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第6話☆プレゼント


第6話☆プレゼント



現実世界で巧は土曜日の午前中を学校で過ごし、帰宅後昼寝をしていた。

睡魔が巧をとらえて離さなかった。こんなに疲れていたのか、と起きてから思った。

デバイスを三台使いまわして、音楽、SNS、ネットショッピングを同時進行で行った。

「おっ!これこれ」

赤いマウンテンバイク。

さすがにお高い。

「仮想世界のコイン何枚分かな?」

県庁のホームページに問い合わせてみた。

コイン400枚!

「買えんことはない。買えんことはないけど、ちょっと懐を直撃するお値段じゃないか」

どうしようかな?と巧は悩んだ。

ごろりとベッドに横になる。

枕を宙へ放り投げて、両足でキャッチ。

天井の明かりがまぶしい。

枕を足でぐるぐる回して、もてあそぶ。


「お兄ちゃん、何やってるの?」

妹の由美子がドアを開けた。

「悩んでるの」

「なにに?」

「買うか買わないか」

「なにを?」

「赤いマウンテンバイク」

「そんなの買えるだけの財力があるの?」

「あるんだなぁ。ふふふ」

「どこからお金が降ってきたの?」

「仮想世界」

「ほんとに宝探ししてるんだ!」

由美子はびっくりして言った。

「毎日なにしてると思ってたんだ」

巧はやれやれと思った。

「いっやぁ~。そうと知ったからには、私もお小遣い稼ぎにいこうかしら」

「おお。来いよ」

「あにきー、頼りにしてますぅ」

「おっしゃ!」

「さっそく今晩行ってもいい?仮想世界のどの辺にいるの?」

そこで、巧は、はた、と気付いた。

「森の湖のそば。もしかするとシャッフル機能で全然違う場所に飛ばされてるかも」

「なんじゃそりゃ」

「できれば落ち合う場所を決めといた方がいいな」

それに、織音とのこともある。

「すまん。準備が必要だから、明日にしてくれ」

「えー」

由美子はしょうがないなと自室へ引き上げていった。


赤いマウンテンバイク。

本当に、欲しいのか?

そこが問題の焦点だった。

「僕はなんで欲しいって思ったんだっけ?」

そうだ、テツが欲しいって言ってたから。

「むー」

デバイスのマウンテンバイクの写真をにらむ。

僕はそんなにこれが欲しいわけじゃない。


カートに入れる、を押して、自分のコードを入力。

「てーてててってってて♪」

宛先の住所を携帯から調べてたったかた、と入力完了。

「テツ、喜べ!」

ぽちっとな。」

キンコン!

景気のいい音とともに購入完了。

数日で赤いマウンテンバイクはテツの元へ届く予定。

「あいつ、送り主がわからなくて戸惑うだろうけど、それでいいや」

テツがどれほど喜ぶことだろう、と、巧は自分のことのように嬉しかった。

巧は、自分の欲求より、他人の欲求をかなえることのほうがなにより大好きだった。


ところが。

数時間後、テツから携帯に電話がかかってきた。

「なんだ?どうした、テツ」

「巧、お前だろ!赤いマウンテンバイク」

「えっ、なんで?なんでわかっちゃったの?」

「俺はお前にしか欲しいもの打ち明けてないんだよ!」

「あちゃー」

「配送会社からうちに連絡があって、親父たちがよくそんなもの買える金があったな!って目をギロギロさせて言うんだよ。うち、ほんとびんぼーだからさ、もし仮想世界の宝探しで儲けても、うちにいれなきゃならないんよ。俺の立場わかって!」

「僕、そんなこととは思わなくて……」

巧は自分のしたことが裏目に出たようでおろおろした。

「でも、ほんと、ありがとう!俺、お前の気持ちだけでも嬉しいよ。親父たちはマウンテンバイク売り払っちゃうかもだけど、一回くらいは乗れるかもしれないし」

ずび、とテツが鼻をすする音が聞こえた。

「テツ……」

「ほんと、早く大人になりたいな。自分で稼いでびんぼーから抜け出すんだ」

「がんばれ」

「巧。俺、お前を親友と思うよ。仮想世界の宝探し、ダンジョン攻略とか、俺を仲間にして!」

巧にとって思ってもみない提案だった。ぼっちから抜け出せる。可能性が無限大に広がる。

「テツ。ありがとう」

「でもどうやって稼いだんだ?大金だったろ?」

「ギルドで仕事を請け負ったんだよ」

「ダンジョン攻略ではなかった、と」

「そうだよ。僕一人でできるわけないじゃないか」

「ふうん。まあ、今夜、また仮想世界いくんだろ?」

「行くにはいくんだが……、ちょっと片付けなきゃならない用事があってさ」

「じゃあ、明日は?」

「オッケー。そういや、僕の妹も来るよ」

「由美子ちゃんだっけ?」

「そう」

「パーティ新しく組めるじゃん。面白くなってきた」

「ほんとほんと」

巧は、なぜか一気にいい方向へ物事が転がっていくのを感じた。


「織音ちゃんのこともなんとかなる。いや、なんとかしよう」

今夜、もう一度織音と話そう、と巧は思い、夜が来るのが待ちどうしかった。




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