がすぎたため、織音がしびれを切らして「まだ行かないの?」と聞いた。
食堂は閑散としており、宿屋のおばちゃんが暇そうにこっちを見ていた。
「ごめん!やっとたどり着いた!」
ほどなくして、宿屋の入り口から由美子が息せき切って入ってきた。
「ああ。良かった。来れたね」
テツがそう言った。
「これでみんなそろった」
巧がほっとして笑った。
「その娘、だれ?」
気付くと、織音がすごい形相でこっちを見ていた。巧は訳が分からず、織音はいったいどうしたんだろうとびっくりした。
「初めまして。由美子です。お兄ちゃん?この人もパーティのメンバー?」
「おにいちゃん……」
織音が毒気を抜かれて、表情が和らいだ。
「あなた、妹さん、いたの?」
「そうだよ。他に親しい女の子いないし。それより、どうかした?おりねちゃん」
「いいえ。ちょっとした思い違いっていうか、そのぅ」
「おっとこれは、ほっとけないなぁ。おりねちゃん、君、今嫉妬したでしょ?」
テツが面白半分で言った。
「まさかあ」
織音が大声で否定した。
「もしかして、巧とおりねちゃん、両想い?」
「んなわけないだろ」
巧がテツを軽くこづいた。
織音は顔を赤らめたまま、「その、由美子ちゃん。私は織音よ」と言った。
「お兄ちゃんが女の子と一緒にいる!」
由美子が目をまんまるにして言った。
「そんなに珍しいか?!」
巧は顔をしかめて言った。
「お兄ちゃんのことだから、パーティのメンバーは男ばかりだと思ってた」
由美子が言うと、
「私もよ」
と、織音が言った。
「よろしくね、おりねさん」
由美子が手を差し出すと、織音が嬉しそうにその手を握って二人は微笑んだ。
「女の子は、女の子同士のほうが話もはずむだろ?」
テツがのほほんと言った。巧も同感だった。
「とりあえず、どこへ向かう?」
「王様に謁見」
「路銀もらいにいくのか」
テツは飲み込みが早い。
「王様がいるの?」
「AIのロボット王様。セオリー通りにしかしゃべったり動いたりしないんだ」
「そんなのが王様?」
由美子がはあー、と言った。
城に着くと、今度はすんなり通された。
「そちたちは四人じゃな。コイン4000枚進呈しよう」
「ありがとうございます」
「旅の装備代に役立てて、世界を救ってくれ」
「毎回思うんだけどさ、ちょっと大げさだよな」テツがこそっと言った。
王様は聞こえなかったのか、それとも対応するプログラムがなかったのか、テツの言葉をスルーした。
「いやいや、どうして。世界を救おうぜ」巧が言うと、テツが笑った。
「こら!君たち、まじめにやんなさい」
突然大音量で声が響いた。
「なに?なんなの?」
「こちら県庁管轄施設のモニタリング中」
「げっ」
こっちのやりとりが筒抜けで、県庁の人に注意されたのだ。
「すいません」
巧が謝った。
「見られてるの?」
織音が身構えた。
「吉川織音さん。こちらであなたの処遇は保留に決まったから。ただし、基本的には松永巧くんたちと行動を共にしてください」
「え?」
どういうこと?とテツが聞いた。
「ちょっと訳ありなんだ」
巧がとりなした。
「とにかく、がんばってください」
アナウンスはそれっきりだった。